電子チケットの利便性を追求し販売機会増大に注力

ぴあ(株)

Webサイト「@電子チケットぴあ」では、公演直前でも手軽にチケットが検索・購入できるサービスを展開。チケット販売機会を増大させている。顧客の利便性と満足を追求した同社のサービスについて話を伺った。

チケット販売のタイムロスを解消し販売機会を拡大

 エンタテインメント系チケット販売の市場規模は1兆3,000億円。そのうち約10%の1,000億円強がチケッティング会社の販売市場だ。ぴあ(株)のチケットの売り上げは約600億円(2003年度実績)で、業界トップを維持している。
 現在の販売チャネルは3つ。ひとつは電話で、音声認識予約とPコード予約、オペレータ予約がある。2つ目は、全国に約500カ所の「ぴあステーション」と「チケットぴあスポット」、提携先のCVSを合わせて約2万店の店舗ネットワーク。3つ目がインターネットだ。これにはWebサイトの「@電子チケットぴあ」と、ドコモ、au、ボーダフォンの各キャリアでのモバイル・インターネット・サービスがある。
 同社は、1972年にイベント情報誌の草分け『ぴあ』を創刊、1984年にオンラインチケッティングサービス「チケットぴあ」をスタートし、1999年にインターネット・チケット・サービスを開始した。ただ当時は、チケットの受け渡し方法は郵送という手段しかなかったため、イベント開催日の約10日前にネットでの販売を終了せざるを得なかった。思い立ったらすぐに調べる利便性があるにもかかわらず、イベント検索はできてもチケット購入ができないという状況があったのだ。
 そこで同社は、2003年10月、チケットの検索・購入・決済、そしてチケットの受け渡しまでネット上で完結できる「電子チケット+電子クーポン」サービスを開始した。登録無料の「@ぴあ会員」に登録すると、電子チケット受け取り用の電子私書箱「デジポケ」が付与される。チケット受け取り方法を郵送かデジポケから選び、後者の場合、購入後即座に自分のデジポケにチケットが電送される仕組みだ。この利便性が評価され、会員の約85%がデジポケへの受け渡しを選択している。
 「お客様が『今週末どうしようかな』あるいは『今日どうしようかな』と思い立ったときに即座に行動に移せて、購入まで完了できるのがインターネットの特徴。購入と電子チケット入手の時差はほとんどありませんので、イベントによっては、当日券の購入も可能です。お客様にとっては購入チャンスが増え、われわれにとっては販売チャンスが増え、と双方にメリットがあります」(覚張氏)

チケットの流動性に着目した「転々流通」

 サービスの特徴のひとつに、購入者が一緒に行く人に直接対面せずに、インターネット上でチケットの受け渡しができる「転々流通」がある。イベントは複数人で楽しむ場合がほとんど。従って、ひとりが複数枚のチケットを購入し、その後同行する人に譲渡するという流れがある。「転々流通」は、この流れをインターネット上でスムーズに行えるようにしたもの。当日急に行けなくなってほかの人に譲る、といった場合も非常に便利だ。
 電子チケットのチケットデータが認証できれば、保有者が誰かを入場時に認識する必要性はない、との考えに基づいた「バリュー認証方式」を採用。実際には、①対応携帯電話に権利情報をダウンロード、②対応するリーダーライター経由でPC、またはファミリーマート店頭のFamiポートからICカードにチケット権利情報をダウンロード、③紙チケットを発券、の3つの方法がある。① ②の場合は、会場に設置されたゲートシステム「デジゲート」で入場権利情報を認証する仕組みだ。現在、約40会場でデジゲートを常設し、現在までに延べ140会場に設置した実績を持つ。現状では、Famiポートやチケットぴあの店頭で、デジポケから紙チケットを発券して利用するパターンが多いという。今後、さらなるインフラの整備に注力することが課題だ。

行動連鎖型マーケティングを展開 紙メディアやポータルサイトとも連動

 @ぴあ会員の会員数は、サービス開始から約1年の2004年10月末現在で約92万人と、順調に拡大。会員の男女比はほぼ半々だ。デジポケでチケットを受け取るだけの会員もいるが、90%以上がチケット購入を目的に登録している。
 会員の多くは、年に1、2回チケットを購入する程度だ。お客様のニーズは、自分の欲しいチケットを確実に手に入れること。お客様に有効だと思われる情報をメールやサイト上で案内し、チケット購入を促進している。「チケット商品はほかの消費財と違い、増産ができない限定商品。それゆえプロモーションが難しく、ユニークです。チケットが権利商品であることを考えたときに最も良いサービスのかたちは何か、と考えています」と同氏は言う。
 同社独自のサービスとして、イベントチケットに連動した行動連鎖型マーケティングがある。一般的に、プッシュ型マーケティングはあらかじめ申請・登録された個人のデータベース情報を元にサービスを提供する。これに対し同社では、チケットの持つ時間・場所・内容の限定性に着目。作品やイベントに関連したクーポンをチケットに紐付けするかたちでサービスを提供するモデルを確立した。具体的なコンテンツに、イベント会場周辺の飲食店や、会場内の物販店で利用できるクーポン、アーティストのサンキューメッセージやプレゼントなどが挙げられる。クリック率は配信エリアやクーポン数によって異なるが、抽選プレゼントでは80%を超えることもあるという。「イベントチケットは時間と場所を拘束される購入ハードルの高い商品。その分、集まるお客様は行動力もあり反応率も高いのです」(覚張氏)
 また、さまざまな方法で販売機会の拡大を図っている。先行抽選販売サービス「プレリザーブ」は、チケット購入の入り口、導線として有効だ。また、残券がある場合に「まだ間に合う」という情報を発信したり、登録したアーティストやチーム、劇団などのチケット発売情報をメルマガでお届けする「Myアーティスト登録」サービスを展開している。「チケット発売初日に即予定枚数が終了するのはほんの一部に過ぎません。イベント当日まで購入が可能なインフラを整備し、そもそもイベントの開催を知らなかったお客様に向けて情報を発信するなど、販売機会拡大の可能性はまだまだあります」と同氏。
 新たなメディア展開として、10月より情報誌『ぴあ』をモデルチェンジし、映画、音楽などの各ジャンルにQRコードを掲載している。アナログの紙メディアで情報収集しているお客様をモバイルデジタルのチケット購入画面にシフトさせる狙いだ。モバイル画面では、チケット情報を閲覧することも可能。また9月より、「Yahoo!チケット」のサービスを開始した。@ぴあのWebサイト全体のページビューは、1日当たり250万。対して、Yahoo!Japanは1日で10億以上のページビューに上る。今までチケットに興味がなかった方を新規顧客化する大きな取り組みとして、今後その成果に注目していきたい。

ぴあ

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月刊『アイ・エム・プレス』2004年12月号の記事