ネット社会の進展を見越し全国の生協に先駆けてネット販売に参入

パルシステム生活協同組合連合会

パルシステム生活協同組合連合会は、1都8県にある10の生協から構成されるグループだ。パルシステムでは、2000年3月から、全国の生協に先駆けて一部地域で「オンラインパルサービス」を開始。2001年7月から、全エリアでネット注文のサービスを本格的にスタートした。年間売上高は400億円に迫り、「食品など日配品を主軸としたネット販売」というカテゴリーでは国内最大クラスを誇るまでに成長している。

激化する流通競争で優位を確保すべくいち早く本格参入に踏み切る

 「オンラインパルサービス」は、関東地方およびその隣接県にある10の生活協同組合が展開する宅配サービス「パルシステム」の「インターネット版」である。その規模は年間売上高(正式には「受注金額」)400億円に迫り、「食品など日配品を主軸としたネット販売」というカテゴリーでは国内最大クラスを誇る。
 1990年、全国の生協に先駆け「個人宅配」を始めたパルシステムは、1週間サイクルの宅配システム。組合員が“紙”の注文用紙を使って発注すると、1週間後に商品と翌翌週分の商品カタログを配達すると同時に、翌週分の注文書を受領する仕組みである。生協だけに、宅配業務を自前で行う点も大きな特徴だ。
 「オンラインパル」は、端的に言うなら、この注文用紙をネットに置き換えたもの。また専用Webサイトを通じて、組合員の注文履歴や、購入金額に応じて付与されるポイント数が確認できたり、さらには紙カタログでは掲載しきれないより詳細な商品情報(商品名、商品案内、産地、アレルゲン、遺伝子組換え、賞味期限、栄養成分、原材料表示など)も得られる。また、組合員が定期的に購入する商品を事前にWeb登録することで、買い忘れ防止に役立つという機能も特筆すべき利点だ。
 サービス開始は2000年3月からで、当初は埼玉県限定で試験運用を行い、カタログは紙でネットは受注のみだった。2001年7月から本格的に全生協でサービスの提供を実施。2002年8月には「ネットカタログ」を立ち上げ、同時にネット限定の商品を扱った「オリジナル・ショップ」もスタートしている。
 ネットへの進出理由としては、前述のような会員の利便性向上のほかに、“インターネット”というインフラが近い将来必須となることを予見した“先取り”という意味合いも強い。サービスを始めた2000年当時、流通業者がネット販売に参入する例はまだまれであったが、パルシステムはノウハウ蓄積の意味も含めていち早く参入、激化する流通競争で優位に立とうという戦略展開に乗り出したのだ。
 サービスエリアは、パルシステム傘下の10生協が守備範囲とする、関東1都5県と近隣の福島、山梨、静岡(埼玉は2組織が加盟)である。

ネットの特徴を活かし時間ぎりぎりまでの注文を実現

 オンラインパルで扱う商品は基本的に従来からのパルシステムと同一である。牛乳や卵といった日配品を筆頭に、野菜、肉、魚介類などの生鮮品、米穀類や麺類、乾物、加工食品、調味料、一部日用雑貨といった具合に、普段の食卓に並ぶ基礎商品が大半を占める。価格帯はおおむね300~400円台が中心。また定番商品のアウトレットなど、カタログにはない商品を扱う「オリジナル・ショップ」も設けられている。
 パルシステムを利用するには、まず生協への登録、つまり“組合員”となり出資金を拠出することが原則で、同時に氏名や住所、および口座情報も登録する。その後、組合員には定期的にカタログが配送されるが、カタログは「YUMYUM(ヤムヤム)」(妊婦や乳児保育の家庭向け)、「my kitchen(マイキッチン)」(子供のいる家庭向け)、「Kinari(きなり)」(大人向け)の3種が用意されており、組合員は自分のライフステージにあったものを1紙選択し、ここから商品を選ぶ。
 「オンラインパル」の利用に当たっては、生協から提供される個人アカウントを使ってオンラインパルのサイトにログインし、発注を行う。サイト内で注文できる商品は基本的にカタログのものと同一で、掲載商品数はおおむね1,600点ほど。インターネット限定品では150~200点を扱っている。基本的に毎日消費する食材がメーンで、いわば「定番品」。それだけに商品構成が大きく変わることはないが、「おせち料理」など季節に合わせた“特集”や旬真っ盛りの産直品も紹介されている。仕入れに関しては、基本的に既存のパルシステムと供給ルートは同一である。
 具体的な宅配方法についても、パルシステムと同様に「週単位」のシステムを踏襲している。受注から配送までの流れは前述の通りで、オンラインパルの場合も毎週決められた曜日(例えば月曜日など)に商品が届けられる。ただし、こちらでは注文書の受け渡しがなく、商品到着(この場合月曜日)の翌日(つまり火曜日)の午前中までにWeb上で注文登録すればよい。“紙”の注文用紙と比べ注文までに時間的余裕があるのも大きな魅力だ。
 代金回収は口座引き落としが全体の約85%を占める。これは生協の特性上、利用者がすべて組合員であり、入会時に引き落とし口座の登録をお願いしているためで、クレジット決済や代引きを主軸にするほかのネットスーパーやネット宅配とは大きく異なるところだ。また残りの15%はコンビニエンスストアや郵便局からの振り込みとなっている。

パルシステム1 パルシステム2

「オンラインパルサービス」を利用するには、パルシステムの組合員としての加入が必要だ。登録後は、選択したカタログと同じ商品をネットでも注文することができる

“レジから一歩踏み出した”サービスの構築を目指す

 利用者数に関しては、まず「オンライン登録者」数は約25万人で、うち利用実績があるのは約11万6,000人、率にして46%である。この数字はパルシステム全体の注文書配布者数(約67万8,000人)の約37%に当たる。なお登録率は東京、神奈川、千葉、埼玉のいわゆる都市部で高く、いずれも35%以上なのに対し、ほかのエリアでは15~20%台にとどまる点も特徴的だ。とりわけ神奈川は45%と高率で、利用者層が他都県に比べて圧倒的に若く、小さな子どもを抱える世帯が利用する例が比較的多いという結果が出ている。
 利用者層は30~40代の主婦が主軸と見られるが、これは、ネットに比較的慣れ親しんでいる年代層であることに起因していると見られる。また客単価は1週当たり約6,500円だが、これは“紙”の注文書の利用者と比べて1割ほど高い。また、ネットと従来方式の併用も可能であり、約10%の方が併用している。
 新規登録者の獲得に関しては、同連合会が通常行っているTVCMや新聞・雑誌広告など既存の宣伝広告によるところが大きい。ただし、もともと組合員は「食の安全・安心」に関心が高いため、オンラインパル登録者が個人的に開設するWebサイトやブログで積極的に紹介する例も少なくなく、ネット口コミによる登録が増えてきている。
 オンラインパルは当初、「パルシステムの注文書をネットに置き換えたもの」としてスタートしたわけで、現在でも“レジのひとつ”という意味合いが強い。ただし、今後ますます発展するネット社会を考え、Webを活用したさらなる情報提供のあり方を模索しているのも事実だ。もちろん、より組合員個人に応じてセグメントした情報提供の可能性も検討しており、“レジから一歩踏み出した”サービスの構築を図っていく意向だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年2月号の記事