利用状況に応じて会員をセグメント 適切な対応でカード利用を促進

(株)クレディセゾン

リスクとプロフィット――守りと攻めの両面からカード会員の価値を測る指標、“カスタマー・キューブ”を開発。将来の利用予測も加味して適切な対応方法をとることにより、カード会員の離反防止や稼働率アップを実現させた。

3つの軸で顧客を格付け

 (株)クレディセゾンは、提携カードを含むセゾンカード会員、約1,490万人の会員データを保有している。データベースには入会時に申込書に記入された属性データと、利用履歴、請求・引き落としなどの債権回収データ、問い合わせ履歴などの情報が登録されている。ちなみに会員のうち65.8%が女性。年1回以上の利用のある稼動会員は807万人である。
 ゴールドカードなど一部のカードを除き、セゾンカードの年会費は無料。同社が収益を確保するためには、カードの利用促進と、未入金のリスクを最小限に抑えることが必須の課題だ。
 同社がリスクマネジメントのために情報系データベースを導入したのは1991年。当時のシステムは容量が限られていたため、サンプルデータとして会員データの30分の1を登録していた。その後1995年にはシステムを刷新、全件入力に切り替えた。そして2002年6月、業務量の増加と情報量の増加・複雑化に対応するため、再度システムを更新。この際に導入したのが、独自の顧客価値測定指標、「カスタマー・キューブ」である。
 同社は全国の提携店舗に設置された166カ所のセゾンカウンター、電話での問い合わせに対応するインフォメーションセンター、DM、Web、FAXサービスなどさまざまな顧客接点を有しているが、以前はそれぞれの担当部署で、優良顧客や顧客満足などについての認識が異なっていた。「カスタマー・キューブ」導入の目的のひとつは、その基準を明確化することだった。
 「カスタマー・キューブ」は、カード利用度に応じた“収益性”、カードの保有年数や直近の利用からの期間などから判断される“継続性”、現時点での未入金や過去の未収の実績、および未来の未収確率から導かれる“安全性”の3つの軸で会員をセグメント。プロフィットにリスクを加味し、攻めと守りの両面から顧客の価値を測っているのだ。収益性と継続性については過去1年間のデータ、安全性については過去3年間のデータを基に、毎月、評価をし直している。
 同社における“優良顧客”は、3つの軸すべてにおいて最高のランクにあるグループの会員である(=「21」、 図表参照)。 このグループの人数および維持率が、「カスタマー・キューブ」運用の効果を測る指標となっている。

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危うい会員には丁寧な応対を

 顧客対応現場が理解しやすいように、3つの軸をそれぞれ3つに分け、会員を27のグループに整理。さらに似た性格のグループをまとめて6つにカテゴライズ化し、それぞれに対する施策がとられていく。前述の“優良顧客”と、“優良予備顧客”“新規・低稼働顧客”“育成顧客”“債権コントロール顧客”“コストコントロール顧客”である。
 これらは過去の利用実績に基づく分類であるが、同社はもうひとつ、今後1年間の利用予測を数値化した「マーケティングスコア」という指標を持っている。会員データベースには6つのカテゴリーとともに、このマーケティングスコアが登録されており、顧客と相対するスタッフは、この情報を基に対応のし方を判断する。
 “優良顧客”は放っておいても収益をもたらしてくれる有難い会員。利用を阻害しないことを心掛け、余計なコストや手間はかけない。手間をかけるべきなのは、ランクアップが期待できる“優良予備顧客”や“育成顧客”。特に注意が必要なのは、最近利用額が減っているなど、ランクダウンが危惧される優良会員だ。
 例えばインフォメーションセンターに解約の電話が入ったとき、以前はどの会員に対しても同じように解約の理由を聞き、引き止めるトークを展開していた。現在は解約を申し出たのが“債権コントロール顧客”や“コストコントロール顧客”の場合は、理由を聞くだけで短時間に会話を終了させることにしている。逆に“優良顧客”や“優良予備顧客”の場合には、時間やコストをかけてもメリットを詳しく説明するなどして説得し、維持を図る。これによってランクの高い会員の解約防止率は格段に向上しているという。
 DMやeメールでの情報発信においても、この2つの指標に基づいて、内容やアプローチ方法を変えている。会員情報を分析し、さまざまな政策を講じているのはマーケティング課の20名のスタッフ。ほかに10名の営業スタッフが、リスクマネジメントの観点からこのデータベースを分析・活用している。

顧客戦略が全社に浸透

 ポイントの利用期限を撤廃した「セゾンドリーム」、オンラインで利用額やポイント数を確認できる「Netアンサー」、カードの即日発行を可能にした「SAISONCARD MAKER」、また旅行や保険などにおいて、他社と共同でオリジナル商品を開発するなど、同社は新しいサービスや商品を次々と生み出している。これを知ってもらい、利用してもらうためにも、「商品ありきではなく、人を中心に商品やサービスのメリットをとらえ、顧客ごとにアクションを起こす」(マーケティング部 営業企画課 課長の磯部泰之氏)ことが重要だ。同社は来春、インフォメーションシステムを刷新するが、その折にはシステムを拡張し、会員のランクとマーケティングスコアに加え、その会員に最適な商品やサービスが画面に示唆される仕組みとする予定である。
 「カスタマー・キューブ」の運用スタートから約1年半が経過した。この開発に当たった磯部氏は、当初から「現場の業務に落としこんでこそ意味がある。企画書の一部に終わらせてはならない」との信念の下に、幹部社員に説明するためには模型、一般社員向けには社内報や備品などさまざまなツールを作成・使用して啓蒙に努めてきた。これが功を奏して、全員がひとつの目標に向かって施策に取り組める体制が整ってきたという。戦略がよりスムーズに業務に活かされるよう、今後も業務フローの改善を進めていく考えだ。顧客戦略が全社の日常業務に浸透するに従い、研修や教育、人材評価のあり方までも変化していくだろう、と磯部氏は語る。
 また今後、力を入れたいとしているのが、カード会員同様に同社の大切なお客様である提携先や加盟店の売り上げの最大化。これを同社ではCRMと区別するためにPRM (Partner Relationship Management) と呼んでいる。具体的には、共同でプロモーションを展開したり、同社が提携先や加盟店のデータベース分析などを担ってマーケティングのサポートをするというものだ。会員情報をMDや商品開発など、店舗計画や来店顧客の顧客計画にどこまで活かせるか、パートナーとともに挑戦していきたいという。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年11月号の記事