会員同士のコミュニケーション強化を通じてレンタル利用を促進

(株)ツタヤ・ディスカス

TSUTAYAグループでオンラインDVD・CDレンタル事業「TSUTAYA DISCAS」を展開する(株)ツタヤ・ディスカス。同社では2008年6月、会員からの要望に応えるかたちでWebサイト上の「レビュー広場」コーナーにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)機能「TSUTAYA DISCASコミュニティ」を追加。ユーザー同士の直接コミュニケーションを強化することにより、同コーナーの活性化を図り、レンタル利用の促進につなげている。

会員制DVD・CD宅配レンタルサービスを展開

 DVD・CDレンタルおよび販売最大手のTSUTAYAを中核企業とするTSUTAYAグループに属する(株)ツタヤ・ディスカスは、2006年10月に同グループの(株)レントラックジャパンから分社するかたちで設立。同社が展開してきたオンラインDVD・CDレンタル事業「TSUTAYA DISCAS」を継承した。
 「TSUTAYA DISCAS」はインターネットを通じて予約されたDVD・CDを自宅に届ける会員制の宅配レンタルサービスだ。料金プランは月額1,974円で、あらかじめ予約したDVD・CDを月間最大8枚までレンタルできるAプラン、月額2,079円で在庫があるDVD・CDなら無制限にレンタルできるMプランなど。いずれも入会金は無料。また、配送料は往復とも月額料金に含まれており、返却期限も設けていないため延滞料金も発生しない(シリーズ作品などをまとめてレンタルできる「スポットレンタル」を除く)。18歳以上であれば誰でも会員登録できるが、料金支払い方法をクレジットカードに限定しているため、クレジットカード番号の登録が必要となる。
 「TSUTAYA DISCAS」の最大の特徴は、TSUTAYAグループの強みを活かした品揃えの豊富さだ。例えば2008年7月10日現在のDVD在庫枚数は8万1,362タイトル、211万2,785枚に及んでおり、特に人気タイトルについては数千枚レベルで入荷しているため、借りたいタイトルを借りられないことは少ない。
 会員数は年々増加しており、2008年6月現在、約46万5,000人に達している。会員のクラスターについては、平均年齢が35歳前後、男女比は6:4程度。首都圏、関西圏などの都市部居住者で、比較的高収入かつ多忙な生活を送っている人が多いという状況である。
 「TSUTAYA DISCAS」では、2004年からWebサイト上に「レビュー広場」コーナーを設け、ユーザーから投稿されたレビューを掲載しているが、さらに2008年6月、会員の要望に応えるかたちで同コーナーにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)機能「TSUTAYA DISCASコミュニティ」を追加。会員同士の直接コミュニケーションを強化することにより、同コーナーの活性化を図っている。

累計レビュー数約30万件に及ぶ「レビュー広場」

 同社がWebサイトに「レビュー広場」を設けた狙いは、会員が商品(作品)に出会う機会を増加させること。特にレンタルではセルの場合と違い、「いろいろな作品を観てみたい」という考えから、さまざまなかたちでの作品情報を求めるユーザーが多く、また、特にコアな映画・音楽ファンの中には作品に対する意見・感想を発表したいというニーズも高い。これらの双方を満たす「場」として用意したのが「レビュー広場」というわけだ。
 レビューの投稿は、最近では1日当たり200件前後に及んでおり、累計レビュー数は約30万件にも達している。投稿されたレビューの内容についてはスタッフが定期的にチェックし、公序良俗や法律に反するなど、会員規約に抵触するレビューは削除するなどの措置をとっているが、同社が個人を特定できる会員のみに投稿を認めている(閲覧は非会員も可能)ことから、匿名性の高い掲示板などと異なり、不適切な投稿は少ないとのことである。
 レビュー投稿を行っている会員は全会員の6%程度。コアな映画・音楽ファンが多く、中には最大文字数である2,000字近くのレビューをほぼ毎日投稿する“ヘビー・レビュアー”も存在するとのことだ。内容に関しては、作品に対するポジティブな意見・感想が多いが、ネガティブな意見・感想も一定割合存在するとのこと。このような意見・感想に対し、同社としてはあくまでも「場」の提供に徹底し、客観性を保つという観点からあえて排除していない。
 レビューの投稿を促進する仕掛けとしては、レビュアーランキングを公開している。これは、会員が投稿したレビューについて「気に入った」と投票された数の累計をランキング形式で集計・発表するもの。月間ランキングの上位100名については、1ポイント=1円換算で利用できる「ディスカス・ポイント」50~500ポイントを進呈している。
 2008年6月に「レビュー広場」に「TSUTAYA DISCAS コミュニティ」が追加されたことにより、新たにほかの会員が投稿したレビューに対するコメントの投稿ができるようになった。従来からほかのレビューへのコメントを新たなレビューとして投稿する会員が少なくなかったことから追加したもので、会員同士のコミュニケーションを通じて、作品に対する多角的な意見・感想を引き出すとともに、投稿意欲の喚起にも役立っているようだ。同時に追加された、気に入ったレビュー、お気に入りのレビュアーなどの登録ができるマイページ機能や、レビュアー名検索機能なども、「より良いレビューを書きたい」という意欲の増進につながっているようである。

ツタヤ・TOP ツタヤ・マイページ

「TSUTAYA DISCAS」Webサイトのトップページ( 左) と、「TSUTAYA DISCASコミュニティ」(右)。会員同士の直接的なコミュニケーションを可能にした

映画・音楽コミュニティとしての地位確立を目指す

 「レビュー広場」に投稿されたレビューについては、現在のところ、会員がレンタルするDVD・CDを選択する際の参考情報のひとつという位置付けであり、基本的にそれ以外のかたちでの活用は行っていない。そこには、会員規約上では投稿されたレビューの著作権は同社に帰属するが、だからと言って勝手にほかの目的で利用することに対してはユーザーの抵抗があるのではないかという判断がある。しかし、例えば2007年の夏には、あらかじめ販促利用の可能性を明示したキャンペーンとして、DVD「ツインピークス」に関するレビューを募集し、その内容をTSUTAYA店頭での販促に利用するといった施策を行っており、今後もこのような展開については試行を続けていく意向だ。ほかにも、投稿したレビューを投稿者自身のブログや、投稿者が参加するほかのSNSに容易にコピーすることができるようにするなど、インターネット上での拡張性の強化に取り組むことも検討している。
 作品に対するレビューの投稿数や内容、レビューに対するコメント数などと、当該作品のレンタル数の相関については現在検証を進めている段階であり、現状ではその定量的な関連性は明らかになっていない。しかし同社では、レビューを作品選びのための客観的指標として活用している会員は相当数に上っていると認識しており、今後も「レビュー広場」の充実に注力していく方針だ。特に、「TSUTAYA DISCAS コミュニティ」の追加を通じて、会員同士のコミュニケーションがレビュー投稿の活発化に通じることに確信を持ったことから、今後もコミュニケーション促進のためのサービス・機能の拡大を図り、いわば「映画・音楽コミュニティ」としての地位を確立していきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年9月号の記事