紙媒体に新ビジネスモデル パーソナル情報がカギ

スターツ出版(株) 

出版業界は苦しい。もはや異論を挟む余地のないこの現実に対し、スターツ出版(株)は、中長期戦略「メディア・コミュニケーション・ネットワーク構想」を掲げ、マルチチャネルならではのきめ細かな情報提供によるロイヤルティ向上を目指している。

インターネットと携帯電話 会員は合わせて30万人

 1983年に不動産業を営むスターツ(株)が設立したスターツ出版(株)は、1986年に「OLのわがままをかなえる」をキーワードとして「オズマガジン」(現・月2回発行)を創刊。1996年に出版業界では他社に先駆けて、ホームページ「オズモール」を開設した。2000年には携帯電話向けサービス、「モバイルオズ」をスタートさせている。最近では、マルチチャネル化戦略「メディア・コミュニケーション・ネットワーク構想」を打ち出し、紙媒体、PC、携帯電話の3チャネルによる顧客の囲い込みを図っている。
 そもそも同社がインターネット事業に着手した理由は、ネットが広く一般消費者に活用され、紙媒体を侵食する時代が訪れるだろう、という危機意識だった。侵食が避けられないのなら、「せめて自社内でネット事業を立ち上げたいと考えた」(総務部部長 金子弘氏)という。
 出版事業によって蓄積した情報の中から、まずインターネット上に掲載したのはウエディング情報。理由は、比較的情報が絞りやすい、市場が景気の波に左右されにくい、の2点だった。3カ月後にはレストラン・温泉情報を加え、立ち上げからわずか1年以内で、現在ある情報カテゴリー、8ジャンルをすべて網羅するに至った。
 当初は、ネットへ流れた顧客が雑誌を購入しなくなり、売り上げがダウンすることが懸念された。実際にまったく影響がなかったとは言えない。しかし、「雑誌の売り上げがどんと落ち込むというようなことはなかった。むしろ、ネットがオズブランドに対する認知度を高めてくれたし、雑誌があったからこそ相乗効果が生まれ、ベンチャー企業が大挙して押しかけるネットの世界でオズモールの会員を増やすことができた」(金子氏)。
 オズモール、モバイルオズともに会費は設立当初より無料を貫き、収入源は広告である。現在の会員数は前者が22万人、後者が6万4,000人。ほぼ8割が女性だ。雑誌の購読者は20代半ばが中心だが、オズモール会員は若干高めの20代後半。モバイルオズ会員の属性は、当初、eメールアドレスのデータしか取っていなかったため明確には分からないが、雑誌やネットとほぼ同様と見られる。なお、 オズモバイルは現在、 i-modeのみの対応となっており、年内に全キャリア対応を目指す。

ネットで検索 携帯電話でアクション

 これら3つのチャネルの特性とその役割だが、「ユーザー自身がうまく使い分けている」と、オズモール開発部部長 若林亜樹氏は語る。
 オズマガジンは創刊以来のブランド力を持つ、オズブランドの屋台骨だ。今後も、編集者が足で稼いだ質の高い情報の獲得に力を尽くす。一方、オズモールでは豊富な情報量と検索性の高さを追求する。なぜなら、最近のネットユーザーはかつての「ネットサーフィン」スタイルを捨て、流し読みは雑誌で行い、調べもののためにインターネットを使う傾向があるため、オズモール内で問題を解決できるようにしなければならないからだ。
 これら2チャネルに対し、 モバイルオズのポジションは、「持ち歩けるオズブランド」(若林氏)であり、受け取った情報をもとにアクションを起こすトリガーとしての役割を果たす。
 「これまでの読者は、雑誌やインターネットを通して情報をただ得るだけ、ただ見るだけで満足している部分があった。情報と読者との距離が遠かったとも言える。顧客が携帯電話を持つことにより、すぐにレストランの場所やホテルの空き室状況を尋ねることが可能になれば、情報と顧客との距離が飛躍的に短くなる」(若林氏)。
 2001年4月に開始され、現在リニューアルを予定している「携帯メモ機能」などは、その好例だろう。これは、ネット上で得た情報を、携帯電話に送信・保存できるサービスだ(年内に再スタート予定)。雑誌で情報提供、PCで情報検索、この両者で得た情報を携帯電話で“持ち歩き”、アクションへつなげる──これこそ、顧客のニーズを3チャネルでしっかりサポートするオズブランドのマルチチャネル戦略と言える。

NQ_B-1 モバオズ画像jpeg

雑誌「オズマガジン」(写真左)/モバイルオズの一画面(写真右)
写真提供:スターツ出版

ネットはマス向け 携帯電話は飽きない楽しさを

 それではここで、オズモールとモバイルオズのコンテンツ内容を紹介しよう。
 まずオズモールでは、グルメ、温泉情報を中心にウエディング、ビューティ、キャリアなどマスを意識したコンテンツ作りを行う。また、モール内の「得ダネ情報」に、1週間限りのプロモーションやイベント情報など旬な内容を盛り込むほか、事前に得ダネメールに登録した会員には、プロモーション情報などを送信する。会員に配信するeメールに、プレゼントに応募できる「ワンクリックdeプレゼント」を付け、ここからほかのページにアクセスしてもらえるよう、工夫を凝らしている。
 一方モバイルオズでは、携帯電話ならではの試みとして、数分で読みきることができる幸せのヒント、「校長先生の短いおはなし」や、癒し系のキャラクターが活躍する絵本シリーズ「ピヨリン」が人気という。空いた時間に頻繁に利用する携帯電話の特性を考え、飽きのこない楽しいコンテンツを揃えた。
 また、オズモール、モバイルオズ会員の双方に対してバースデーメールを送るほか、温泉を予約した会員には出発の数日前に天気予報や、イベント情報などを送信する試みも始めている。ただ、携帯電話の場合、パケット料金が読者の側にかかってしまうため、送信頻度は要注意事項という。

パーソナルな情報が価値を生む

 同社では、さらなるきめ細かい情報提供を行うため、今年10月9日に、オズモールとモバイルオズのデータベースを統合、顧客データを一元化した。その目的は、付加価値の高い情報をよりパーソナルなかたちで会員に届けることにある。
 顧客履歴を一元化すると、例えば、ホテルAを予約した顧客に対し、 宿泊当日の天気予報を知らせるeメールに、同ホテルの周辺地域にあるレストランの食事券のプレゼントを盛り込むことができる。オズブランドを情報源として起こしたアクションに対し、パーソナルな情報をタイムリーに届けることで、会員であることの付加価値を高めていこうというわけだ。また、オズモール会員にモバイルオズへの入会を勧めたり、両方の会員になっている顧客に何らかの特典を用意することも可能になる。
 ただ、両方の会員になっている顧客に対する誕生日メールを、PCに送るのか、はてまた携帯電話に送るかなどの問題が新たに生じ、「サービスの本質が問われる部分であり、チャネルミックスしたがゆえの悩みどころ」(若林氏)である。
 パーソナルな情報サービスと、顧客が起こしたアクションに対する付加価値の高い情報提供。顧客データの一元化によってこれが実現すれば、顧客はほかの情報源ではなく、オズブランドと関係を持っているからこそ得られた大きなメリットに気づき、ロイヤルティが生まれる。このような好循環が、同社が目指すマルチチャネル化戦略の真髄と言えそうだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年12月号の記事