個人のネットワークを活用し購買に対する口コミの影響度を確認

ベル ジャポン(株)

チーズを中心とした乳製品を120カ国で販売する仏・フロマジェリーベル社の日本法人として、2005年11月に設立されたベル ジャポン(株)。同社は、情報を主体的に収集する生活者の増加を視野に入れたマーケティング展開を模索しており、 その一環として、主力製品である「kiriクリームチーズ」において、buzzリーダーを活用したキャンペーンを行った。

主体的に情報収集する生活者像 プル型の施策で顧客ニーズを引き出す

 「kiriクリームチーズ」「ベルキューブ」などのチーズ製品を120カ国で販売する仏・フロマジェリーベル社。創業143年目を迎える歴史ある企業の日本法人として、2005年11月に設立されたベル ジャポン(株)は、日本市場におけるマーケティング活動、品質管理、販売会社への営業支援などを展開している。
 日本法人の設立以前は、仏本社の日本担当者のコントロール下でTVCMを中心とした広告展開を行っていたが、2006年からはTVだけでなく、ネット、雑誌のタイアップ企画、PR、店頭SPにも着手。マーケティング部のスタッフは2名と少数ながら、日本市場への浸透に向け、さまざまな施策を展開している。
 同社の主力製品である「kiriクリームチーズ」は、以前から業務用の利用が多く、プロの菓子職人には広く知られ、使用されている。しかし、TVCMなどのマス広告だけで、一般生活者の製品への理解を促進するのは容易ではない。そこで、日本のユーザーが、いつ、どこで、どのように消費しているかを分析し、最も適したチャネルで商品の特性やベネフィットを伝えていくことを目指した。

Webサイトではゆるやかにつながり情報提供に努める

 同社Webサイト内には、製品を使ったレシピを紹介する「ベルレシピ」、有名パティシエを取り上げた「ベルマスター」、子どもにもわかるような工場紹介やおすすめ絵本の紹介といった「ライブラリー」などのコンテンツがちりばめられている。2006年3月からは、「ベルメールマガジン」を発行。登録者には、自社製品に関する情報やイベント・キャンペーンのお知らせ、毎月の抽選プレゼント情報などを月に2回ほど配信している。現在の登録者は約3,000人。登録に必要なのは、ハンドルネーム、メールアドレス、パスワード、性別、生年月日だ。
 なお、Webサイトでのコミュニケーションでは、厳格な個人情報管理の下でOne to Oneを志向するというよりも、ゆるやかにつながりながら多くの方へ情報提供することを心掛けていると言う。
 近年、生活者には“自分で情報を取りたい”という意識が高まり、“企業側から広告などで一方的に発信される情報”に対する受容性が弱くなっている傾向があるため、企業が顧客のファン化を目的としてダイレクトにアプローチするのは容易ではない。とは言っても、同社製品のユーザーを増やし、ファン化を促進していく仕組みは必要である。
 このように、プル型のマーケティング展開という課題を抱えていた同社では、生活者の自発的な口コミに注目。そこで、buzzマーケティングサービス「buzzLife」を提供する(株)イーライフが組織化する「buzzリーダー」を発信源とした口コミ・マーケティングの展開を決定した。これには、日常の会話の中で話題にしてもらい、それが実際の購入にどのような影響を与えるかを実証する目的もあった。

個人のネットワークを活用し確実な口コミを実現

 buzzLifeでは、buzzリーダーへの金銭的報酬は一切なく、商品サンプルのみを提供する仕組み。口コミの受け手は、buzzリーダーの実際の知人や友人であり、既に信頼関係が築かれている個別のネットワークを活かしてコミュニケーションを図ることが可能だという利点がある。
 今回のキャンペーンでは、口コミの発信源となるbuzzリーダーを、商品知識の深さや、紹介できる人数などの条件付きで募集した。募集期間は、2006年5月11日から5月24日までの2週間。約3,000人の応募者から計400人を採用し、数日後にbuzzキットを送付した。
 対象商品は2種類を用意(写真参照)。5人以上の知人・友人と商品を使ってもらう“HOME buzz”への協力者には「キリシェフ」を、会社の同僚8人以上と商品を試してもらう“Office buzz”への協力者には「キリアンド スティック」を送付した。
 buzzリーダーの役割は、自宅で友人と一緒にお菓子を作ったり、オフィスで同僚と食べたりと、リアルの場で商品を共有する機会をつくってもらい、帰りに知人に商品を渡すというもので、口コミのたびに「誰に、いつ、どこで、どのように口コミをしたのか」を専用サイトのBBSページに詳しく記載する。ページ内には「こんな食べ方をすると美味しい」といった声や、「周りの人にあげたときの反応」など、さまざまな感想が書き込まれた。
 buzzリーダーは、実際の使用経験を通して発見した商品価値を伝えるわけだが、あらかじめ信頼関係がある友人・知人が相手だけに、相手にとってわかりやすい言葉を選ぶことで、共感を得やすいのが特徴だ。
 書き込まれた感想には、イーライフの担当者が一つひとつ返事を書いており、モニター同士もBBSを通じてコミュニケーションを図ることができる。また、ここでのコメントには、リアルな場での正直な感想や行動が書かれるため、商品開発やコミュニケーション戦略、販売戦略、流通戦略の重要なヒントとして活用できる可能性も高いという。

【A】chef 【B】stick

今回のbuzzの対象商品「キリシェフ」(左)と「キリアンドスティック」(右)。もっとも販売量の多いポーションタイプはあえて外した

ユーザーの拡大と他製品の浸透が課題

 今回は、効果指標として①反応度、②何人に口コミをしたか、③その後話題にしたか、④実際に購入したかの4つを設定した。②の波及効果としては、「buzzリーダー人数×口コミの受け手の人数」が指標となる。③の効果としては、buzzリーダーの保有するブログやSNSへの書き込み数、閲覧者数などを指標とした。また、①と④に関しては、事前・事後にeメールもしくはハガキによるアンケートを実施。事前アンケートでは、商品特徴への理解や関心度、好意度(emotional bonding)などを聴取し、事後のアンケートでは、口コミ実施の1週間後に1次アンケート、1カ月半後に2次アンケートを行い、購入意向や実際の購入有無などの変化を確認した。対象は、buzzリーダー本人と、今回参加した知人でアンケートへの協力を承諾した方。
 その結果、事後のアンケートによる購入意向は、1次アンケートでは8割以上が購入意向を示すと同時に、その半数が実際に購入しており、2次アンケートでは実に8割が購入していた。同社によると、今回のキャンペーンへの参加者はキャンペーン終了後1カ月半の間に確実に1個を購入しており、口コミによる平均購入個数の上昇が期待できると考えている。
 今回の試みで同社は、リアルの場での人間関係を介した口コミが顧客のファン化につながるとの感触を得た。ネットの世界だけで広がる口コミは、伝播力においては優れているが、購買行動につながるかに関しては疑問の余地があると見ているようだ。
 現在、同社はクリームチーズの市場では金額ベースで3割のシェアを占め、1位の座を獲得している。今後の課題は、クリームチーズの摂食頻度が低い(関与度の低い)人にいかに働きかけ、ユーザーを広げるかということと、主力商品である「kiriクリームチーズ」以外の商品購入を促進すること。2007年に新商品の上市を控える同社では、今後も生活者のネットワークを活用した口コミ施策を積極的に展開していく意向だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年3月号の記事