人気のプランと商品の2本柱でさらなる口コミの活性化を図る

(株)ウィルコム

安心、安全で便利なネットワーク環境を提供しようと、1995年に事業を開始し、現在では国内で唯一のPHSによる通信サービスを提供する(株)ウィルコム。学生を中心に、文字通り口コミが口コミを呼び、顧客が顧客を呼ぶ好循環の形成に成功している。顧客による自発的な口コミや、顧客によるファンサイトの存在は、同社の商品やサービスの品質の裏付けといえるだろう。

口コミが発達した背景

 より快適で利便性の高い通信サービスとネットワークの提供を、ワイヤレスコミュニケーションを通じて実現したいという願いを込め、2005年2月に(株)DDIポケットから社名変更した(株)ウィルコム。1994年に企画会社を設立、1995年に事業を開始し、1997年に全国でほぼ一斉に64kbpsの高速通信のサービスを可能にしたことで、競合企業間で優位に立つことに。2001年にはパケットデータ通信の定額サービス(当時、最高32kbps)を開始し、モバイルデータ通信定額制を強みに、携帯電話との差別化に成功した。2008年には(株)NTTドコモがPHS事業から撤退したことで、日本国内でのPHSサービスでは唯一の企業に。直近の加入者数は9月末で458万6,500人に達している。
 「最終的に加入を決めたのはどんな情報によるか」という自社アンケートを行ったところ、「知人・友人・口コミ」の比率が同社を含めた競合4社の平均の2倍(23.6%)に達したことからもわかるように、元々口コミでの新規加入が多いのが同社の特徴である。他社と比べテレビなどの4大メディアへの広告出稿が少ないことが、逆に口コミを促進したと同社では分析している。
 ここ1年くらいの傾向では、大学サークルなどのメンバー数人で加入するケースが多く、口コミが口コミを呼ぶ、良い循環になっているという。新規加入における最初の入り口としては、インターネットや販売店の店頭などがあるが、知人・友人同士の口コミが広がっていったところがやはり大きい。特に、紹介キャンペーンの実施期間中は新規加入の10~20%が紹介による加入であり、同社では前述の「知人・友人・口コミ」同様、この数値においても他社に抜きん出ていると見ている。
 新規加入者の多い層は、①18~19歳を中心とした高校生・大学生など、②スマートフォン希望者、③リーズナブルな料金体系を求める30~40代――の3つに大別される。料金体系に加えて、他社と比較した場合に10分の1ほどでしかない低電磁波が妊婦などに受け入れられることもあるという。
 前述のように、元々口コミによる新規加入が多い同社だが、加入者数に大きな変化が表れたのが、「ウィルコム定額プラン」(以下、「定額プラン」)を開始した2005年5月以降である。このプランはウィルコム(ウィルコム沖縄を含む)の電話同士の音声通話定額制で、国内では初の24時間通話定額制サービスである(月額2,900円。eメールの使用料含む)。
 新規加入を牽引しているのが、メインのケータイとの併用で2台目として同社製品を利用する10代後半から20代であるが、同時に10代は同社製品をメインのモバイルツールとして使い始めた人たちも増えている。10代の顧客が増えた背景には、2008年2月に発売された同社製品「HONEY BEE」が広く受け入れられたことがある。「定額プラン」のサービスの良さに加え、製品のデザイン性を若者の趣向にマッチさせたことで、これが火付け役となり、口コミで高校生や大学生などに波及していったのである。

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人気商品の「HONEY BEE」

口コミを“後押し”する

 顧客によるファンサイトが多いという恵まれた環境の中で、同社では口コミを醸成する取り組みをいくつか展開している。最近始めた「Happy Campus」というWebサイト上のコンテンツでは、インターカレッジでサークル活動を行う大学生が、実際にサイト上で使い方を紹介。また、2008年6月から始めた同社社員が自社サイト上で運営する「ウィルコム社員ブログ」(以下、「社員ブログ」)は、ユーザーや同社製品に関心がある顧客層への情報発信が狙い。ネット上に散在する顧客の関連サイトをコメントやトラックバックを通してつなげる役割もあり、かつ社員ブログをひとつの媒体に、サイトへの誘導率を高める狙いもある。
 それ以外にも、2008年8月からはCRM機能を強化したユーザーへのeメール、通称「CRMメール」の配信を始めた。以前と比べ顧客分析に力を入れ、この半年で顧客のセグメンテーションを進め、eメールを頻繁に使うユーザーやグループ間で話すユーザーなど、セグメントに合ったコンテンツなどの情報を、優先順位に基づき3つに限定して発信。eメールは口コミの元になるため、その“後押し”という側面もあるが、評判は上々だという。
 また、紹介キャンペーンと口コミは常に連動することから、同社では紹介キャンペーンの継続が大切であると考え、今後もキャンペーンを実施していく意向。この11月7日からは「ご紹介de ハッピー♪」キャンペーンを展開している。なお、紹介キャンペーン応募者の特典として、直近では紹介者と被紹介者の双方へ2,000円分のクオカードなどをプレゼントするスタイルを取り入れている。

好循環を生む人気プランと商品への支持

 同社で行った分析結果によると、紹介キャンペーン経由の新規顧客のほうがその他の新規顧客よりも解約率が低いという。つまり、紹介キャンペーン経由の顧客はLTV(Life Time Value)が高く、優良顧客といえるとする同社では、顧客が顧客を呼ぶといった良い循環になっていると認識している。
 同社の強みである「定額プラン」は話せば話すほどお得な仕組みとなっているため、紹介キャンペーンによって通話の対象が増え、構造的に解約しにくくなるということも挙げられるだろう。このように、お得性を打ち出し、プラン自体が口コミの元になっていることはまさに強みであり、こういった情報で自社サイト上の「社員ブログ」や「Happy Campus」といったコンテンツに誘導して、再び情報を拡散するというサイクルが、さらに口コミを高める効果になると考えている。
 2007年まで10%前後だった新規加入における紹介率は、2005年から導入した「定額プラン」が根付いてきたことと、2008年2月以降の紹介キャンペーンでキャッシュバックの額を引き上げたことの相乗効果により、2008年2月から徐々に上がり、4月には20%を超えた。この背景には、前述の「HONEY BEE」が特に10代に受け入れられたことで、通話の対象が次第に増え、顧客が各自でWebサイトを作成したり、知人・友人と話して口コミを発生させたことの影響も大きい。口コミを増やしてきた活動が功を奏し、文字通り、客が客を呼ぶ好循環が醸成されているといえるだろう。
 さらにコミュニティを活性化させるため、この11月からは、最大7名での同時通話が可能なサービス「ウィルコムミーティング」や、スマートフォン同士で手描きによる文字やイラスト、写真をやりとりできるサービス「手描きチャット」のサービスを始めた。今後はこれまでのキャンペーンや顧客の分析を積み重ねるとともに、こういった新しいサービスを通して、さらなる口コミの活性化を図りたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年12月号の記事