ビジュアルに凝ったブログパーツでオフィシャルサイトを中心に口コミを喚起

松竹(株)

映画や音楽などエンターテインメント業界は、さまざまなメディアでランキングやレビューが取り上げられることから、 口コミが売り上げに大きく影響することが想像される。松竹(株)では、映画公開前からネット上で口コミを醸成するため、オフィシャルサイトとリアルのイベントなどを軸にさまざまな取り組みを行っている。今回は、2006年7月に公開した「サイレントヒル」の事例を紹介する。

作品の世界観を伝える映像で視覚的に興味を持たせる

 邦画の製作・配給、洋画の配給、歌舞伎座をはじめとする劇場運営など、日本の大衆文化を支え続けている松竹(株)。最近では「武士の一分」をヒットさせるなど、業界をリードする存在として、時代劇、アニメ、洋画/邦画、ティーン向けと多岐にわたる作品を手掛ける。同社における映画作品の配給数は年に約30本。作品によって自社で宣伝する場合と宣伝会社に外注する場合があるほか、ターゲットも上映規模も異なることから、宣伝手法は多種多様だ。
 宣伝活動の課題は、投資対効果をいかにして最大化するか。今回は、2006年7月8日に公開された映画「サイレントヒル」における事例を取材した。
 この作品の原作は、ビジュアルの完成度の高さから評価が高く、コアなファンが存在するコナミ(株)の大ヒットホラーゲーム。しかし、原作のゲームは必要以上に意識せず、いち映画作品として宣伝するよう心掛けたそうだ。
 同社では、映画公開前からインターネット上で話題になり、ブロガーを巻き込んで話題が広がっていくような面白い企画にしようと施策を練った。まず、ホラー映画であることを前面に打ち出していくか、逆にこうしたイメージを払拭していくかを検討した。①映画市場では女性を取り込まないと動員増が難しいこと、②直前まで作品を観ることができず、イメージやラフ映像のみ手元にある状態で企画を練らなくてはならなかったことなどから、オフィシャルサイトはスタイリッシュな映画のビジュアルを反映したデザインにした。
 ちょうど同時期に、別の事例でブログパーツを作成し、口コミを広げるというアイデアが持ち込まれていた。これは、個人ブロガーのページに告知用の動画パーツを貼り付けてもらうというもの。しかし、既存の案では新鮮味に欠けるということで、新たにFlashで制作したブログパーツを作り、それにユーザー参加型キャンペーンを組み合わせるという企画を立案した。

ブログパーツの貼り付けなどサイトへ誘導するフックを存分に用意

 プロモーションの展開に当たっては、オフィシャルサイトや、キャンペーンサイトを訪問すれば最新情報が集まるようなさまざまな仕掛けを用意した。キャンペーンサイトのトップページには担当者ブログを設置して、イベント情報をはじめとする情報提供に努めるとともに、画面の右側に映画について書き込まれたブログを集め、週1回更新していった(資料1)。

0703c2

『サイレントヒル』オフィシャルサイトのトップページ。ビジュアルに凝ったデザインはブロガーの間でも話題になった。右側には、ブログ検索エンジンサービスを活用して選択した最新ブログへのリンクが貼られており、常に情報が更新されるようになっているSilent Hill DCP Inc./Davis Production SH S.A.R.L

 また、ブログパーツのダウンロードキャンペーンを展開。パーツをダウンロードしたユーザーに対し抽選でプレゼントが当たるという内容で、2回に分けて実施した。
 第一弾(6月7日正午~19日正午)のブログパーツには、映画に登場する3人のキャラクターを使った。ダウンロードのインセンティブとなる抽選プレゼントは、試写会に30組60名を招待するというもの。第二弾(6月19日~7月21日正午)のブログパーツは、作品に登場するキャラクター“レッドピラミッド”が飛び出してくるというもの。こちらは、ゲーム版の「サイレントヒル」1~4、プレイステーションポータブル、イメージソングを手掛けた土屋アンナのサイン入りマスコミ用パンフレット、非売品ポスターなどを用意した。
 話題を喚起しアクセス数を上げるフックのひとつに、パーツを貼ってくれたブロガーの中から毎回3人のブログを“本日の呪われブログ”として紹介する企画を展開。この企画はブロガーにも好評で、口コミの促進に大きなインパクトを与えたようだ。
 映画の公開直前には、(株)サイバー・バズのCyberBuzzを使ったαブロガー(多くの人に読まれているブログを書いている人)の「クチコミ喚起システム」を利用。6月29日~7月6日に募集したところ、サイトへの訪問者数が約2倍に跳ね上がったという。
 また同社では、ネット上での話題づくりに向けて、2つのリアル・イベントを開催した。ひとつ目は、公開1カ月前から、新宿コマ劇場前に「ホラーハウス」を約2週間設置したこと。2つ目は、公開直前に、秋葉原のメイド喫茶「めいどinじゃぱん」において期間限定の「ナース喫茶」をオープンしたことだ。後者では、オリジナルメニューを用意し、店内の装飾も映画の世界を再現する、看護師の衣装を纏った店員が給仕する、など手の込んだ演出を施した。さらに、このメイド喫茶を会場とした“映画サイレントヒル公開記念トーク ライブ”を開催。シリーズのエグゼクティブ・プロデューサー、山岡晃氏が登場し、裏話を披露した。この話題はもちろんキャンペーンブログにも掲載、サイト内でもユーザーを飽きさせない工夫を凝らした。

ブログパーツの推定視聴者数は12万人に

 今回のブログパーツ配信キャンペーンでは、参加数(アクションを起こした人)は1万5,000人、パーツを貼った人は1,000人。推定視聴者数は約12万人に上ったという。興行成績は5億円を超え、DVDの販売とレンタルへのリーチも図れるなど、ターゲットが限られるホラー映画の分野にしては、かなり良い結果になった。
 オフィシャルサイトでの口コミ活用については、ブログの検索エンジンサービスを提供する(株)テクノラティジャパンから毎週レポートされるブログの中から10個を選択し、該当ページにリンクを貼った。
 また、担当者がブログを書くときには、文頭と文末を必ずポジティブな内容にするなど、“読んで楽しめる内容” を “わかりやすくやんわりと伝える” ことを心掛けたと同社映画部映画宣伝室の江上知子氏は語る。
 『サイレントヒル』は、半年以上前の事例であるが、同社では以降も次々と新しいプロモーションを展開している。「ネット上のプロモーションにおいては、さまざまなフックで驚かせないとすぐに飽きられてしまいます。観客は想像力が豊かなので、彼らの興味を喚起するようなアイデアで引っ張っていく仕掛けが必要です」(江上氏)。今後も、ネットで口コミを広げる一手段として、オフィシャルサイト内でのユニークな仕掛けを用意すると同時に、いかに映画好きのブロガーを取り込み、話題を広げるかを、その作品の特徴となるアイコンなどをフックに考えていく意向だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年3月号の記事