コラボレーション相手とのパートナーシップをベースとするコネクト・アンド・デベロップ戦略を展開

プロクター・アンド・ギャンブル(株)(P&G)

世界最大の日用消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(株)( P & G ) は2000年、“コネクト・アンド・デベロップ”(C+D)と呼ばれるオープン・イノベーション・モデルを打ち出した。C+D戦略の展開においてはパートナーとのwin-winの関係性構築を重視。高い成果を上げている取り組みを紹介する。

160年以上堅持してきた自前主義から脱却

 「ビューティケア」「ヘルス&ウェルビーイング」「ハウスホールドケア」などの分野で、年間約835億ドルの売り上げを誇る世界最大の日用消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)。同社では2001年、“コネクト・アンド・デベロップ”(C+D)と呼ばれるオープン・イノベーション・モデルを打ち出し、それまでの自前主義から脱却。外部の幅広いリソースを積極的に活用する方針へと転換を図った。
 1837年に米国オハイオ州シンシナティで創業したP&Gは、その後160年以上の間、「すべてを自分たちで行う」自前主義を堅持してきた。自ら開発した高付加価値商品による他社との差別化を成長の源泉としていたのである。実際にP&Gの高い商品開発力は数多くのヒット商品を生み出し、多くの成果をもたらしてきた。
 しかし、1990年代の後半には、その状況は変化していた。まず外的な要因として、ITの進展などによりグローバル化が進行。イノベーションのペースは向上し、新奇性の高い商品を発売してもすぐにフォロワーが出現するようになっていた。また、生活者のニーズも高度化し、それを充足するための社内資源も頭打ちになりつつあった。
 このような変化は、同社の業績に大きな影響をもたらした。新発売した商品の成功率は約35%にまで低下。また、売り上げの伸び率が約9%にとどまっていたのに対し、R&D(研究開発)にかかわる費用は約20%増加し、利益率は低下した。そして、これらの結果は株価の下落にまでつながったのである。2000年にCEOに就任したアラン・G・ラフリー氏が、このような事態に対応して打ち出したのが、C+D 戦略だ。
 P&Gには9,300人もの内部研究者が在籍しており、その研究開発力は同業他社と比較しても非常に高いレベルにあると言える。しかし、社外に目を向ければ、関連分野の研究者は約150万人にも及ぶ。これらの外部リソースを活用することによって、より多くのイノベーションを迅速に実現しようとする考え方がC+D 戦略の基本となっている。

競合企業ともコラボレーションを展開

 C+D 戦略の具体的な成果の代表例としては、ユニ・チャーム(株)とのコラボレーションにより生み出されたハンディワイパー「スウィッファー・ダスター」の事例が挙げられる。
 P&Gでは当初、自前で新たなハンディワイパーを開発しようと考え、少なからぬ投資を行っていた。そんな中、日本においてユニ・チャームが同分野で優れた商品を販売しているとの情報がもたらされた。
 自前主義からの脱却を図り、C+D 戦略を打ち出していた同社では、すぐにユニ・チャームに協業に向けた関係構築を打診。その結果、ユニ・チャームがコア技術をライセンス供与し、P&Gがロイヤルティを支払って販売するというコラボレーションを実現し、米国での販売を開始。現在「スウィッファー・ダスター」を含む「スウィッファー」ブランドは、同社における基幹ブランドの水準となっている年間売上高10億ドルを見込めるブランドへと成長している。
 この事例において注目すべきポイントは、P&Gにとってユニ・チャームが、紙おむつなどの分野で日本市場における競合企業であるという点だ。つまり、生活者に新たな価値を提供できるのであれば、コラボレーション相手にタブーは設けないということである。また、「スウィッファー・ダスター」の発売当初、ユニ・チャームが制作したTVCMをほぼそのままのかたちで放映するなど、コラボレーションの範囲をR&Dにとどめず、ビジネス全般に適用している点も注目に値すると言えよう。
 このような取り組みにより、2000年に4.8%であった同社の売上高に対する研究開発費の比率は、2008年には2.7%に低下。また、2001年に打ち出した、外部リソースから調達した要素を持つ新製品の比率を当時の10%から50%にまで高めるという目標は、2007年に予想より早く達成されることとなった。

Win-Winの関係性を構築

 C+D 戦略の展開において重視されているのは、コラボレーション相手とのパートナーシップを尊重し、Win-Winの関係性を構築することだ。コラボレーションによってP&Gだけにメリットが生じたり、反対にパートナーだけにメリットが生じたりする関係性が永続するはずがないという考えから、お互いにメリットがあり、さらに「1+1」が2以上に発展するかたちでのアライアンスの組み方を常に模索している。従って、コラボレーションのかたちもさまざまであり、「スウィッファー・ダスター」のようにライセンス契約というケースもあれば、共同開発というかたちを採ることもある。
 なお、同社のC+D 戦略には、一方的に外部リソースを活用するだけでなく、同社が保有する技術や商品、ブランドなどのリソースを外部に提供することも含まれている。同社に眠る知財や技術を外部に提供することで、新たな価値を創造しようというわけだ。この分野でも、例えば日本市場において、同社が提供したカルシウム技術を活用した特定保健用食品(飲料)が販売されるなど、多くの成果が現れつつある。
 前述の「スウィッファー・ダスター」の事例は、大手企業とのコラボレーションであるが、同社ではコラボレーション相手を大手企業に限定しているわけではない。実際に2004年に米国で発売されたポテトチップス「プリングルス」の新シリーズでは、ポテトチップスの1枚1枚に絵や文章を印刷するという技術を、イタリアでパン屋を経営する大学教授が開発したインクジェット方式の印刷機能を持つ製パン機器をベースに導入し、大きな成功を収めている。

外部リソースの導入が社内のリソースを活性化

 同社では、Web上で同社が必要としている技術やアイデアを公開するなどして、企業の大小、さらには法人・個人の別を問わず、幅広くコラボレーション相手を募っており、その結果、2007年では約4,000件のアイデアやプランが寄せられた。ただし、商品化までのスピードを重視し、また、同社が求める品質基準を満たすために高いテスト基準を設けていることから、実際に採用されるのは一部にとどまっているとのことだ。ちなみに、日本からの応募は約4,000件中1%に満たない約30件であったとのことであり、同社では今後、「世界中でも最も要求が高い」生活者やその生活者に鍛えられた日本企業とのコラボレーションを進めるため、2009年初頭にはWebサイトの日本語版の立ち上げを計画している。
 なお、C+D 戦略の展開においては、自社スタッフ、特にR&D部門のモチベーションの低下が懸念され、当初は自前主義にこだわる研究者などからの反発もあったようだ。しかし、実際にはC+D 戦略の導入後、商品開発のスピードが向上したことにより、R&D部門のモチベーションはむしろ増大。自社が強みとしている分野に特化して自社R&Dを活用したことからR&Dのレベルも向上したとのことだ。つまりは、外部リソースの導入が社内のリソースの活性化にもつながったということであり、その結果、さらなる商品開発ニーズが発生し、また新たな外部リソースを必要とする状況を生み出すという好循環が定着しつつあると言えよう。

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このサイトにはP&Gが世界レベルで探しているテクノロジー案件やP&Gの社内で眠っているテクノロジーを掲載。2009年初頭には同サイトの日本語版を立ち上げる。


月刊『アイ・エム・プレス』2009年1月号の記事