750万人の顧客データが最強の武器 データの生きた活用法を模索

(株)ミレニアムリテイリング

西武百貨店とそごうのポイントカードシステムの運用を担っているミレニアムリテイリング。この9月から、ポイントカードの機能統一を図った。会員数は750万人。この膨大な顧客データを最強の“武器”として、新たな活用方法を探求している。

“個客対応”の重要性に改めて注目が集まる

 ここ数年One to Oneマーケティング、すなわち個客対応の重要性が喧伝されている。しかし、それは昔の商店では普通に行われていたことである。「顧客データベースの整備とその活用」と言えば“今風”だが、はるか昔から商店主はお得意様の顔や名前はもちろんのこと、その家族構成まで熟知しており、それぞれに適した商品を勧めたり、サービスを提供したりしていたのである。いわば頭の中にコンピュータが入っていたわけだ(もちろんそうした専門店は現在でもある)。
 高度経済成長時代、消費の拡大とともに急成長した企業では、顧客数が増大し、きめ細かな顧客情報を把握することが困難になった。それでも、消費の拡大とともに、大量仕入れ、大量販売という方法で十分売れていたのである。
 しかし、消費不況の常態化に伴いマスマーケティングが通用しなくなると、個客対応の重要性に改めて注目が集まってきた。そうした状況の中で急速に普及してきたポイントカードシステムは、顧客に対するサービスと同時に、顧客データの蓄積と顧客の囲い込みを大きな目的としている。ここでは、膨大な顧客数を抱える百貨店の事例を見てみよう。

顧客データ収集のためのユニークなポイントカードシステム

 西武百貨店において顧客データの蓄積に効果を発揮しているのが、1995年に試験運用を始め、1996年から本格導入した「クラブ・オン」というカード会員システムである。買上額の2%を還元するという通常のポイントカード方式だが、ユニークなのは、年間の買上額に応じたボーナスポイントを次年度に加算するとともに、カードの種類も変えるということ。具体的には次のようなものだ。
・20万円未満=ボーナスポイントなし≪一般カード≫
・20万~50万円未満=ボーナスポイント2%≪ファーストカード≫
・50万~100万円未満=ボーナスポイント3%≪ゴールドカード≫
・100万円以上=ボーナスポイント5%≪プラチナカード≫
 単にボーナスポイントを還元するのみでなく、顧客が実際に持つカードがランクアップしていくことで、店に対するロイヤルティもアップしていくという仕掛けだ。変化が実際に目に見えることの効果は想像以上に大きいものである。また、このように顧客にとって魅力のあるシステムでなければ、信憑性のあるデータは取れない。現在の会員数は約400万人に上る。

買上額重視の“売り”の発想から真の顧客志向への転換

 現在、カードシステムの運用を行っているのは、(株)ミレニアムリテイリング。同社は、西武百貨店とそごうの持株会社として発足した会社で、百貨店事業の運営機能を担う2社を統括する本部の役割を果たす。この9月1日には、そごうで発行されてきたミレニアムカードのサービス内容を、クラブ・オンカードと同じにし、どちらかのカードでも、全国の西武百貨店とそごうの共通カードとして使えるようにした(ちなみにランクごとのカードの名称は違う。ミレニアムカードではクリスタル、シルバー、ロイヤルと呼んでいる)。ミレニアムカードの会員数は350万人。両百貨店を合わせ、会員数は750万人に膨れ上がった。
 これまで会員情報の分析方法は「Recency=最終購入日」「Frequency=購買頻度」「Monetary=購入金額」を要素とするRFM分析がメインだった。「しかし…」と、ミレニアムリテイリングの販売計画本部・顧客計画担当の佐藤洋一氏は反省を込めて続ける。
 「これまではどちらかと言うと買上額重視、いわば効率優先だったが、それではどうしても限界がある。また、日々お客様に接する売場のスタッフにも、極端な言い方をすれば上得意客のみを大切にして、それ以外のお客様はないがしろにしてもいいという雰囲気が蔓延しかねない。上位顧客の囲い込みはもちろん重要だが、これからはもっと裾野を広げていかなければならないと考えた。」
 そのためにはどうしたらいいのか。「モノや売場からの発想だった頭を、顧客志向に切り替えて、スタッフ一人ひとりが顧客とのパーソナルな関係作りを目指さなければならない」(佐藤氏)。まずこれを浸透させるために、今、全店長が参加する合同店長会議や販売部長会議などで、その考えを繰り返し伝えている。上の意識が変わらなければ、現場のスタッフが変わるはずがないからだ。
 社内では、「千客千答」という言葉をキーワードとして使っているとのこと。呼んで字のごとく、千人の顧客に千の答えを用意する、すなわち“個客対応”を徹底させようということである。データの活用も売り場が最も効果が見えやすい。顧客への思いを持ってこそ、それぞれの顧客の最終購入日、購買頻度、購入金額、そして購買履歴といったデータを駆使し、心のこもったDMやサンキューレターを出すなどの個客対応をしなければならないという発想が生まれてくる。さらには、自分の売り場のみの売り上げを考えるのではなく、その顧客が必要としているほかの商品も薦めることができるようになることが理想という。
 ここで問題となるのが、百貨店の販売員の多数を占めるメーカーの派遣スタッフの存在だ。買上額重視ではない、新たな考えに基づいたデータ活用、そして売り場での接客を実現しようとしても、派遣スタッフに自社の社員と同様の教育システムを適用することは難しいし、強制もできない。しかしこの課題をクリアしなければ、これまでのやり方から脱却することは困難なのである。

750万人のカード会員データの新たな活用法が最重要課題

 同社では、前述の通り9月から2つのカードのポイント乗り入れを開始した。これを記念して、「夢祭」というキャンペーンを実施したが、西武百貨店を利用したそごうの顧客は約1万5,000人、そごうを利用した西武百貨店の顧客は約2万人と、他店に流出していた可能性のある顧客をグループで刈り取ることに成功した。今後は、この結果をさらに分析し、マーケティングに反映していく考え。
 また現在は、ロイヤル、およびプラチナカスタマーの育成を目的に、ランクアップが近い顧客に個別アプローチをするなどしているが、750万人に及ぶ顧客データの本格的な活用はこれからといったところだ。
 「当社には750万人というカード会員のデータが揃っている。例えて言えば武器は持っているわけだが、全従業員の意識変革と同時に、その武器の使い方を再検討しているところ。金額ベースに基づいた“売り”の発想ではなく、これまで実施してきたRFM分析をもっと深化させることが必要。そして生涯顧客をひとりでも多く創っていくことがこれからの最も重要な戦略課題だ」と佐藤氏は語る。そのひとつの到達地点が、2005年オープン予定の大阪・心斎橋店。既存の建物を完全に壊して、ゼロから建設している同店は、リニューアルオープンではなくあくまで新規出店の扱い。戦略店舗のひとつと位置付けられ、期待が高い。同店オープンまでにいかに顧客志向に基づいたデータの生きた活用を実現できるかが、同社の今後を占うカギになることは間違いなさそうだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年11月号の記事