パーソナルな情報を組み込んだDMで休眠組合員のレスポンスを促進

生活協同組合 ちばコープ

開くとA2版のチラシになる封筒一体型のDMに、個別のメッセージを印字。休眠中に導入された新商品・サービスなどを案内するとともに、アンケートハガキを付けて、組合員とのコミュニケーションを促進。購買の再開や、組合員の声の収集に、大きな成果を上げている。

約7万人の休眠組合員の存在が大きな問題だった

 近年、食品スーパーやドラッグストアなどでは、ポイントカードによって顧客の購買履歴を把握し、その情報を効率的に活用することを目的としたFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)を導入する企業が増えている。顧客データにRFM分析を施し、MDや販促に効率的に活かそうというわけだ。
 購入金額や来店頻度によって、顧客をあえて「上」「中」「下」に分けた場合、「上」顧客の維持はもちろんのこと、「中」をできるだけ上に引き上げようという具体的施策は打っているだろうが、「下」の顧客、言わば“休眠顧客”に対して働きかけをしているところは少ないと言っていいだろう。なぜならば、コスト・パフォーマンスが悪いからである。しかし、新規顧客の獲得がますます難しくなっている昨今、休眠顧客の掘り起こしができるのなら、それは願ってもないことだ。
 共同購入を柱に、店舗展開も行っている生活協同組合(以下、生協)も例外ではない。生協にとって、長期間利用がない、いわゆる“休眠組合員”の存在は、頭の痛い問題。ちばコープも同様の問題を抱えていた。同生協では、6週間利用がない組合員には注文用紙の配布を自動的に中止しているが、その数は年間1万~1万5,000人。2003年度年初には、累計で7万人以上の休眠リストが挙がっていた。店舗利用を含めた組合員総数が約40万人のちばコープにとって、見過ごすことのできない数である。
 同生協では、それまで毎年1回、そうした組合員に対してさまざまなパンフレットやチラシを同封したDMを送付し、利用の再開を促してきた。しかし、再開の意思がある組合員は何らかのレスポンスをしてくれるものの、レスポンスのない組合員の状況はまったくわからないという状態だった。総括すれば、コミュニケーションが完全に一方通行だったのである。
 いろいろと悩んだ挙句、2003年夏に「レスポン君」なる新しいスタイルのDMを導入。これが休眠組合員の再利用促進に大きな効果を発揮した。

新たなかたちのDMが効果を発揮

 「レスポン君」の外見は、一見、普通の定型封筒。しかしハサミで切らずに糊付けされた部分をはがして開いていくと、A2版の1枚のチラシになる。最大の特長は、宛名以外にも顧客に応じたパーソナル印字ができること。これによって、One to Oneとまではいかないにしろ、通常に比べてメッセージ性の強いDMの作成が可能になる。
 ほとんどのDMは、封筒の中に、商品やサービスごとにさまざまな種類のチラシやパンフレットが入っている。多くの人がそうだと思うのだが、よほど興味を引くものが目に付いた場合以外は、いちいち広げて確認するのが面倒で、まったく見ずに捨ててしまうだろう。
 「レスポン君」を開発したのは、石川県に本社を置く(株)ウイル・コーポレーションという印刷会社。開発のきっかけとなったのは、同社社長の、バラバラのものが1枚の紙に収まっていたら、ひと通りは見るだろう、という思いつきだ。どんな仕事においても、このように「お客様の立場に立った」発想は非常に重要である。
 ちばコープではこのシステムを用い、それぞれの顧客のニーズに合わせて、共同購入以外にも個配(個人別宅配)などの利用方法があること、高齢者、妊婦、障害者手帳を持っている人たちは個配利用料が半額になるサービスがあること、また、それらのサービスの利用者の声などを掲載したDMを作成。これを休眠組合員約7万人に送付したところ、1,000人近くが利用を再開してくれたそうだ。
 それにも増して大きな成果だったのが、アンケートへのレスポンス率の高さだ。このアンケートは、コープオリジナルのだしの素プレゼント付きの、切り取ってすぐに投函できる料金受取人払いのはがき形式だった。チェック項目は、「利用を再開したい・このままでよい・脱会したい」「個配について詳しく知りたい」「店舗の場所を知りたい」など。これに、およそ1割が回答してくれたのである。プレゼントの品を地区担当者が組合員の家を訪問して届けることで、休眠組合員との直接のコミュニケーションが実現した。

0405-c3R

開くと大きなチラシに早変わり。アンケートハガキも付いた、ちばコープのDM

アンケートの回答がわが身を振り返るきっかけに

 「ヒアリングの結果、わかったのは、『いつの間にか注文用紙が来なくなっていた』という事態が頻繁に起こっていたことです。『まあ、いいか』という感じでそのまま放置していたり、『また再開したいな』と思いながらも、何となくきっかけが作れなかった組合員さんが結構多いことがわかったのです」(ちばコープ 共同購入運営部スタッフ)。休眠の理由は、生協に不満や不都合を感じたからというよりも、「いつの間にか」「何となく」というケースが多いことが判明したのだ。
 また、アンケート回答者のうち、「休止状態のままでいい」という人が半分近くいたという。しかしこれも、成果のひとつと言える。これからは、そうした再開の意思がない休眠組合員にはアプローチをしなくていいのだから。
 また、「店舗利用者のはずなのに『店舗の場所を知りたい』という項目に○を付けた方には、プレゼントと一緒に店舗の地図やチラシを持って行きました。このほか、『個配について知りたい』『共済について知りたい』など、こちらからすれば組合員さんは当然知っていると思っていたことが案外伝わっていなかったことがわかり、大変驚きました」と、生の声を聴く意義は大きい。
 これは休眠顧客に限ったことではない。上得意客だったはずの顧客が急に来なくなった、買上額が減ったなどというとき、その顧客のほとんどは“サイレントマジョリティ”、 すなわち何も声を発しないのが普通だ。
 声にならない声を聴く体制作りは、どの業種においても最重要課題のひとつ。これを日々実践しているちばコープの、今後の動向に注目したい。


月刊『アイ・エム・プレス』2004年5月号の記事