チーム意識が芽生える競技会は最良の人材教育

日本ケンタッキー・フライド・チキン(株)

しばしば“マニュアル通りのサービス”と揶揄されるファーストフードの店。しかしマニュアル通りの対応は、果たしてそれほど簡単なものなのか。マニュアルを正確にこなしつつ、いかにそれ以上のサービスを提供するかに力を入れる、日本ケンタッキー・フライド・チキン(株)に聞いた。

バイトも調理資格を取得 250もの項目をクリア

 ケンタッキー・フライド・チキンの店舗で箱入りのフライドチキンを買うと、箱に調理を担当した人の名前が入っているのをご存じだろうか。彼(あるいは彼女)は日本ケンタッキー・フライド・チキンの研修を経て、カーネル・サンダースのオリジナルレシピによるチキンの調理を行ってよいという「COMライセンス」を取得した人である。ライセンスを持っているからには社員に違いないというのは半分間違いで、同社の店舗では社員だけでなくパートナー(アルバイト)もこのライセンスを取得して調理を行っている。
 アルバイトとは言え、フライドチキンの調理に求められる250ものチェックポイントをクリアした人たちなのだから安心だ。そのチェックポイントは、調理前の器具の確認から、粉の付け方、肉の品質の確認などかなり細かく幅広い。食品を扱う以上、安全ということが何より大切である。その安全性を実現するために、マニュアルで正しい知識を身に付けるのだ。
 ファーストフード店は数あれど、店内のキッチンでは下調理品を組み合わせ、味付けする程度の店が多い。そんな中で、フライドチキンの鶏肉に粉を付けるところから店内で行う同社は異色の存在だ。店舗の体制は、平均して社員1~3人とパートナー30~100人。パートナーは圧倒的に高校生・大学生が多い。この体制で、1店舗平均1億円の年商を稼ぎ出している。
 接客についてはどうか。カウンターに立つ接客担当の採用基準は「ホスピタリティーがある人」(広報室 横川すめお氏)だ。同社のサービスマニュアルには、お客様が来たら「いらっしゃいませ」と言うことなど、ごく当たり前のことから書いてある。「接客の場合、マニュアルは最低限のもの。そこにいかにプラスアルファができるマインドを育てるかが重要」(同氏)。接客担当は、お客様が困っていたら、落とし物をしたのか、メニューがなくて困っているのか気付ける人でなければならないという。

店舗評価とトレーニングは「CHAMPS」で実現

 研修によってマニュアルを身に付けさせたとは言え大人になりきっていない学生を指導、“やる気”を維持し、均一なサービスを提供することは、口で言うほど簡単ではない。そのため、同社では「CHAMPS」という店舗評価とトレーニングのシステムを採用している。「CHAMPS」とは、顧客に愛される店作りを目的とし、社内で定めた基準だけでなく、顧客の視点からもてなしの心やオペレーション技能など、店舗活動のすべてを確認するグローバルな活動を指す。同社では、常にこのシステムに基づいて清潔さ、おもてなし、オーダーの正確さ、設備のメンテナンス、商品の品質、サービスのスピードのチェックを行っており、評価対象には接客担当者だけでなく、調理担当者も含まれる。
 具体的な取り組みとしては、①食品業界やマーケティングの専門家ではない、一般の人々によるブラインド・カスタマー・チェック、②各店のCHAMPS活動のポイントを記したCHAMPSボードの設置、③競技会「CHAMPSchallenge」の実施――などがある。CHAMPSボードには活動のポイントが書いてあるだけではなく、店舗スタッフに評価すべき点があったとき、店長や本部スタッフがスタッフの名前と良かった点を書いたカードを掲示している。例えば、スタッフがお客様から名指しでほめられたときなどだ。このカード掲示の対象になると、スタッフはポイントを獲得できる。ポイントが貯まるとデジカメなどの景品と交換できる仕組みだ。
 「店舗スタッフに、“常にあなたの活躍を見ています”ということを伝えたいのです」(同氏)。

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オリジナルチキンの調理の正確さとスピードを競う「フードサービス部門」の審査風景/写真提供:日本ケンタッキー・フライド・チキン(株)

マニュアルを超えたサービス

 こうした実践の中でも、「CHAMPS challenge」は、日々のトレーニングの集大成であり、「CHAMPS」の達成度を競うものとして、重用視されている。これは、毎年1回、全国1,000店舗以上の社員やパートナーが参加して行われる競技会で、全国10地区から予選を勝ち抜いたチームや個人が技を競い、日本大会での優勝者はアジア大会に出場できる。競技会自体は、昨年度の例でいうと8月に店内選抜、エリア大会、9~10月に地区大会、11月に全国大会、翌年2月にアジア大会というスケジュールになっているが、そのための準備を春には開始しているので、ほぼ1年がかりだという。全国大会に出場するのは選び抜かれたメンバーというわけだが、早ければ入店後数カ月の勤務で出場する人もいるという。
 「日々、さまざまな研修会を行っているのですが、何十回研修会を開くよりも、競技会を1回行ったほうがトレーニングの効果が大きい場合もあります。上を目指すことで視野が広がり、大会出場を経験して一気に何段階も成長する人もいます。選考に漏れてしまった人も“なぜあの人は出場できて自分はできないのか”と考えることで成長するのです」(同氏)。店舗のチームが一丸となって努力することで、自分のことだけでなくほかの人をサポートしようという気持ち、自分たちはチームなのだという意識が芽生える。自分の所属する店が自分の世界のすべてだったものが、日本中の、あるいは世界の“ケンタッキー”という共通語を持つ人たちと触れ合い、刺激を与え合うことで、自分を客観的かつ多角的に見られるようになるのだ。
 競技会では、先のフライドチキンを調理するための250項目のようなチェックポイントが、マニュアル通りに正しく素早く行われているかどうかがチェックされる。競技会に出場するほどなので、出場者は十分に早く正しく行動する人ばかりだが、250項目にわたる評価の結果、若干の差が勝負を決めることになる。またアジア大会の場合、日本は英語が公用語であるわけではないので、英語を日常的に使うアジアの国々に比べればハンディがある。それにもかかわらず、昨年度のアジア大会(開催は2002年)で日本代表は金賞を獲得した。いかに日本のサービスレベルが高いかの証拠である。
 同社のフリーダイヤルやホームページには、そのサービスに対して顧客からのお礼や賞賛の言葉が寄せられることがある。例えば、「高齢者の自分にカタカナ言葉を用いずに丁寧に説明してくれた」というような内容だ。
 マニュアルの正確さは実現しつつ、いかにマニュアル以上のサービスを提供するか。これはファーストフード業界の永遠のテーマだが、同社ではすでに競技会をはじめとするさまざまな取り組みを実施し、スタッフのモチベーション向上に成功している。上記のようなプラスアルファのサービスが、今後も次々と生まれてくるに違いない。

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2001年度「CHAMPS Challenge」で優勝した九州・沖縄・四国地区
代表チーム/写真提供:日本ケンタッキー・フライド・チキン(株)


月刊『アイ・エム・プレス』2002年11月号の記事