リアルタイムの在庫管理で密度の濃い接客を可能にする

(株)三越

4月26日から日本橋三越本店の婦人靴売場で、ICタグを百貨店業界で初めて本格導入した。リアルタイムで在庫管理をし、欠品を防ぐとともに、店頭での接客を効率化し、“お待たせしない婦人靴売場”を実現、顧客満足度の向上を目指す。

“お待たせしない婦人靴売場”の実現を目指す

 (株)三越では、この4月26日から日本橋本店1階「レディースシューズサロン」の「キャリアゾーン」と呼ばれる婦人靴売場で、百貨店業界で初めてICタグを本格導入した。これは、顧客自身がICタグが付いた靴をICタグリーダー機能を搭載した専用テーブルに置くと、タッチパネルPC上でサイズや色の異なる商品の在庫を確認できたり、販売員が接客しながらPDA(無線携帯端末)で在庫を確認できるという仕組みだ。これにより、リアルタイムでの在庫管理が可能になった。
 ICタグが導入されたキャリアゾーンは、売場面積27坪で、対象商品は、靴卸の(株)シンエイから仕入れる13ブランドの店頭約1,000フェイス、在庫約6,500足である。
 この本格導入にさかのぼること約半年前の2004年10月12日、日本百貨店協会と日本アパレル産業協会が合同で行った経済産業省の「平成16年度電子タグ実証実験事業」の一環として、日本橋三越本店1階の婦人靴売場で実証実験がスタートした。実験を婦人靴とした理由を、同社商品本部商品システム推進部担当課長の伊藤卓生氏は、「婦人靴は、色とサイズのバリエーションが多く、また、ファッション性の高い商品なので、短いサイクルで動いています。シーズン当初は在庫があっても、サイズ切れを起こしてしまうケースが多かった。そのため、お客様から、『この靴の24.5cmありませんか』と聞かれた場合、倉庫に確認に行って『ございませんでした』。『じゃ、こちらありますか?』と言われて、また倉庫に見に行って、『ございませんでした』ということが起きてしまう。何度も倉庫を往復しなければならず、お客様をお待たせしてしまっているのです。この待ち時間を短縮して、“お待たせしない婦人靴売場”を実現するために、ICタグの技術が使えないかということで実験を行いました」と説明する。
 実験期間は、2004年10月から12月までの約2カ月間と2005年2月の約2週間。2005年2月には、(株)阪急百貨店有楽町店の婦人靴売場でも実験を行い、百貨店として標準的に使用できるかを実験した。

類似商品の検索機能も付き販売のチャンスロスを削減

 この「婦人靴ICタグ在庫管理システム」の業務上の流れは次のようになる。取組先(シンエイ)で、商品にICタグを取り付けて三越に出荷する(出荷時は靴箱に取り付け、店頭展示時に商品そのものに付け直す)。取引先(シンエイ)の倉庫(納品場・出荷場)、日本橋三越本店の店内倉庫、売場、入金場でICタグリーダーを使用、それぞれをインターネットで結ぶ仕組みで、各所でICタグを読み取ると同時に、入出荷、保管場所などの商品の所在状況をリアルタイムで把握できるようになっている。
 店頭では、先述したように売場にICタグリーダー機能を搭載した専用テーブルが設置されており、その上にICタグが付いた靴を置くと、テーブル上のディスプレイに商品情報が表示される。タッチパネル式のディスプレイに触れて自分が希望する色やサイズを選ぶと、瞬時に在庫が店内倉庫にあるかどうかを確認できる。在庫があれば販売員に依頼し、商品を持ってきてもらう。また、店頭商品が最後の1足だった場合には「お手持ちの商品のみです」というメッセージも出てくる。万が一、在庫がないと表示された場合は、類似商品検索もできるように工夫されている。例えば、「サンダルでピンクの24.5cm」と検索すると、在庫のある類似商品が表示される。類似商品検索の結果、来店客がその商品を気に入れば購入につながり、販売のチャンスロス削減に役立つというわけだ。お客様はもちろんのこと販売員からも好評だ。

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靴を専用テーブルに置くだけで、在庫確認が可能だ(左)/靴底にはバーコードとICタグの一体型の値札がついている(右)

 一方、販売員はPDAを持っており、接客しながらそれを操作してお客様が希望する色やサイズの商品在庫を即座に確認できる。PDAでは、店内の倉庫だけでなく、シンエイの在庫リストも確認できるので、希望商品の店内在庫がない場合には、入荷予定日を顧客に伝えられる。

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販売員は接客しながらPDAで即座に在庫確認できる

 店頭での顧客サービスの向上に加え、棚卸し作業や在庫確認のスピードアップも可能になった。ハンディーターミナル型リーダー(携帯読み取り機)を利用した棚調べの所要時間は、棚1台(250足)につき、従来のバーコードを使用していた時は15分かかっていたのに対して、3分半に短縮できた。バーコードでは2度読みの危険性があったが、ICタグは同時一括読み取りができて、2度読みもなくなった。このほか、取り置き・取り寄せ機能を追加したり、ロケーション別管理もできるようになるなど、在庫管理の精度も高い。
 同社では、ICタグを活用すると同時に、2つの機能を導入。ひとつは、「絵型台帳自動作成」。絵型消込台帳に、単品別に入荷と販売実績を毎日、手作業でチェックしていたのを、自動化した。もうひとつは、「商品動向分析」。シーズン前からのお客様の問い合わせ情報をすべて登録し、売れ筋商品の傾向をつかむことに成功。さらに、お客様が希望する在庫がない場合は、売り逃しととらえ、“売り逃し商品”の情報を収集できるようになった。こうして潜在需要が把握できるようになったのである。

接客中に推奨した商品点数が1.7足から3.1足に急増

 こうした実験の成果は、数字にも現れている。2004年10月~12月の実験期間中の売り上げは、前年同月比10.5%増を記録した。2005年2月では、前年同月比8.3%の伸びを示している。本格導入後のこの5月は前年同月比9.9%増に達したという(ICタグが付いている対象商品のみの売り上げ)。
 また、お客様ひとり当たりの接客時間も、システム導入前は13分2秒だったものが、導入後は5分35秒に短縮された。伊藤氏によれば、お客様が試着してから購入するまでの接客時間はほとんど変わっておらず、購買に結び付かない接客時間が減少していると言う。そして、接客中に推奨した商品点数は、従来の平均1.7足から3.1足に増えた。接客時間内に従来の倍近い商品を提案することで、ヒット率も上がったのである。まさに、「接客の密度が濃くなった」(伊藤氏)と言えるだろう。
 今後、ほかの婦人靴にもICタグ付きの商品を拡大していくに当たって、ICタグのコストをメーカーが負担するのか、百貨店が負担するのかという課題がある。現在、同社では1ブランドで、値札に使っているバーコードとICタグを一体にしたものを実験中だ。靴の値札付け作業のコストが30~50円/足。値札レスにすると同時にICタグのコストがその水準になれば、将来的にはICタグ付きの商品を増やせると見ている。それに備えて、同社では、ICタグの耐久性などを実験している段階だ。
 同社では、ICタグの活用を、“店頭でのお客様サービスの充実”の一環ととらえている。同社の取り組みは、顧客接点でのサービスに新たな一石を投じることになりそうだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年8月号の記事