カタログ通販とモバイル通販のバランスを上手に取ったビジネスを展開

(株)ニッセン

カタログ通販の老舗というイメージの強いニッセン。実はモバイル通販でも2006年には18億円を売り上げている。取扱アイテム数はアパレルを中心に雑貨、美容関連商品、食品など約1万点、アパレルにおける色、サイズなどのバリエーションを加えるとその数倍に及ぶ。そのビジネスをご紹介する。

カタログ通販の受注経路としてスタート

 1970年に設立され、2002年12月に大証一部、2003年7月に東証一部に上場するなど、国内有数のカタログ通販企業に成長した(株)ニッセン。同社は2007年6月、純粋持株会社体制に移行。(株)ニッセンホールディングスと、新設した100%子会社の(株)ニッセンに分割し、事業を新たな(株)ニッセンに承継するかたちで再スタートを切った。
 同社のモバイル通販への参入のきっかけは、2000年にカタログ通販の受注経路として、PCとともにモバイルを導入したこと。その目的は、セルフ化による受注コストの削減であった。
 その後、2001年にモバイルサイトへの商品の掲載を開始。当初は、カタログ通販での取扱商品のうち、ブランド商品やダイエット関連商品など、比較的少ない情報量での訴求が可能で、かつビジュアルに左右されないなど、当時のモバイルの通信速度や画像品質にフィットすると思われる商品をピックアップして掲載していたが、2003年頃からモバイルの通信速度や画像品質が飛躍的に向上し、またパケット定額制の普及が進んだことなどから取扱商品を拡大。現在では、PC通販と同様、カタログ通販での取扱商品ほぼすべてを掲載しており、2006年度のモバイル通販による売上高(モバイル通販完結型の売上高。同社ではコンテンツ売り上げと呼称)は18億円に達している。

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 現在、同社が運営しているモバイル通販サイトは、総合ショッピングサイトの「ニッセン(モバイル版)」と、インナーファッション専門で“占い”など、ショッピング以外のコンテンツも盛り込んだ「恋するランジェリー」の2つ。いずれも国内3キャリアのモバイルサービスすべてにおける公式サイトとなっている。
 これらのサイトの運営を担当しているのは通販事業部マーケティング本部に設けられたINET推進部。商品の調達やフルフィルメントはカタログ通販と共通化しており、INET推進部はPCサイトおよびモバイルサイトでの売り場づくりに専念している。
 ラインアップについては、前述の通り、カタログ通販での取扱商品ほぼすべてを掲載している状況であり、主力である「ニッセン(モバイル版)」の取扱アイテム数はアパレルを中心に雑貨、美容関連商品、食品など約1万点、アパレルにおける色、サイズなどのバリエーションを加えるとその数倍に及ぶ。特にアパレル分野では90%以上を占めるなど、自社企画商品の占める比率が高い点が特徴的だ。なお、サイトの更新は週3回行っているが、うち2回で新商品を投入し、常に新鮮な売り場の実現を図っている。
 価格帯については、1,000円前後からブランド品の40万~50万円まで幅広く分布しているが、平均は2,000円台後半から3,000円台前半である。なお、1回当たりの購買点数は3点強となっており、平均購買金額は1万円前後となっている。
 売れ筋については、カタログ通販と大差はないが、モバイル画面で細部の表現が難しい家具や大型商品などはあまり動かないとのことである。

約50万人を対象に6種類のメールマガジンを発行

 新規顧客の獲得チャネルとしては、カタログ通販の注文ツールしてモバイルを利用した顧客が、その注文画面と一体化としているモバイル通販サイトの利用を開始するというケースが最も多い。そのほかでは、PC通販の利用者が登録したモバイルのメールアドレスへの告知eメールをきっかけとするケースが比較的多く、アフィリエイトやリスティング広告など、モバイル独自のチャネルによる獲得の比率は低い。従って、顧客層もカタログ通販と共通しており、30代前半の女性を中心に幅広く分布しているが、利用ベースでは、10代後半から20代の、比較的若い層の比率が高い点が特徴的である。
 一方、リピートオーダー促進策の中心はメールマガジン。約50万人を対象に、総合型メール、カテゴリー特化型メール、バーゲン告知メールなど、6種類のメールマガジンを発行しており、特にバーゲン告知メールが高い効果を発揮している。顧客ごとのプロフィールや購入履歴に応じた配信を行っており、顧客それぞれに届くメールマガジンは月間12~13本程度。メールマガジンは配信コストが低く、費用対効果が高いことから、配信可能な全顧客に同一の内容で配信していた時期もあったが、頻繁な配信を嫌い、受信登録を解除する顧客が増加してしまったことから、配信内容と頻度を顧客別に見直し、現在の状況に落ち着いたとのことである。

カタログ通販の枠組み流用にはメリットとデメリットが混在

 同社では、カタログ通販企業のモバイル通販参入におけるメリット、デメリットを以下のように分析している。
 まず、メリットとして挙げられているのが、商品調達、フルフィルメントなど、カタログ通販の枠組みをそのまま流用できる部分が多いことだ。人的リソースを売り場づくりに集中して投入できるため、まったくの新規で事業を立ち上げる場合と比較して、イニシャルコストが圧倒的に低い。また、在庫調整コストを低減できることも大きなメリットとなっている。例えば、ある商品のカタログでの販売が思惑を下回った場合、従来はバーゲンカタログを発行するなど多大な追加コストを費やしてその処理を行っていたが、現在ではモバイルを通じてバーゲンセールを実施することにより、低コストで在庫処理を行うことが可能となっている。コスト低減が価格にも反映され、さらにタイムリーな対応により季節性の高い商品でも機動的に取り扱うことが可能になったことから、PC・モバイルサイトでのバーゲンセールは顧客からも非常に好評を得ている。
 一方で、デメリットについても、カタログ通販の枠組みをそのまま流用している部分が多いことに起因するものが挙げられている。例えば、同社では商品データベースもカタログ通販とモバイル通販で大半の部分を共用しているが、カタログ通販ではカタログ上での表現が最終形であり、カタログ掲載までの経緯で商品情報に誤りが見つかっても、その修正がデータベースに反映されないケースがあり、データベースの内容が直接反映されるモバイルサイトでは、誤った商品情報が掲載されてしまうことになる。また、データベースの内容自体もカタログ通販用に作られており、モバイルサイトでの販売に必要な端的に商品を表現するコピーなどが不足し、カタログとは別に管理している部分もある。そのほか、有効期間6カ月を基本とするカタログ通販をベースに行われている商品管理も、短期間で商品を入れ替えるモバイル通販にそぐわない部分が多々あるとのことである。
 同社の調査によれば、カタログだけ、モバイルだけの利用顧客よりも、PCも含め、複数の媒体を利用している顧客の方がライフタイム・バリューが大きい。従って今後についても、カタログ通販企業であることのメリットを活かしつつ、部分的にモバイル通販ならではの対応も行うことで、より一層のチャネルミックスを推進していく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年11月号の記事