ペット市場に潜在化していたニーズを掘り起こしたペットシッターサービス

(株)日本ペットシッターサービス

景気の好不調に関係なく市場を拡大化させてきたペット業界は、近年の小型犬ブームや単身世帯数の増加、少子高齢化などの時流も重なり、さらなる成長が見込まれている。そんな中で、モノではなくサービスによって新たな市場を掘り起こした(株)日本ペットシッターサービスの市場開拓手法、今後のビジネス展開を紹介する。

成長を続けるペット産業に伴う新サービス

 日本におけるペット市場は1965年以降、急速に成長したといわれる。また、同市場は景気の良し悪しに関係なく伸張しており、市場規模は今や2兆円と見られている。特に近年は単身世帯数の増加や、小型犬ブームなどの影響でペット飼育数は急速に増え、現在は全世帯の約4割が、なんらかのペットを飼育しているというデータも出ている。今後も少子化・高齢化という社会動向を考えると、ペット飼育数はまだ増加傾向を維持していくというのが関連業界の見方だ。
 そんな状況下で、ペットに関するサービス業の需要も増えており、近年は飼い主に代わってペットの散歩や餌やりなどの世話を代行する「ペットシッターサービス」が注目されている。

通販事業の顧客サービスとして始まった“お散歩代行”

 (株)日本ペットシッターサービスは、ペットシッターにフォーカスを当てたビジネスを展開する、業界でも先駆けの企業だ。小型犬から大型犬、ネコ、小動物を対象に、1回1時間の世話を基本にサービスを提供している。
 同社のペットシッターサービスの源は同社親会社である(株)アートの一部門にさかのぼる。アートはペット用のシャンプーやリンスの製造・卸を本業としているが、このほか、一般ユーザーに向けて、さまざまなペット用品を提供するカタログ通販事業も手掛けている。
 アートがペットシッター業に参入したのは、通販事業の顧客サービスとして、東京23区内でイヌの散歩を無料で代行するサービスを始めたのがきっかけだった。これが好評を博したことから、想定以上の需要があると見込んだアートは、1996年にペットシッター事業部を設立して、ペットの世話代行をビジネス化。これがペットシッターサービスの始まりとなったわけだ。
 事業化とともに課題であった遠隔地へのサービス提供を実現するために、1998年にはフランチャイズシステムを確立。今では(2008年6月現在)加盟店も北海道から九州まで全国78店舗、100名を超えるペットシッターを抱えるまでに成長している。なお、需要は都市部に多いため、都市部を中心にした都市型サービスとしての事業展開になっている。
 同社ではフランチャイジーに対して、ペットシッターの実務指導など、経営全般に関する経営コンサルテーションを主軸に、開業までのサポートを行っている。サポート内容は、加盟店ホームページの作成、研修指導、広告チラシ、ペットシッターの名刺、店舗用封筒、店舗用ゴム印などで、これらはすべて開業資金(税込み56万7,000円)でまかなわれる。加盟店はエンドユーザーから直接、受注するほかに、本部に申し込みのあった顧客の紹介も受けることができる。開業半年から1年で軌道に乗れば、約500人の顧客獲得が可能という。また、本部へ支払う毎月の加盟店料も、規模にかかわらず1万5,000円と安価に設定している。

ペット文化の新しい習慣に伴い生まれた市場

 2002年ごろ、某金融会社の小型犬を使ったCMのヒットによって、小型犬のペットブームが巻き起こった。これは従来の番犬として屋外で飼うという感覚から、愛玩動物としてイヌを室内で飼う世帯が増加した時期でもあったという。
 これはペットが家族の一員として認識されてきた市場の変化でもあった。そんな時代の変化に合わせて、同社でも2002年ごろから加盟店舗が急増し、ペット産業に新しいビジネスと市場が生まれた時期であったことがうかがえる。
 これまでペット販売店は売ったあとのアフターフォローに対応できなかったことを踏まえ、同社はいち早く、ペットの世話をするサービスに着眼して潜在化していたニーズを掘り起こし、新たな観点から市場を開拓していった。ちなみに、同社のサービスを利用する顧客の属性はファミリー層が主流で、その比率は約6割に達しているが、近年は独身世帯層が増加傾向にあり、約3割に達しているという。

大手企業との業務提携

 ペットサービスの老舗である同社では、新規参入の相次ぐペット業界において、今後も差別的優位性を維持し続けるためには、ペットシッターのサービス品質の維持が決め手になると認識している。そのため、独自マニュアルに基づくペットシッター育成のための実務指導と、きめ細やかな研修に力を入れている。さらには、同社が培ったノウハウを基に、「顧客からの信頼獲得」「固定客の作り方」「収益の向上方法」なども加盟店希望者に指導する。
 ペットシッターのサービス品質維持・向上に取り組んできた成果として、2003年にANAマイレージクラブとの業務提携をはじめとして、JTB西日本メディア販売事業部、宅建ファミリー共済会、日本生命保険相互会社、アリコ・ジャパンなど、さまざまな会員クラブ企業との業務提携が実現し、各会員からのペットシッター依頼も受注している。ちなみに、業務提携は同社からアプローチしたわけではなく、提携先の企業側が事前に同社サービスの品質を調査した上で持ちかけてきたとのこと。今後も提携企業は増えていく見通しだ。
 目下の課題は、業務提携先が全国展開をする大手企業であるため、これに合わせたサービスネットワークを構築すること。現在、今後3年以内に全国400店舗を目標に加盟店を拡大するべく、ペットシッターの育成に注力している。全国400店舗体制が確立されると、全国の都市部からの依頼に対応できると同社は目算している。
 また、各フランチャイジーではペット用品の物販も行う。現在、1店舗当たり約400人の顧客を持っており、将来的に全国400店舗体制が実現すると、400×400の顧客基盤を持つことになる。これは、ペットシッターサービスの市場開拓から、ペット用品販売における有力な販売チャネルの開拓までを直結させた新しいビジネスモデルともいえる。

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ペットシッターは未経験であっても、約6カ月の実務研修を経て開業できる

ペットシッターサービス業の社会的認知が業界発展のカギ

 今後、ペットシッター業界全体の発展のためには、ペットシッターサービスという職業に対する社会的認知が欠かせない。日本は欧米に比べて、ペットシッターという職業に対する認知が進んでおらず、見知らぬ他人に自宅のカギを預けることにはまだ抵抗感がある。同社では、顧客からの信頼獲得のために、携帯電話のカメラ機能を使って、サービス開始時には依頼者宅到着時のペットの様子、サービス終了時には戸締まりが完了した証として依頼者宅の玄関ドアノブを撮影して依頼者の携帯電話に写真付きメールでお知らせするなど、顧客満足度・信頼感向上のための工夫をしている。
 また、日本のペット文化向上のために、ペットシッター業の正しい理解の浸透と、ペットの家族化によって起こる感染症の問題などについても、同業者に働きかけて業界団体を作り、業界ぐるみで取り組んでいきたいという。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年8月号の記事