より高い目標設定で自主責任化を目指しグループ全員が「企業市民」として活動

(株)リコー

創業以来、「人を愛し、国を愛し、努めを愛す」の三愛精神でビジネスを展開してきた(株)リコー。国内132社、海外261社、グループ従業員数7万3,200人を擁する同社は、グローバル社会の中で企業として存続するためにCSR室を発足。企業倫理に基づいた行動規範を明確にし、全グループ社員に向けたコンプライアンス啓発の推進や、社内外への情報開示に努めている。

社長直轄組織としてCSR室が発足

 同社は、1980年代から社会環境の負荷軽減に積極的に取り組んできた。商品自体も環境への取り組みも、世界でトップレベルに到達するという方針を打ち立て、1992年には「環境綱領」を制定した。毎年、アメリカ、ドイツなど各国の環境評価機関の調査に回答していた同社だが、1998年ごろから、質問に環境以外の項目が見られるようになってきたという。それらは、障害者の雇用、男女の管理職比率、株主への情報公開など、サステナビリティ(sustainability=企業の持続可能性)の概念に基づくものであった。
 この流れを受け、同社は、2002年4月にCSR研究会を発足。9部門15名のメンバーによる月に1、2回の勉強会をスタートさせた。ここで、WEC(World Environment Center)の下部機関であるIEFによるCSR(Corporate Social Responsibility=社会的責任)基準ICSR(International Corporate Social Responsibility)を参考にレビューし、同社が強化すべき取り組みのバランスをまとめて、推進部門の設置を答申。また、同時期に、これまで法務部門が担当していたコンプライアンス(法の遵守)にかかわる制度の充実、教育の強化と、総務部門が担当していたリスクマネジメントのグループ企業全体での強化についての答申がなされた。
 これら3つの答申の結果、2003年に社長直轄組織としてCSR室を発足させ、本格的な取り組みを開始した。また、グループ全体を統括するに当たり、情報収集から開示に至るプロセスをマネジメントする開示委員会を設置し、連携を図る体制を整えた。

リコーのCSRの考え方

 同社では、お客さま視点にたった情報開示が企業の透明性を高めるとの考えから、これを積極的に推進している。それは、企業が高い倫理観により法律を遵守し、社会的責任をまっとうすることを消費者から強く要求されている、という認識があるからだ。グループ・ビジョンとして「企業市民として責任ある行動」を掲げ、CSRの前提条件として、「誠実な企業活動」「環境との調和」「人間尊重」「社会との調和」の4つを挙げている。
 関係するすべてのステークホルダーに対して社会的責任を持つ、というのが同社の考え方だ。顧客がいて、株主、サプライヤー、社員、地域社会の生活者、さらに広くいえば地球(環境)。それらに対し、PL法、商法、省エネ法、リサイクル法、労働基準法といった最低限の法の遵守はもちろんのこと、各ステークホルダーに対しより高い目標を自ら設定し、自主責任のもとに取り組み、その結果を公開していく。また2004年、社内外に向けたコミュニケーション・ツールとして、「社会的責任経営報告書」「環境経営報告書」「アニュアル・レポート」の3つを同時に発行。リコーグループとしての透明性の確保に努めている。

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「社会的責任経営報告書」を発行し、リコーグループで起きた事件などをどう解決したのかを開示している

PDCAサイクルを構築し事故の未然防止を図る

 同社では、当面はコンプライアンスとリスクマメジメントをCSR室の活動の中心に置いている。
 例えば、実際に起きてしまった事故について、誠実な社外対応、徹底的な原因追及、再発防止策の策定といった処理と、想定されるリスクについて未然防止策の策定まで行っている。まず、クライシスについて、139項目をリストアップ。重要性(影響度)と発生可能性(発生頻度)のマトリクスにプロットし、重要度の高い25項目を抽出し、重点的な未然防止策の策定・改善を推進してきた。このうち、14項目は1年半でPDCAサイクルをすでに完了、11項目は現在PDCまで進んでおり、未然防止策の標準化に向けて確実に成果を上げている。
 また、社内の人事面でのトラブルは人権関係が比較的多いが、内部告発による不祥事の発覚も少なくない。社員個人の犯罪も含め、グループ全体の不祥事についても企業として責任を持つ、という姿勢を徹底させ、2003年4月より内部告発制度(ほっとライン)を施行している。

グローバル企業「リコーグループ」の統一企業行動原則としてCSR憲章を策定

 当初、行動規範の対象はグループ内でもリコー本体だけであった。しかも国内に対応した基準であるため、グローバルな事業展開を見せる同社の規範としては不十分。このため、憲章を別個に設け、策定にあたっては、国連アナン事務総長が提唱したグローバル企業の活動原則「グローバルコンパクト(GC)※」や、OECD(経済協力開発機構)の「多国籍企業のガイドライン」を参考にした。
 こうした同社のCSRの先駆的な取り組みは、多くの企業が参考としており、これまでに100社以上が具体的な事例を聴講している。しかし、あらゆる企業に共通するCSRの定義はない、と同社CSR室長の平井良介氏は言う。グループ各社を含めた社員全体を動かしていくためには、 「リコーグループにとってCSRとは何か」を明らかにする必要があった。「2004年1月1日にCSR憲章を設けるまでの1年間は、社内でCSRという言葉はほとんど口にしませんでした。憲章作成後はじめて、例えば社内公募制度もCSRなのだ、と社員が理解することとなったのです」(平井氏)
 一人ひとりの社員の自覚を高めていくためには、リコーというブランド・ロイヤルティを高める必要がある。コンプライアンスとは教育・意識付けによってしかできない「行動の倫理観」である。同社はこれを客観的に把握していく必要があると考え、社員への浸透度をいかにして測定するかを、現在検討している。

CSR会計システムの構築を計画中

 同社が今後取り組まなくてはならないと考えているテーマのひとつに、「メンタル・ヘルスケア」がある。これは、パワーハラスメント、セクハラも含め、過重労働などの問題がもたらす社員への精神面への影響が顕著になっているからである。カウンセラーや地域との連携を図り、その対応策を講じることにも注力していく予定だ。
 一方、環境についての取り組みは投資対効果が見えやすい。例えば、さまざまな商品に使用している部品の共有化、使えなくなった商品のリサイクル、部品点数の削減などによるコストダウンは効果が数値であらわれる。しかしCSR全般としては、かかる費用は把握できるが効果が見えにくい面が多いことは確か。そこで同社では、学術機関とも協力し、長期的視点でのCSR会計システムの構築を計画中である。
 日本国内では、官庁(総務省、環境庁、経済産業省)の動向と、国際的にはISO の下部機関であるTMB(Technical Management Board)で最終決定されたISO 化についても注目している同社。今後も、「リコー」ブランドのロイヤルティを指標としたCSRの活動を推進するとともに、内部監査システムも強化していく構えだ。

※1999年、国連のアナン事務総長が「人種」「労働基準」「環境」の3分野において提唱した原則。2002年、同社は日本企業として2番目にGCの参加意志を表明している。


月刊『アイ・エム・プレス』2004年9月号の記事