顧客の声こそが競争力の源泉 積極的にCRM戦略を展開

(株)ワコール

主力のインナーファッションだけではなく、生活文化や新しいライフスタイルの提案を行う「ボディデザイニングビジネス」へと、ビジネスフィールドを広げる(株)ワコール。「顧客中心主義」企業として、商品、情報、サービス力で競合他社との差別化を図っている。 そのためのツールとして欠かせないのが、同社が運営する3つのコミュニティサイトだ。

3つのサイトを運営し顧客サービスを実現

 インナーウェアのマーケットで、ゆるぎないブランドイメージを確立している(株)ワコール。しかし、その地位に甘んじることなく、積極的にCRM戦略を展開している。その強力な武器となっているのが、同社のコミュニティサイトだ。現在「蝶々ブログ」「サルートファンサイト」「スタイルサイエンスサイト」の3つを運営している。
 「蝶々ブログ」では “小悪魔ビューティアドバイザー蝶々” というキャラクターをブロガーとして設定。ブログ上でブランドやそれに関連する話題の情報発信を行い、下着への関心を高め、商品購入につなげるためのサイトだ。こう説明すると硬い印象だが、実際はかなり楽しめるコンテンツ。「恋するカラダ」がキーワードと聞けば納得がいくだろう。オフイベントも開催している。
 一方、「サルートファンサイト」は同社の高級ブランド「サルート」のファンが情報を共有するための場を提供している。2カ月間の期間限定で、リニューアルするごとに参加者を募集する。サルートにはコアなファンも多く、参加者はこぞってアクセスし、さまざまな意見を寄せている。
 「情報共有」という機能が特徴の「サルートファンサイト」に対し、「Webでアフターサービスを行う」のが、2006年7月から本格的に稼動した「スタイルサイエンスサイト」だ。すでに2万人の購入者が登録している。特にプロモーションは行っていないというから、この数字には驚かされる。「スタイルサイエンス」とは、シェイプアップ機能を持つボトムインナーの総称。2005年に発売された「ヒップウォーカー」や「スタイルアップパンツ(ヒップ)」、2006年に登場した「おなかウォーカー」「スタイルアップパンツ(おなか)」などがラインアップされ、累計販売数も500万枚を突破している。

美しさへの努力をあの手この手で応援

 「スタイルサイエンス」の最大の特徴は、従来のインナーウェアとはまったく異なり、はいて歩くことで体そのものに働きかけ、ボディーを引き締めていくことだ。つまり機能が付加価値の商品といえる。週5日、1日6,000歩以上を目安に歩くと、1カ月後にはその効果を実感する人が多い。ところで、経験者はわかると思うが、頑張ってカラダを引き締めようとしても、一人ではなかなか続かない。そこで、Web上でユーザーのアフターサービスができればと企画されたのが、「スタイルサイエンス」という同社のコミュニティサイトだ。
 商品を購入後、同サイトへアクセスし、商品番号など必要事項を登録すると会員になることができる。同社宣伝部 WEB・CRM企画チーム課長の大藪範子氏はそのコンセプトを、次のように説明する。
 「キレイになるための努力を誓った女性に、あの手この手を使って一生懸命応援しようというのが、このサイトの目的です。スタイルサイエンスを購入して登録してくれた“スタスタ部員”たちに、楽しみながらシェイプアップに取り組んでいただくためいろいろな仕組みを用意しました」
 このボトムインナーを身に着けて6,000歩以上歩いたらサイトへログイン。それだけでマイルがたまり、プレゼントへ応募できる。そしてなんといってもユニークなのが、「愛ムチプログラム」だ。30日の集中コースで、2日間続けてログインをサボると、「愛ムチメール」が飛んでくる。また、7日目、15日目、30日目にサイト上でスタイルチェックが受けられるなど、モチベーションを維持するための工夫が多く盛り込まれている。見せたいカラダになる愛ムチ合宿ビーチ編といった、サイト上のイベントも好評だ。
 “頑張る”ための仕掛けは、「愛ムチプログラム」や「夏合宿」だけではない。スタスタ部サポーターがリレー方式で書き込みを行う「スタスタ☆ブログ」も元気を与えてくれるコンテンツだ。スタイルサイエンスの実体験に基づく話題に加え、執筆者が最近興味を持ったダイエットや小顔などの情報も盛り込まれている。
 スタスタ部員の情報交換の場となっているBBS「Walk Talk」には、サイズダウンやウォーキングの情報交換、健康のための情報、キレイになるための情報交換など、挫折しそうになった時の励みになる話題がいっぱい。会員同士がネット上で「スタスタ部員の絆」を感じられるコンテンツとなっている。「スタイルサイエンス」の愛好者のサイトだから、かなりロイヤルティの高いユーザーが集まってくる。とにかくこのサイトにアクセスすれば、「よ~し! ガンバろう」という気持ちが、湧いてくること間違いなしだ。

単なるプロモーションではなく顧客サービスとして充実図る

 これら3つのサイトに共通しているのは、顧客目線でのサービスに徹しているということだ。まさに同社のCRMへの注力振りを象徴している。しかし、大藪氏は、このような考え方にたどり着くまでには、意識改革が必要だっと振り返る。「ある意味でメーカーとしては正しい姿勢なのですが、“いいモノを造れば、お客様は必ずそのファンになってくれる”と私を含め社員は信じていました。その延長線上に、お客様の声を聞くというサービスが存在したのです」
 インターネットの普及やITの進化によって企業は容易に価値を作ることが可能になった。一方、Web2.0の象徴ともいえるブログやSNSの出現によって、顧客はさまざまな情報を吸収し、企業との関係を変えるほどの勢いを持つようになったことも事実だ。
 そのような状況の中、ワコールは顧客に対して、モノつまり商品とファッション情報の提供、店頭でのコンサルティング販売を三位一体化してとらえ、顧客にソリューションを提供することを方針として掲げている。つまり、商品とサービスを連動させることで、付加価値を高めて競合他社との差別化を図ろうという考え方だ。これはニーズへの対応からバリューの提供への転換とも言い換えられるだろう。そしてそのような戦略を実現するためには、まずはサービス提供を通じて顧客の情報を取り入れ、顧客視線で考えることが必要だった。
 3つのコミュニティサイトの運営も、そのようなコンセプトに立脚している。そして顧客の声を聞くことで、多くのことに気付かされたと大藪氏は言う。
 「例えば、BBS上のスタスタ部員の会話の中から、ほかでは得られないナレッジが生まれることがありますが、これはサービス提供の副産物と言えます。ブランドロイヤルティ向上やボディーへの意識の変化も見られました。またサルートサイトには10年以上ご愛顧くださっているファンや下着についての知識が豊富な方が多数いらっしゃいます。当然ものすごく商品に詳しいわけで、特に顧客目線での情報の奥深さは私たちには創出できないものと考えています。そして、このようなファンへのサービスを通じて、ブランドを体験していただき、お客様との結び付きをより強くすることも重要と考えています」
 そして、コミュニティサイトはそのためのツールとして威力を発揮している。同社ではコミュニティサイトを、単なるプロモーションではなく顧客サービスと位置付けて、今後もその充実を図っていく。

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1日6,000歩以上歩くことを続けられるように、あの手この手で応援してくれる。短期集中型の愛のムチプログラムは人気が高い。スタイルサイエンス販売数が500万枚を突破し、オープン1年を迎えるのを機に、大幅リニューアルの予定


月刊『アイ・エム・プレス』2007年9月号の記事