安全性や最速最短、定時発着率の高さ 高品質のホスピタリティが高いリピート率に

フィンランド航空

80年を超える歴史を誇るフィンランド航空。同社は安全性や最速最短、定時発着率で高い評価を得ている。また、機内サービスやホスピタリティにも定評があることから、顧客満足度が高いという評判だ。個々の乗客からの要望への対応など、パーソナルタッチのサービスを貫くことで、顧客との関係を構築している。

日本とヨーロッパの多くの都市を最速最短で結ぶ航空会社

 世界の航空業界は、1990年代から格安航空会社の勃興や航空自由化によるコスト削減・競争激化を受け大きな再編が起きていた。そんな最中、米国同時多発テロ事件が起き、旅客数の低下や保険料の値上げ、原油価格高騰による燃料費の上昇などもあり、航空業界各社の経営は悪化していた。こうした状況の中、世界の航空会社は経営統合や提携など再編に拍車がかかり、スターアライアンス(Star Alliance)、ワンワ-ルド(oneworld)、スカイチーム(SkyTeam Alliance)の3グループに集約されつつある。
 oneworldに加盟するフィンランド航空(フィンエアー)の設立は1923年。世界で5番目に歴史のある航空会社で、北欧のフィンランド共和国最大の航空会社および国営フラッグ・キャリアである。現在、世界約50路線、国内約20路線へのフライトを運航中。特に国際線では、ヨーロッパの主要都市から北米、中東、東南アジア、極東への幅広いルートを持っている。
 国営フラッグ・キャリアのフィンエアーだが、航空会社の規模としては「ニッチ・キャリア」。同じフラッグ・キャリアでもドイツのルフトハンザ航空は、Star Allianceに加盟し、世界約96カ国、411都市あまりに就航。保有機材数は377機と、フィンエアーの69機の約5倍強だ。また、2005年6月には、SkyTeam Alliance に加盟するKLMオランダ航空とエール フランス航空の2社が統合し、AIR FRANCE KLMというヨーロッパ最大級の航空グループを形成している。
 こうした中で、同社は、航空会社として独自色を出すことが求められてきたと言えるだろう。それが、航空会社としては初めて禁煙席を設けたり、他社に先駆けてコンピュータ・ナビゲーションシステムを導入するなど、航空業界のパイオニアとして常に先進のサービスを提供してきたことに現れている。1985年には、運航技術の高さが評価され、運航スケジュールの正確さでヨーロッパ全キャリア中で第1位となった。また、定時発着率については、AEA(ヨーロッパ航空協会)の調査によると、2004年度、2005年度と2年続けて第1位を記録。ヨーロッパの航空会社約30社中で、最も時間に正確な航空会社として認知されているという。
 日本支社の開設は1972年。1983年 4月に、ヘルシンキ-東京間の直行便が就航。北極上空を通過するルートで週1便にて運航をスタート。これは、北極上空ルートによる世界初の日本-ヨーロッパ間ノンストップ便として話題になった。現在、「成田、関空、名古屋からわずか9時間30分」と、日本とヨーロッパを“最速最短”で結ぶ航空会社として知られ、ガイドブック『地球の歩き方』2005年エアラインランキングにおいては、利便性部門で第1位を獲得。ヘルシンキはもちろん、最速最短で到着するヨーロッパ主要都市の数が、成田から約10都市、関空から約20都市、名古屋から約25都市を数えることも高く評価されている。第2位のルフトハンザ航空の約8都市に比べてはるかに多い数字だ。

顧客満足度では航空会社の中でトップクラス

 また、フィンエアーは顧客満足度でも世界の航空会社の中でトップクラスに選出されている。『地球の歩き方』2005年エアラインランキングにおいて、接客態度・サービス部門の第2位を獲得。また、『AB-ROAD(エイビーロード)』2006年9月号において発表された「2006エアライントップ10」によると、「機内サービスが良いエアライン・ベスト10」では、ヴァージン アトランティック航空の支持率75.0%を約10ポイント上回る84.2%で第1位。「もう一度利用したいエアライン・ベスト10」では支持率100%で堂々1位に輝いている。
 こうした背景には、日本路線には日本人キャビンアテンダントが乗務していると同時に、クルーは専任制で、東京、名古屋、大阪の各路線の発着都市に在住しているスタッフを採用していることが挙げられる。これは、地域性を熟知したクルーが接客に当たることが大切だと考えているからだ。ほとんどの航空会社が効率を重視し、クルーの異動が当たり前になっている中で、このことは同社の顧客重視の表れと言えるだろう。同社でも、機内サービスやホスピタリティに定評があることが、顧客の維持に結び付いていると見ている。
 ヒューマンタッチな顧客サービス施策のほか、同社では「フィンエアー・プラス」というマイレージ・プログラムを用意。会員を、「プラス」「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」の4ランクに分類。現在、会員数は全世界で100万人強を数えている。
 それぞれの会員資格は、会員登録をすれば自動的にプラス会員になれる。トラッキングピリオド(フィンエアーの定める一定期間)にフィンエアーまたはoneworldの提携航空会社のフライトで6万ポイント以上集めると、プラス会員からシルバー会員、12万ポイント以上集めると、シルバー会員からゴールド会員、30万ポイント以上集めると、ゴールド会員からプラチナ会員へとランクアップする。同社では、シルバー会員以上を優良顧客と見ている。有効期限は、シルバー会員が12カ月、ゴールド・プラチナ会員が24カ月。資格維持には、シルバー会員はトラッキングピリオド12カ月の間に6万ポイント、ゴールド会員は24カ月の間に21万ポイント、プラチナ会員は24カ月の間に30万ポイントが必要だ。ランク別にさまざまな特典が用意されているが、ここでは割愛させていただく。というのは、同社の乗客は、フィンランド国民以外は、フィンエアーに搭乗し、フィンランドもしくはヨーロッパを訪れたい旅行者に限られており、同社も真の顧客のみに利用していただきたいという思いがあるからだ。

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日本路線には、日本人キャビンアテンダントが乗務しているほか、日本語版の機内誌『キースト』なども用意。乗客へのきめ細かいサービスを心掛けている

過去の成功体験をモデル化しレスポンス率や顧客満足度を向上

 また数年前から、フィンエアーは、将来の購買行動を予測することで、優良顧客との継続的な関係づくりを行っている。顧客の基本属性やサイコグラフィック特性に基づくセグメンテーションに重きを置かず、過去のキャンペーンに対する反応を分析して将来の購買行動を予測する、米国IBMのチューリッヒ研究所が開発したCELM(Customer Equity and Lifetime Management)を活用しているのだ。具体的には、ホテルの優待券をプレゼントしたり、ボーナスマイルを提供するなどのキャンペーンを打って購買に結び付いた際のケースを収集・分析してモデル化。このように過去の成功体験に基づき、顧客の欲するサービスを最適なチャネル、最適なタイミング、最適なオファーで提供することで、数値は公表していないものの、レスポンス率や顧客満足度向上に結び付いている。
 同社は、マイレージ・プログラムや行動パターンを分析して購買意欲を喚起する一方、ホスピタリティに富んだハイタッチなサービスに注力することで、優良顧客との継続的な関係づくりを行っていると言える。今後も、安全性や最速最短、定時発着といった航空会社に求められる業務と同時に、サービス品質の向上に注力していく意向。それが、真の顧客との関係構築に不可欠だと見ている。


月刊『アイ・エム・プレス』2006年10月号の記事