DBを駆使して顧客ファイルへアプローチ コスト ・収益両面で高効率を実現

住商オットー(株)

住商オットーでは、35~55歳の女性をメインターゲットに通信販売事業を展開している。コストと収益のバランスから各カタログの発行部数を決定しており、そのためにDBを利用してポテンシャルの高い顧客を選定し送付している。並行して、Webサイトでの新規顧客獲得を積極的に展開。徹底したDB管理をベースにした同社の取り組みを取材した。

顧客リストは事業の要 マーケティング用DBを整備

 住商オットー(株)は、1986年、独・オットー社と住友商事(株)の合弁会社として通信販売を開始。主要カタログは、年間10回発刊するファッションカタログ「FOR YOU」や、年間2回発刊の、ホームグッズを満載した「HOME COLLECTION」だ。顧客リストを最も大切な財産としてビジネスを展開する同社においては、マーケティング活動はもちろん、全社として、顧客リストを管理・運用するデータベース(以下、DB)は事業の要のひとつであり、その意識が高い。
 同社では、7年前にマーケティングDBを構築。氏名・住所・電話番号などの顧客情報を蓄積してきた。一方で、企業の顧客情報漏えい事件が数多く報道されるようになり、個人情報の保護に対する一般生活者の意識も高まってきた。ビジネスを拡大するためには、商品の良し悪し以前に顧客情報の管理を徹底し、企業の信用度を高める必要がある。そこで、2003年に同社では、個人を特定できる情報をマーケティングDBから除き、ホストコンピュータに一括集中した。
 2005年4月の個人情報保護法全面施行に向けて、それ以前から、社内に委員会を設け、全社員に対して研修を実施したり、保護規定などを社内イントラにて掲示し、社員全員の共通の理解・認識を徹底している。また、各権限に応じて、顧客データへのアクセス権を決めており、すべてパスワードによって管理。取引先とは、個人情報保護に関する使用目的やデータ保管期間、廃棄方法などについて規定した覚書を取り交わしている。顧客に対しては、個人情報の使用目的や方法などを、同社Webサイトやカタログ内のわかりやすい箇所に明示している。
 並行して、今年秋のプライバシーマーク取得に向けて、関係機関にすでに申請を済ませている。

購買履歴中心のDBを活用し最適なコスト/収益バランスを実現

 現在、約550万の顧客ファイルの中から、約220万件を対象にカタログを送付している。
 カタログ配布数の算出は、各カタログの売上計画値とそれに対する実績、またそれに掛かったコストなどの過去の実績、他要素を加味し、最適なコストと収益のバランスを評価・検討して行っている。そして、会社全体の収益として評価された結果に基づき、次回の シミュレーションを繰り返し行う。
 DBの活用は、カタログ配布に当たっての利用が最たるものであり、データマイニングにより、購買履歴や年齢など、顧客のさまざまな属性から、各顧客の順位付けを行い、その結果から配布対象顧客の選定・送付を行っている。
 またDBとして、過去5年以内の購買実績のある500万件の顧客ファイル、それ以上を経過した300万件の休眠顧客ファイルを保持している。前者のファイルには購買履歴、属性など、後者のファイルには主要な属性のみを保存している。
 このDBを基に、前述のカタログ配布に加え、休眠顧客活性化のためのプロモーションが行われている。
 マーケティング活動におけるDB活用としては、プロモーション効果の測定、アンケート結果の評価、購買傾向の把握ほか、さまざまな活動に対する評価・検討に大いに活用している。

インターネットを活用し新規顧客へアプローチを図る

 顧客との接点作りとして、2000年春から、メールマガジン(以下、メルマガ)を週1回発行している。同社では、eメールアドレスも個人情報ととらえているため、配信リストは前述のDBとは別途に管理している。メルマガは、購買の有無は関係なく配信している。メルマガ登録層は、カタログの実績顧客に比べてやや若年層が多い傾向がある。
 新規顧客開拓においては、まずお客様に有益な情報をお送りすることがある旨をご了承いただいた(MPS=Mail Preference Service:DMオプト・アウト・サービス)上で、他社の顧客リストを使って自社のカタログを送付するという方法を採っていた。しかし、「MPSをクリアしているとは言っても、顧客側が何と言ってくるかわからない」という考えから、リストの貸し借りにナーバスになっている企業もあり、同社では、主にカード会社名義のリーフレットに同梱するという方法を継続している。施行後数カ月という時期で、現在、神経をとがらせている企業が今後どうなっていくか、他社の動向を見ながら新規顧客開拓手法を模索している状況だ。
 中でも、インターネットでの新規顧客開拓に積極的に取り組んでいる。まず、アフィリエイトサイトを活用したプロモーション。現在はASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダー)と契約して、成果報酬型アフィリエイト・ネットワークを利用し、アフィリエイトサイトへの提携促進を行っている。このほか、サーチエンジンの活用、他社のメルマガへの広告出稿、他社サイトへの広告出稿、楽天やYahoo!内のオンラインショップでのプロモーションを展開している。
 今後の課題は、 紙媒体からWebサイトへの誘導強化。現在、カタログ内の申し込み方法の案内の冒頭に大きくURLを表示したり、2次元シンボルを印刷して、ケータイへの誘導も図っている。Webサイトで紹介できる商品数はカタログの比ではない。ページの都合上カタログで訴求できない商品や、カタログ上で紹介しきれない商品、アウトレット商品などを紹介して、受注コストの安いインターネットでの購入につなげている。

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左から35~55歳の女性をターゲットとするファッションカタログ「FOR YOU」2005年春夏号、特集号。右は「HOME COLLECTION」

DBの精緻化も課題のひとつ

 既存顧客に対するDBを活用したプロモーションは、10%ディスカウントやギフトを付ける、などが主だったところ。個人情報保護法と関係するような顧客属性の収集は必要最小限にとどめ、余計なデータを持たないようにしている。その観点から、以前は顧客情報の項目として「職業」があったが、項目から除外した。お客様の側からすれば、「何か商品を買う時に、なぜ自分の職業を教える必要があるのか」という疑問を払拭することになる。
 “個客”対応は、技術的には可能。しかし、構想はあるものの実現には至っていないという。完全な「個」として考える場合、カタログという媒体で実施するには、お客様の満足度、コストと収益のバランスから考えて非常に難しく、Webのほうが適していると考えている。
 同社は、顧客の満足度・志向・嗜好などの把握を目的として、定量調査を行っている。今後、これらから得られるお客様の志向や嗜好をDBに組み込んだ、新しいアプローチを展開できないかと検討していると言う。同社のさらなる取り組みに注目したい。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年7月号の記事