CRMの強化を図り顧客満足度の高いOne to Oneマーケティングの展開を目指す

日本アイ・ビー・エム(株)

4月1日、個人情報保護法が全面施行された。国内企業の多くが個人情報の取り扱いに慎重になっている中で、以前からワールドワイドで厳しいルールに則って個人情報の管理・運用を手掛ける日本アイ・ビー・エム(株)。個人情報保護法により企業に逆風が吹く中、同社では、今後ますますCRMの強化を推進。データベースを活用し、顧客満足度の高いOne to Oneマーケティングの展開を目指している。

厳しい社内ルールの下で個人情報を管理・運用

 「当社にとって個人情報に属するものが多々あります。理想的には、すべての個人情報がひとつのデータベースで、お客様の個人情報と私どもにとっての価値を“守る”という意味で管理・運用されているのがベストだと思っています」と語るのは、日本アイ・ビー・エム(株)マーケティングIMCマネジャーの瀬戸口修氏である。
 同社では、取得したすべての顧客情報はホストコンピュータに保管され、請求管理などに必要な顧客情報はそれ専用のデータベース、マーケティングに必要な顧客情報はそれ専用のデータベースというように、それぞれ別のデータベースで管理・運用されている。マーケティングの中でも、瀬戸口氏の担当部門であるIMC(Integrated Marketing Communications)は、データベース・マーケティング、アドバタイジング、イベントに使用する個人情報を管理しているという。
 瀬戸口氏によれば、すでに米国IBM本社および本社統括の国々において、個人情報の取り扱いに関しては法律以上に厳しいルールがあるので、それに則っている限り日本の個人情報保護法に抵触することはないとみている。
 従って、個人情報保護法が全面施行されても、同社のシステムや社内プロセスが大きく変わったということはない。ただ、ユーザー側の関心が非常に高まってきているため、個人情報の取り扱いに関して十分な配慮をするべく、部署ごとのガイドラインを作成した。瀬戸口氏は、「こういう環境(個人情報保護法の全面施行)の下で、改めてルールを徹底するためのリマインド的な意味を持っています」と説明する。
 また今年になってから、同社代表取締役社長執行役員の大歳卓麻氏が、「個人情報保護に関してもう一度社内のルール、対外的なルールをきちんと理解しましょう」といった内容のeメールを全社員に配信。正社員のみならず契約社員、派遣スタッフまでIBMの業務にかかわっている者はすべてeラーニングを受講したという。
 ちなみに、同社のWeb上における個人情報の取り扱い基準について、「IBMは、TRUSTeプログラムのメンバーです。TRUSTe は、独立した非営利組織で、その使命は、適切な開示と同意の取得を基礎とする情報の取り扱いを推進することにより、インターネットに対するユーザーの信頼を築くことにあります」と明記している。また、「IBMは、IBMのWebサイト(www.ibm.com)を通じてEU(欧州連合)からの情報の収集、使用および保存に関して、アメリカ商務省が規定する『Safe Harbor(セーフ・ハーバー)』の枠組みに従うものとします」と表明している。

適切な顧客情報の抽出を担うアナリティクス部門

 同社では1998年から、eビジネスという新しいコンセプトを提唱して、インターネットを前提としたビジネス・モデルを展開している。これは、インターネットをCRMやダイレクトマーケティングに取り入れることで、One to Oneマーケティングの進化につながると考えているからだ。この考えは、ますます強まっており、今後One to OneマーケティングとCRMを推し進めていく方向にあるのは間違いない。
 そのためには、顧客情報の活用は大きな命題と言える。そこで、「オプト・イン」でeメールの受け取りを承諾した顧客に対して、特定のセミナー案内だけではなく、お客様のニーズに対応してサーバやソフトウエア製品、ソリューションの提案などの情報も配信。そのほか、メールマガジンだけという特定の配信サービスを希望する顧客に対しては、データベースの中で厳密にフラグを付けて管理している。また、オプト・インについては、IBMのワールドワイドのルールとして、明示的にお客様が意思表示したことがわかるように、「(Yesに)チェックを付ける」方法を採用。ちなみに、配信停止の場合は、全配信の停止なのか、あるいはメールマガジンなどの特定のメールに関する停止なのかを区別して管理している。
 また、顧客情報はお客様から登録削除の要請がない限り、データベースに保管し続けている。そのうち同社が活用しているアクティブな顧客情報(企業の購買活動を行う上で意思決定を行うお客様)は約30% 。瀬戸口氏は、「One to Oneマーケティングで使わせていただいてるお客様はかなり限られています。この1、2年の間にセミナー参加やソリューションの提案をさせていただいたというように、何らかのかたちで双方向のコンタクトがあったお客様のデータを活用しているのが実情です」と話す。
 これは同社が、リレーションシップ・マーケティングとダイレクトマーケティングを融合しつつ、どれだけ適切なタイミングで顧客とタッチし続けていくかに重点をおいている現れだろう。
 瀬戸口氏が所属するマーケティングの中では、「マーケット・データ・アンド・アナリティクス」という部門が顧客情報そのものの管理を行っている。セミナーやソフトウエア製品などの告知を行う際には、アナリティクス部門に、ある条件に合うデータの抽出を依頼し、データベースから顧客情報を抽出してもらう。さらに、同部門は付加価値業務として、過去の購買履歴や購買パターンから購買予測モデルを作成し、依頼のあった顧客情報とともにIMCや宣伝などの部門に提案。キャンペーンに活用している。

セミナーの協賛で取得した個人情報は改めて許諾を得てからデータベースに格納

 同社がお客様に電話やeメール、FAXなどでアプローチする際に活用する個人情報は、同社のマーケティングや企業活動での使用の許諾が明確に得られているもの以外は一切使わない。具体的には、セミナーの参加者やWebサイトで告知した時にお客様が明示的に使用を了解したものだけだ。また、同社が他社が主催するセミナーに協賛した場合は、「セミナー参加者の個人情報は協賛者のIBMに提供します」と事前に説明がなされ、お客様がそれを了解していても、同社はオプト・インが取れたとは認識しない。あくまで第1次コンタクトの許可をいただいたととらえ、後日、アンケートでお客様が望まれたコンタクト方法(電話、eメール、DM、FAXなど)で、今後、同社の活動(セミナーやソフトウエア製品の案内など)でeメールなどの配信を行って良いかどうかの承諾を得て、始めてデータベースに格納できるルールになっている。
 そして、実際にお客様へアプローチする時には、購買履歴はもちろんのこと、前回、コンタクトを取ってからの期間、案内の内容(サーバ製品やソリューションなど)、興味事項(セキュリティや人事など)といった項目をキーに、One to Oneマーケティングを展開している。IMCでは、ソフトウエア事業やシステム製品事業などそれぞれの事業部に代わり、コアのオーディエンスとその周辺にいる見込客に対してアプローチし、お客様との良好な関係の構築を担う。
 今後、同社では、CRMを強化すると同時に、マスマーケティングとOne to Oneマーケティングをミックスしたコンタクトポイント・ストラテジーを検討していく。その中で、顧客情報の鮮度の維持や、データベースの分析手法、さらにはその新たな活用方法の開発も課題となっている。
 瀬戸口氏は、「個人情報保護法を遵守しているコンプライアンスの高い企業というイメージと実態をお客様に実感していただき、“IBMなら問題ない”と判断していただくことで、リレーションシップの構築につなげていきたい」と抱負を語る。個人情報保護法という制約の中で、いかに顧客満足度を最大化し、同社のビジネスにつなげていくかが今後の課題と言える。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年7月号の記事