「動画」と 「VOD」の優位性が視聴者の積極的な購買行動に結び付く

(株)USEN

(株)USENが運営するパソコンテレビ「GyaO」。2005年4月に開局、2006年6月17日には「視聴登録者1,000万人」を突破した。2006年2月には、視聴者サービスの一環として「ショッピングチャンネル」を開設。さざまざま商品の動画を見ることができると、視聴者の好評を博す。今やテレビショッピング実施企業にかかわらず、映像を持たない企業からも出店に関する問い合わせが寄せられるなど、注目度が高まってきている。

ショッピングチャンネルの店舗数はわずか4カ月で23店舗に急増

 有線放送やFTTH(家庭用光ケーブル)を核に、総合ブロードバンド・エンターテインメント事業を展開する(株)USENは、2005年4月25日、パソコンテレビ「GyaO(ギャオ)」をスタートさせた。
 日本初の完全無料放送を売りにした「インターネットテレビ」であり、「放送と通信の融合」を先取りした動画配信サービスで世間の注目を浴びている。既存の民放テレビ局と同様、「視聴者」の耳目を集める人気番組を放映、「媒体」としての宣伝効果を武器に宣伝広告を流すことで広告収入を得る、というのがGyaOのビジネスモデルである。2006年6月17日には、 「視聴登録者1,000万人」を突破。名実ともに 「ブロードキャスト」の仲間入りを果たした。
 一方、視聴者の急増に歩調を合わせて、「ショッピングチャンネル」が2006年2月20日からスタート。インターネットのインタラクティブ性を十二分に活かし、テレビ局には真似のできない、ビデオ・オン・デマンド(VOD)スタイルの物販番組を売り物にしている。
 「GyaO」のWebサイト上にある「ショッピングチャンネル」のアイコンをクリックすると、同チャンネルへと移動。(株)ベルーナや(株)オークローンマーケティングといったお馴染みの通販会社の「仮想店舗」がサムネイル(多数の画像を一覧表示するために縮小された画像のこと)状に並ぶ。中でも、カタログ通販大手の(株)ニッセンは、GyaO専用に動画を用意するほどの熱の入れようだ。ちなみに、GyaOオリジナルグッズの通販サイトもある。当初12店舗でスタートした店舗数は、わずか4カ月で23店舗に急増。また、数多くの企業から出店に関する問い合わせが寄せられており、店舗数は拡大傾向にある。取扱商品は、「JALパック」「阪急トラピックス」などの旅行およびスイーツ、音楽、時計、雑貨、AV家電、各種食品、化粧品、ファッション関連商品など、合計約130品目に上る。
 ただし、これだけでは星の数ほどあるバーチャルモールと大差はない。GyaOの場合、これらの商品紹介が基本的に“動画”となっている。単なる文字情報や“静止画”よりもその宣伝効果が格段に大きい。特に海外旅行商品では、パンフレットに載っている写真よりも“動画”のほうが購入検討者に対してのインパクトが大きいのは一目瞭然だ。現在、GyaOの購買平均単価は2万円強。この数字は、あるテレビ局のテレビショッピングの購買平均単価とほぼ同額。ちなみに、ネット通販の購買平均単価は約1万円(JADMA調べ)。
 またネットのVOD性は、ある意味において既存のテレビCMやテレビショッピングより優位だ。つまり、テレビの場合、視聴者が視聴するか否かは、“偶然性”に左右される。また仮にテレビを視聴していたとしても、漫然と眺めているだけかもしれないし、いわゆる“ながら視聴”の可能性も少なくない。しかしWebの場合、視聴者はその番組を“見たい”からアイコンやサムネイルをクリックするので、購買につながる確率がグッと高くなる。加えてクリックすると、“最初から”コンテンツを見ることができるので、当然ながら紹介商品を見逃すことはない。この点は、見逃す可能性のある既存のテレビCMやテレビショッピングと比べても明らかに優位と言えるだろう。

ショッピングチャンネルは女性視聴者を増やす強力な“コンテンツ”

 「ショッピングチャンネル」の開設は、GyaOが配信する番組の多様化、つまりは視聴者に対する「サービス拡充」という意味合いが大きい。GyaOは視聴登録(無料)によってユーザーの維持・拡大を図っているが、登録ユーザーが頻繁にサイトを訪れたくなるように、エンターテインメント性に富む魅力的なコンテンツ群の存在が必須である。
 同社では、海外ドラマや音楽番組、タレント物と並んで、「テレビショッピング」も強力なエンターテインメント・コンテンツと位置付けている。しかも顧客の維持・拡大と並行して、新規登録者の“呼び水”としての効果も発揮している。
 現在、GyaOの視聴者は男性が7割と圧倒的に多く、そのうち20~49歳のM1、M2層が大半を占める。まずは男性のネットユーザーが先鞭をつけ、さらに口コミやブログ、掲示板などへの書き込みを通して視聴者を増やしていくという流れは、ブロードバンド時代の“WebTV”という性格上、ある意味“王道”と言えるかもしれない。
 だが、さらなる視聴者増を考えた場合、現在30%に過ぎない女性層の呼び込みは、重要課題だ。このため、韓流ドラマなどの女性向け番組を充実させるといった戦略を実践中だが、「ショッピングチャンネル」も、ショッピングに関心が高く、また男性に比べて購買力の高い女性を呼び込む有望なツールと見ている。実際、ショッピングチャンネルの視聴者数に関しては、女性のほうが圧倒的に多いという。

映像を持ち合わせていない企業に動画製作のノウハウを提供

 「ショッピングチャンネル」の利用方法は、トップ画面に掲載されている店舗(広告主)ごとのサムネイルをクリックすると、GyaOのサイト内に用意された各社の商品専用ページに飛ぶ。ここでは商品のより具体的な宣伝記事や動画が用意されている。そして、気になる商品のアイコンをクリックすると、動画が流れ出し、PC画面の右下に設けられている「注文・予約」アイコンをクリックすると、掲載企業のWebサイト上の注文・予約申し込み画面へ飛ぶ仕組みだ。
 この時点でUSEN側は受注動向を把握することができるようになっているので、売上高に応じて歩合を受け取るシステムとなっている。ちなみに、ショッピングチャンネルへの動画掲載料(出店費用)は、動画の「尺」(放映時間)によっても異なるが、エンコード(ビデオ映像をブロードバンド配信用にデータ変換する)費用と、商品専用ページ製作費用が、いわゆる「初期費用」として必要。加えて毎月のランニングコストは、前述した「歩合」のほか、顧客誘導に対するインセンティブ料(相談による)などが掛かる。このほか、特集企画などに参加する際には、別途費用が必要。
 また、映像を持っていない企業からの出店希望が増える中で、もともとコンテンツ企業としての側面も持ち合わせているUSENでは、動画作りのアドバイスも行っている。また、グループ内には映像などの製作会社があることから、比較的低コストで製作を請け負うこともできる。
 さらには、エンターテインメント・テレビであるGyaOのショッピングチャンネルとして、出店企業の商品を週代わりで入れ替えたり、GyaOオリジナル商品の開発などに注力していく。
 このようにUSENは「ショッピングチャンネル」を、GyaOにとっての新たな“収益の柱”として、そして“新しいエンタテインメント・コンテンツ”として位置付け、今後一層の拡充を図っていく意向だ。

USEN

「GyaO」のショッピングチャンネル。動画を視聴するネットユーザーは、能動的なお客様なので購買につながる確率が高い


月刊『アイ・エム・プレス』2006年8月号の記事