総売上を押し上げか 顧客の10%以上がネット利用者

日本ランズエンド(株)

顧客満足度が第一。そんな信条を掲げる日本ランズエンド(株)では、顧客データベースを一元化、複数のチャネルを顧客が自由に行き来できるよう万全を期す。また、顧客が通販に持つ不安を払拭し、逆に楽しさをもっと感じてもらえるような新しい試みもスタートした。

インターネットは1999年にスタート

 米大手カタログ通販会社、ランズエンド・インクの子会社として1993年に設立された日本ランズエンド(株)は、40代の女性顧客をメインターゲットに、上質なベーシック・カジュアルウエアを販売している。業績が低迷する通販企業が多い中、2001年12月期は前年比およそ3%増の総売上を達成、2002年12月期には、総売上で対前年比約9%増と、順調に推移している。
 インターネット事業は、米本社が1995年、日本ランズエンドでは1999年11月初頭に開始した。同事業の立ち上げについて、インターネット・業務管理本部ディレクター 藤岡豊氏は、「顧客満足度を向上させるためのひとつの機能であり、世の中の動きに合わせた自然な流れ」と話す。カタログとインターネットの間で顧客の食い合いが起きる可能性については、「顧客がどのチャネルを利用するかは企業側ではコントロールできない。単純な食い合いはあったかもしれないが、米国、日本ともに特に気にとめていない」(藤岡氏)という。
 事実、顧客が注文に至る過程は単純ではない。インターネットで在庫をチェックしてから電話をかける顧客もいれば、画面で商品を見ながらコールセンターへ電話をかけ、素材などについて質問する場合もある。大切なのは、複数のチャネルを用意して「今、 知りたい「今、購入したい」という顧客の要望に迅速に応えることなのだ。顧客満足度を向上させるため、トップページにフリーダイヤルの電話番号を明記、午前7時~午前0時まで受け付ける。
 購入チャネルにかかわらず、顧客データは一元管理されている。このため、「前回購入した商品のサイズを忘れてしまった」などの問い合わせがコールセンターに入れば、この顧客が利用したチャネルが何であろうと、オペレーターは即座に回答することができる。

10%以上がネットで購入

 商品の注文は、インターネット経由が全体の10~12%で、この数字は、来年には15%くらいにまで上昇する見込みだ。また、インターネットを利用して商品を購入する顧客の属性は、インターネットそのものの利用者層と類似しており、カタログの顧客よりも10歳程度若い30歳代が中心で、6:4の割合で男性顧客の方が多い。
 一方、客単価は、インターネットと、電話・FAXとを比較すると、前者の方が10%程度高くなっている。この理由について藤岡氏は「推測の域を出ない」としながらも、①Web上で紹介されている商品の品揃えが豊富、②インターネットは衝動買いを引き起こしやすいメディア特性を持つなど、2点を挙げている。詳細は、以下のようになる。
 ①同社では、カタログに掲載していない商品でも、在庫がある限りインターネット上で販売している。結果、インターネットの掲載アイテム数はカタログを大きく上回る。また、米国で販売している商品をすべて国内で扱っているわけではないが、テスト的な意味合いを含めてインタ-ネット独自の商品として販売することもある。
 ②同社では商品説明の横に「Alternatives」と題して関連商品を案内しているが、これが、ある意味でのクロスセル、アップセルを誘発する役割を果たしているのかもしれない。カタログでは購入商品を決めてから電話やFAXで注文するが、インターネットでは商品を次々と閲覧しながら購入を決めるため、衝動買いをしやすく、その分、客単価が上がる可能性がある。

eメールを息の長い関係構築に活用

 一方、カタログについては、年9回の通常のカタログと、年2回のクリアランスセールのためのカタログがあり、両者を合わせるとだいたい月に1回の割合で送付することになる。
 現在、米国では、インターネットを利用する顧客の一部に対して、通常カタログよりもページ数が少ないカタログを送付する試みを行っているが、今後、こうしたトライアルを続けていくかは不透明という。カタログは、顧客に刺激を与える大切なメディアであり、オーダーにつながらなくても、閲覧してもらうことで何らかの影響を顧客に与えることができ、通信販売とは切っても切れないメディアであるためだ。
 このほか、顧客に対するアプローチとして重要視されているのがメルマガ「ニュースレター」だ。現在、全顧客の約10%が購読している。しかし、配信希望者に、性別や住所などを尋ねることはなく、eメールアドレスのみを記入してもらう。メルマガ申し込みの段階では入力の手間を極力省き、サービス提供に不必要な、分析のための情報はできるだけとらないようにした。
 クリアランス情報などは、カタログよりもニュースレターで先に顧客に知らせているが、顧客の反応はまずまずで、eメールを送信すると、通常の2倍くらいの注文が2~3日続く。しかし、基本的には、eメールの役割は短期的な売り上げアップではなく、顧客との密なコミュニケーションの中でブランドを浸透させることにある。顧客が1年を通して通販を利用する回数は、およそ2、3回。この数少ない購買のチャンスに同社を利用してもらえるよう、普段から密度の高い関係を構築しておきたいと考えている。藤岡氏は、「eメールは、機敏に情報を送ることができる重要なコミュニケ-ション・ツール。カタログだけでプッシュするのではなく、eメールをうまくかみ合わせ、全体の効率化を図っていきたい」と語っている。

Web上の試着を実現 「マイ・バーチャル・モデル」がスタート

 同社では、インターネットを単なる販売チャネルとしてだけでなく、通販を利用する際に顧客が感じる不安を払拭するメディアとしても活用している。それが、Web上に自分に似た身体的特徴を持つモデルを作成し、着せ替え人形のように洋服を「試着」することができる「マイ・バーチャル・モデル(My Virtual ModelTM)」(資料)である。
 今年11月初旬にスタートした同サービスでは、身長、体重、目・鼻・唇のかたち、ヘアスタイル、ヘアカラーなどを選択して顧客自身が3Dモデルを作成できる。機能としては、①商品の試着、②着こなしのヒント、③おすすめコーディネート、④コーディネートした商品をそのまま保存、などがある。このサービスにより、「色が自分に似合うかどうか分からない」「どの色を組み合わせればいいか分からない」などの悩みを解消できるものと、同社では期待している。
 このほか、同社では新規顧客の獲得を目指し、新聞の折込チラシをスタートさせた。また、カタログの書店販売を試験的に導入し、今後のマーケティングに活かす方針だ。藤岡氏は「複数のチャネルを使いこなす顧客は購買金額が最も大きく、また、生涯価値(LTV)が大きくなることは米国の例からも明らか」と指摘する。インターネット事業が始まっておよそ3年。さらなる成長が期待される。

Onmymodel Body

資料:今年11月にスタートした3Dモデル作成サービス「マイ・バーチャル・モデル」
資料提供:日本ランズエンド(株)


月刊『アイ・エム・プレス』2002年12月号の記事