個別対応カリキュラムの強化で休眠活性・休眠防止

(株)増進会出版社

個々の目標や環境に応じたカリキュラムを通信教育で実現。受講者それぞれの学習の取り組みやすさを追求し、サポート体制を強化した結果、継続率が向上している。

類を見ないターゲティングで業績拡大

 Z会グループの本部機能を担う(株)増進会出版社は、1931年、東京・新宿において実力増進会の名称で創業、大学受験生向けの添削指導を開始した。戦後は静岡県東部に本拠地を移し、学外教育の領域で事業を開拓しながら、順調に業績を伸ばしてきた。現在は、通信教育、対面での塾、出版を事業の3本柱に、グループの売上高210億7,700万円(2002年)、経常利益26億3,700万円(2002年)を計上している。
 通信教育事業は大学受験生から順に高校生、中学生、小学生と対象を拡大。公立トップ高・難関国私立高を目指す中学生、および中高一貫校に通う中学生に向けて、1982年に創立された中学コースは、横浜市に拠点を持つ。
 中学コースの会員数は約9万人(2003年)。首都圏、関西圏を中心とする都市部在住者が多い。大学受験生の受講者については、東大合格者の中のZ会会員比率約6割を長年維持するなど学力上位のハイエンド層の受講が多いことが特徴だが、中学コースにおいても中高一貫校生または公立校の成績上位者の受講が多いのが特徴となっている。
 通信教育大手のベネッセコーポレーションは、幼児や小学生をターゲットとした新規開拓を皮切りに高校生まで継続受講を促す方式を採っているが、受講者の年齢が進むにつれて、塾や受験専門の教育機関といった競合の出現により、受講者数の年齢構成はピラミッド型を描いている。これに対し、同社の場合、大学受験生から対象学年を引き下げるかたちでコースを増設してきた経緯から、受講者の年齢構成はおおよそ逆ピラミッド型だ。しかし中学コースだけを見ると、高校受験が近付くにつれ塾などの競合が増すことに加えて、中高一貫校生における中学3年頃の“中だるみ”などもあり、ほぼ長方形の年齢構成になっているという。
 こうした中、同社では、受講者のリテンションを図るべく、2002年春より、学習目標や学習環境に対応した「個別対応型」カリキュラムをスタートさせた。

「個別対応型」通信教育で受講者満足を獲得

 同社の「個別対応型」通信教育とは、「個人別教材」「個人別指導」「個人別相談」により、従来の通信教育にはない個別対応カリキュラムを提供するというもの。例えば「個人別教材」は、受講者の在学校、志望校などの属性情報に応じて選定される、個々の目標に最短で近付くための個別専用教材。「個人別指導」は、一人ひとりの答案をきめ細かくチェックする添削指導。「個人別相談」は、学習アドバイザーを設置することでZ会の教材、学習方法、進路などについて必要に応じて相談できる場を提供し、家庭学習を個人別にサポートするものである。
 「学校に合っていないと勉強を進めづらい」といった声に応えて、こうしたリニューアルを施した結果、受講者の満足度は確実に向上。継続率は、以前より10ポイント以上、高まったという。
 個別対応を進める上で、データベースの構築は不可欠。申込書により得られる属性データはホストコンピュータに蓄積。一方、添削課題の提出状況やZ会が実施する模擬試験の成績情報などは別にサーバに蓄積している。受講者からの問い合わせに学習アドバイザーが適切に対応できるよう、これらの情報をひとつのモニター画面で確認できる仕組みを構築している。

個別対応カリキュラムは休眠に対する最大防御

 受講者のリテンションに大きな影響を与えるのは“やる気”の持続だ。添削課題の提出を動機付ける仕掛けとして、弱点をチェックできる「成績表」の送付や、提出ごとに賞品交換ポイントがたまる「努力賞」を設置。また、個人別対応を強化した教材そのものもやる気の向上に重要な役割を果たす。各自の目標や、学校での学習内容に合致した単元や難易度、量を選択することによって、学習がスムーズにはかどるため、提出率が高まるのだ。現在、受講者の約6割は、自主的に添削課題を提出してくる。残りの約4割が、提出が滞りがちな受講者である。
 中学生は期末テスト、 学校行事、 部活動などで忙しく、教材に取り組める学習環境には個人差がある。だから、提出が滞りがちな受講者を、一概に“休眠”とネガティブにとらえることは危険だ。実際、添削課題を提出していなくても、教材そのものには取り組んでいたり、自分の学習に活かしたりしている受講者もいる。
 ただ、一般的には教材活用=提出という傾向があるのは事実。そこで、アウトバウンド・コールによるプッシュを実施している。提出促進のタイミングは試行錯誤中だが、現在は提出の滞りが2~3カ月連続した時点でアプローチを行っているという。

“困ったときに頼られる”存在に

 受講者の“やる気”の持続には、顧客を知り、顧客の事情に即した学習サポートの提供を心掛けることが重要だ。受講者にとって、便利で心地好いコミュニケーション手段は千差万別であり、時と場合によっても異なる。顧客とのコンタクトチャネルを多様化して対応しているのは、一人ひとりとのコミュニケーションを活性化するためだ。個人別教材の活用を促進するだけでなく、さまざまな機会をとらえて受講者の声を収集し、関係強化に努めている。例えば学習情報のほか、受講者の投稿なども多数掲載した月1回発行の会員情報誌「Z CLUB」や、受講者同士が情報交換できるインターネットサービス「ネットぷらす」といったチャネルも用意されている。ここには成績優秀会員の教材活用法を紹介する「学習法フォーラム」や、合格者(先輩)の「合格体験記」なども盛り込まれており、個々の受講者が自分自身に合った学習方法を見出すことをサポートしている。
 同社が目指しているのは、“困ったときに頼られる”存在になること。「個人別相談」対応の強化は、まさにこのコンセプトに則った施策だ。ヘルプデスクにおいて教材、学習方法、進路などの相談にのり適切なアドバイスを行う「学習アドバイザー」は、常時30名以上を擁し、採用ハードルも高く設定している。ヘルプデスクに寄せられる受講者からの学習相談は年間約6万件。電話、FAXおよび郵送、Webメールでの受け付けが、それぞれ3分の1ずつである。
 中学生という難しい年頃だけに、コミュニケーションのとり方にも工夫が要る。例えばアウトバウンド・コールの場合、同社では1件当たり平均約7分の通話時間のうち、多くの時間を受講者それぞれの事情やニーズを知るために話を聴くことに当て、メッセージは個々の状況に合わせてできるだけ端的に伝えるよう心がけている。その結果、コールを受けた受講者のうち約3割が、1~2カ月以内に添削提出を再開するという。
 同社の願いは、学ぼうとする意欲のもとに受講者それぞれが自分に合った学習方法を獲得し、志望校合格を通して本物の実力を得ていくこと。今年から小学1年生コースがスタートし、小学生から大学受験生までの一貫したカリキュラムが着々と整いつつある。その中間に位置する中学コースでの取り組みの成果は、継続率の最大化に大きく寄与していくことは間違いない。


月刊『アイ・エム・プレス』2004年5月号の記事