SNSにより旅行者と旅行関連企業の対等な関係づくりを推進

フォートラベル(株)「フォートラベル」

「旅行のクチコミサイトフォートラベル」は、2004年の開設以降、他社と一線を画するコンセプトで参加企業数、トラベラー会員数、口コミ数を増やし、月間300万人が利用する旅行特化型SNSへと成長した。現在は、旅行者と旅行関連企業の関係性に留意しつつ、企業側への情報提供にも力を注いでいる。

国内最大級のSNSサイトとして約300万人の利用者を獲得

 日本にさらなる旅行需要を生み出し、旅行マーケットの拡大に寄与すること。また、その結果として日本人の旅行文化に貢献することを目的に、2003年10月に設立されたフォートラベル(株)。同社では、翌2004年1月に旅行商品の検索と旅行記、口コミによる情報発信を中心とする旅行情報サイト「旅行のクチコミサイト フォートラベル」を立ち上げた。2005年1月には、価格比較サイトを運営する(株)カカクコムの完全子会社となり、2007年9月からはヤフー(株)の出資を得て事業を展開している。
 その名の通り、同サイトは旅行分野に特化したSNSである。サイト内の情報は、旅行会社などが掲載した情報と、トラベラー会員として登録した旅行者が投稿した口コミからなる。掲載・投稿された情報は、海外旅行と国内旅行とに大別され、ガイドブックのように旅行エリア・テーマのページにそれぞれ表示される仕組みになっている。海外旅行においては世界219カ国、2,234都市を網羅。国内旅行においては、全国47都道府県・市区町村別に旅行に関する情報を探すことができる。また、ダイビングや留学、温泉や家族旅行などのテーマから、旅行記や旅行会社を探すことも可能だ。
 同サイトは、国内最大級の旅行口コミサイトとして旅行者から高い支持を得ており、月間約300万人の旅行者が同サイトを利用している。2008年8月には、過去最高の320万人の利用があった。
 同サイトの運営費は旅行会社、航空会社、宿泊施設などから得られる広告収入によりまかなわれている。広告には、想定インプレッションベースのバナーなどのブランディング広告と、同サイトを経由して発生した成果に応じて料金が発生するアフィリエイト広告があり、両者の売上比率は1対1とほぼ同じだが、最近ではアフィリエイトによる売り上げがバナーを上回ってきた。旅行好きの会員が提供する良質な情報が利用者の潜在需要を喚起し、実際の契約につながっているためと考えられる。バナー広告収入に頼るサイトが多い中、同サイトの収益構造は確実に理想形に近づいていると言えよう。

他社と一線を画するコンセプトで旅行者と旅行関連会社の仲介役を果たす

 サイトコンセプトは、「旅行者と旅行業界が旅行について対等に情報の受発信・交換をするための、旅行業界横断型コミュニケーションプラットフォーム」である。インターネット上には、旅行会社のホームページや旅行者の旅行日記など、旅行に関する膨大な情報が蓄積されており、それらの中には、これから旅行へ行こうとしている人たちにとって価値のある情報も多い。ところが、情報が整理されていないために、必要としている人が必要な情報にたどり着けないという問題があった。この点に着目した同社では、旅行者と旅行業界をつなぐ仲介役として、旅行者の「知りたい」「伝えたい」「買いたい」という欲求と、旅行業界の「知りたい」「伝えたい」「売りたい」という要望をマッチングするためのコミュニケーション空間として同サイトを立ち上げた。
 参加企業は、2009年2月末時点で旅行会社1,220社、宿泊施設6万3,500施設、予約サイト100サイトなど合計で6万5,000を数える。これら企業の情報発信の場として用意されているのが、「カタログスタンド」「ニューススタンド」「ホテルスタンド」だ。
 カタログスタンドは、会社情報や店舗情報に加え、参加企業が得意とする地域やテーマに基づいた旅行情報を作成・編集して掲載できる場。掲載料無料のエコノミー版と、有料のビジネス版の2つがある。利用者へのアピール面がより充実した有料版では、自社のサイトにリンクを貼ることができるため、顧客を自社サイトへ誘導してアクセス数を伸ばすことも可能である。2009年1月末現在のカタログスタンド(エコノミー版、ビジネス版)の出店数は1,220店に上る。ニューススタンドは、各国の政府観光局などがフェスティバルなどのイベントや治安情報などを発信する場。ホテルスタンドは、カタログスタンドの宿泊施設版である。2009年2月にスタートしたばかりのため、これから出店数の拡大を図っていくところだ。
 一方、トラベラー会員は、同じく2月末時点で6万6,267人。無料登録してマイページを持ち、そこに旅行の体験記や口コミ、旅行中に撮影した写真の投稿ができる。2月までに投稿された旅行記は27万4,641件、口コミ情報は10万7,375件、旅行写真は506万3,067件。トラベラー会員、および旅行記・口コミの件数ともに、サービス開始以降、右肩上がりで推移している。また、トラベラーの質問にトラベラーが回答する「教えてトラベラー」への投稿は6万4,487件に及び、質問への回答率は96%と非常に高い。
 トラベラー会員のプロフィールを見ると、男女比は半々で年齢は10代から60代以上と幅広い。特に、旅行市場で注目されている50歳以上のシニア世代の利用率が13%もあり、アクティブに投稿している点は特筆すべきと言える。
 旅行者の消費チェーン全体をサポートすることも、同サイトのもうひとつのコンセプトである。潜在需要の喚起から旅行商品探し、予約後の準備や情報収集、さらに旅行後の写真や情報の整理、友人・知人への報告までの各ステージで発生するニーズに、インターネットを使って対応していこうというのだ。同サイトが多くの利用者を獲得している秘訣は、同サイトのサービスが、施設検索と予約といった旅行商品探しに限られている旅行販売系サイトとは一線を画しているところにある。
 また、同社では2009年1月に、投稿された旅行記と写真を集めたムックを発行した。あまりネットを利用しない層へのアピールが主目的だったが、印刷媒体で自身の作品を見られる点が投稿者からも好評であった。そのほか、プロのカメラマンを呼んで、撮影指導付きのオフ会を開催するなど、会員との結び付きを考慮した取り組みも多い。

旅行関連企業へのマーケティングデータの提供にも注力

 同サイトの運営に当たり留意している点としては、情報発信・投稿のしやすさと、情報の閲覧性を高めることが挙げられる。これには、専用の入力フォーマットを用意することで対応している。
 次に、トラベラー会員と旅行関連企業との関係性に留意していることが挙げられる。同サイトのコンセプトにあるように、両者が対等な立場で情報交流を行うためにはパワーバランスがキーとなるためだ。
 今後の取り組みとしては、トラベラー会員向け機能を充実させていく計画。特に、モバイルによる投稿機能を充実させたいとの意向である。現在はまだ、海外ローミング費などの問題もあるが、より簡便に現地からでも投稿できるシステムを模索中である。また、会員の旅行時期、費用、同行者などの情報をマーケティングデータとして旅行関連会社へ提供していくことも考えている。同社では2009年1月に年末年始の旅行動向調査結果を発表したが、今後も旅行に関する調査を継続的に行い、業界向けに発信していきたいとしている。こうした取り組みによって、次のビジネスステージが見えてくるのだろう。

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月刊『アイ・エム・プレス』2009年4月号の記事