安易な事業拡大を避けて参加者の満足度向上に注力

(株)ハックルベリージャパン

(株)ハックルベリージャパンが北海道・ニセコのリゾートホテルと隣接する自社農場を拠点に提供している自然体験ツアーのキーワードは「本物」。地域社会との連携の中で自然の農業を中心とする本物志向のツアーを提供している。同社では今後もニセコ地区に限定した取り組みを継続し、ソフトのさらなる充実を図ることで、お客様の満足度を高めていく意向だ。

「本物」をキーワードとする自然のままのツアーを提供

 1986年に創業したスキューバダイビングのプロショップを母体に1990年に設立された(株)ハックルベリージャパン。同社は系列事業会社のひとつである(株)ハックルベリー北海道が運営する北海道・ニセコのリゾートホテル「ホテルJファーストニセコ」と隣接する自社農場「ハックルベリーファーム」を拠点に、通常の観光旅行商品とは一線を画した自然のままのツアーを提供している。
 「ホテルJファーストニセコ」が立地する北海道・ニセコ地区は、スキーシーズンには多くのスキー客で賑わう観光地であるが、それ以外の季節はオフシーズンとなり、休業する施設も多い。そんな中で同社が、2002年から年間を通じた滞在型ツアーとして提供しているのが自然を体験するツアーだ。
 同ツアーのキーワードは「本物」。近年、さまざまな食品偽装など、世の中にニセモノがはびこる中で、農作業体験などを通じて本物を感じてもらうことが大きなテーマだ。ツアー参加者は東京ドーム3個分、約4万坪の規模を誇るホテルJファーストの自社農場である「ハックルベリーファーム」で、専属スタッフの指導の下、野菜ファームでの植え付けや収穫などを実践でき、さらにホテルでは収穫した作物を使った料理を味わうこともできる。また、農場の一部(3坪)を1シーズン(5月~10月下旬)1万円で借り受け、レンタル・ファームとして家庭菜園のように利用することも可能だ(収穫期に来訪できない場合は、スタッフに収穫を代行してもらい、作物を送ってもらうこともできる)。いずれの場合も、種、苗、農耕機械、耕具など必要な資材は基本的に用意されており、また、農場レンタル以外では追加費用も発生しないため、ツアー参加者は気軽に本格的な農業を楽しむことができる。
 野外での農作物の収穫が難しい冬季でも温室での収穫ができ、また、年間を通じて酪農も可能である。
 なお、同社は日本航空と代理店契約を結んでおり、その取り扱い実績から、比較的有利な条件で航空便を確保することができている。そのメリットを活かし、東京、大阪からの航空便と組み合わせたリーズナブルな価格のパッケージ・ツアーとして提供されている点も同ツアーの特徴と言える。
 同社では「ホテルJファーストニセコ」の宿泊のお客様に対し、農業以外にも、ラフティング、熱気球、トレッキング、フィッシング、ホーストレッキングなどの各種オプション・メニューを用意しており、いずれも好評を博しているが、特に最近では農業の人気の高まりが顕著であるとのこと。「食の安全」が大きな社会問題となる中、「本物」の食品を求める生活者が増加していることが、その背景にあるようだ。

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東京ドーム3個分、約4万坪の規模をもつハックルベリーファーム

大都市圏の居住者を中心に徐々に人気が高まる

 同ツアーへの参加者は東京、名古屋、大阪など、大都市圏の居住者が中心。夏休み期間では子供に自然体験をさせようとするファミリー層、それ以外の季節では定年後の生活を充実させようとする高齢者層などが多い。特にファミリー層においては、子どもに自然体験をさせたくても、親自体に経験がなく教えられないことから、専属スタッフが必要なレクチャーをしてくれることが大きな魅力となっているようだ。
 そのほか最近では、社員同士の交流や連帯感づくりなどを目的に、企業研修に利用されるケースも増えているとのことである。
 ツアー参加者数は2002年のツアー開始以来、延べ3,000人近くに及んでいる。うち10%程度がリピーターとなっており、特に近年ではリピーターが増加する傾向にある。中には長期滞在や永住を考えるリピーターもおり、同社としてもこのようなニーズに応えるため、今期、長期滞在型のコテージの新設に着手している状況だ。
 同社では、あまり急激に参加者が増えてしまうと、十分な満足を提供できなくなるという考えから、やみくもな集客は行わないという方針を貫いている。現状での集客活動はWebサイトでの訴求のほか、系列企業が東京、大阪で運営する飲食店で告知をしている程度である(そのほか、2005年12月から提携関係にある(株)JALツアーズがツアー商品として販売している)。また、参加経験者に対してもダイレクトメールなどによる積極的なアプローチは行っておらず、電話やeメールなどで寄せられる問い合わせに対応するにとどまっている。
 ただし、情報を求めているお客様に対しては十分な情報を提供するという観点から、Webサイトの充実には注力している。例えば、農場の近況などの写真は随時アップし、また、作物の生育状況などの情報もできる限りリアルタイムで提供している状況だ。

地域社会との連携に留意

 同社が同ツアーの運営において留意している点のひとつに地域社会との連携がある。同社の「ハックルベリーファーム」は、現状では自社所有の土地で展開しているが、当初は地元の農家から土地を借りてスタートしたものであった。また、当然のことながら、当初は農業に関するノウハウも有していなかったため、地元の農家からの指導を受け、徐々に蓄積していった。このように地域社会からの協力を得ながら、ツアーの質を高め、参加者を増やすことで地域活性化に貢献しているというわけだ。
 また、スタッフの教育にも力を入れている。特に農作業では、未経験のお客様が多いため、スタッフがインストラクター役を務め、スタッフとお客様とともに作業を楽しむことがひとつの魅力ともなっているのだが、この結果、お客様との距離感があいまいになり、失礼な応対をしてしまう懸念がある。同社ではこのような認識から、スタッフに対して、あくまでも「お客様をもてなす」という意識の徹底を図っているとのことだ。

地域限定の取り組みの中でさらなるソフトの充実化を図る

 国内ツアーでは、観光名所などを柱とした見学型・周遊型の商品が多く、同社が提供する自然体験ツアーのような体験型・滞在型商品は少数派と言える。しかし、前述のように「食の安全」が社会問題化する中、生活者の「食」への関心は確実に高まっており、また、1997年の京都議定書策定などを契機とするエコロジーブームも近年さらに活発化している。しかし、同社としてはこの事業を急拡大することは考えていない。また、ニセコ地区以外で同様の事業を展開することも想定していないとのことだ。
 その理由としては、同社が重視している地域社会とのつながりが一朝一夕では築けないことが挙げられる。ニセコ地区では1993年、当初は沖縄で運営するスキューバダイビングスクールの閑散期となる冬季において、ダイビング・インストラクターの仕事を確保することなどを目的に施設を借り受けるかたちでホテルの運営をスタート。その後、施設を購入するとともに、長期に渡る取り組みの中で地域に溶け込み、周囲の農家などの協力を得て、自然体験型のツアーを実現させた。このような取り組みには長い年月が必要であるため、同社は今後もニセコ地区に限定した取り組みを継続し、その中で付加価値の高いサービスのさらなる充実を図ることで、参加者の満足度を高めていく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年8月号の記事