20年の歴史が信頼関係を支える

(株)バンダイ

効果的なアウトソーシングのポイントは、時間をかけて培った信頼関係と、不明な点は率直に尋ね合う風通しの良さ。オペレータと社員の直接的な、やりとりも欠かせない。20年にわたるエージェンシーとの付き合いの中でたどり着いた、ひとつの結論がここにある。

20年前から人員をアウトソース

 「感動」を付加価値とした事業展開を目指す(株)バンダイは、ウルトラマンや仮面ライダーなどのキャラクター商品を軸とする玩具を中心に、アパレル、菓子、生活用品、映像メディアなど幅広い分野に進出している。2001年度は、グループ連結で約2,280億円を売り上げた。顧客対応専用ダイヤルが設置されたのは1980年代初頭だが、これとほぼ時を同じくしてオペレータのアウトソーシングを開始し、現在も同じエージェンシーとパートナーシップを組んでコールセンター業務に当たっている。
 1996年に未曾有の大ヒットとなった「たまごっち」が、コールセンターのキャパシティー拡充を促す導火線となり、それまでの14回線が一気に28回線へ増加した。「たまごっち」が爆発的な人気となった当時は、公となっている電話番号すべてが顧客対応回線になった。年間コール数は推定150万コールと思われるが、対応できたのは55万コール程度だった。幸運だったのはブームの半年ほど前からIT化を急ピッチで進めていたことで、「準備していなければ20万コールしか対応できなかったかもしれない」と、CS部相談センターチームマネージャーの落合薫氏は振り返る。
 現在、同社は「お客様相談センター」を東京、千葉、静岡、名古屋、大阪の5カ所に設置しており、東京では一般の玩具だけでなくソフト関連商品の対応を行うほか、流通関係者など企業向け窓口も兼ねる。静岡はプラモデルを扱うホビー事業部専用、ほかは玩具などの一般的な相談窓口として活用されている。
 通常30回線を使っており、総コール数は年間40万件にも及ぶ。設備はすべて自社で構築したインハウスのシステムだが、センターマネジャー、スーパーバイザー(SV)、オペレータの全職種をアウトソーシングし、運営をほぼ任せている状態だ。オペレータ約50名のうち、約40名をアウトソーシングで、残りを社員2~3人のほかバンダイが雇用するパートタイマーが占める。
 受付時間は午前10時~午後4時まで。IVR(音声自動応答装置)は利用していないが、今年末に試験的な導入を計画している。eメールによる問い合わせ対応は一部で実施されているが、まだ本格的な顧客対応には至っていないようだ。
 コールセンター・システムは随時改良を重ね、現在第5次改良が済んだ段階だ。同社では情報の流れを照会系と入力系に分けており、照会系は社員・オペレータが業務に必要なすべての情報をWeb上で抽出・閲覧できるが、購入履歴などの個人情報にかかわる入力系は、相談センターチーム員のみの閲覧にとどめて保護・管理している。

パフォーマンスには改善の余地あり

 同社のアウトソーシングの基本的な姿勢は「センター運営はエージェンシーに任せる」というものだ。そのために、オペレータだけではなくSVやセンター長もアウトソーシングしている。エージェンシーとのコミュニケーションは、月に1回開催される定例会「SC会(SC=相談センター)」が中心となる。各地に散らばるコールセンターからセンター長が集まるほか、エージェンシーの社長が参加。これが、「相談センターのすべてを決定する会議となる」(落合氏)。
 このほか、コールの処理件数、放棄呼数、オペレータの応対時間、待機時間などはすべて、Webでつながった照会系データによって、発注サイドでリアルタイムに閲覧できるようにした。このため数値的な報告は特に求めず、必要に応じて同社で確認している。
 発注元による取り組みとして最も重要視されているのが、「連絡票」に代表される情報提供だ。バンダイが取り扱う商品はすでに4,000アイテムを超えており、年間1,500~1,800アイテムに上る新商品が発売される。こうした情報をエージェンシーに伝えることで、的確かつ公正な顧客対応に結び付け、企業イメージの向上を図っている。
 オペレータ1人当たりの処理件数は45件/日、1件当たりの処理時間は4.5分と少々長めである。勤務時間の半分を電話応対以外のデータ入力や調査などに当てている計算だ。落合氏によれば目標値は3分とのことだが、迅速な対応をうながすためにも、適切な情報提供は不可欠だろう。さらに重視しているのは1次回答率だ。「これはなんとしても引き上げたい」と落合氏は話す。

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課題はクオリティの均一化

 20年にもわたって同じエージェンシーと付き合ってきた同社だが、やはり、一番の課題はコミュニケーションをどうとっていくかにあるらしい。例えば、おもちゃを使っていた顧客が怪我をしてしまった場合の見舞金の支払いなど金銭にかかわる問題は、エージェンシーがもっとも対応に苦慮するところである。判断基準となるルールは設定してあるが、分からないことについてはすぐに尋ねる風通しの良さが必要という。「この件はエージェンシーに任せよう」と発注元が考えたとしても、期待した通りの結果になるとは限らない。どこまでを任せればよいのか。その答えは、密なコミュニケーションによって築いた信頼関係を通してしか得られないという。
 今後の課題についてはどうだろう。落合氏は、社員同様の対応をし、長年の信頼関係を築いているとしても、やはりある程度の「遠慮」が出るのが難点と指摘する。オペレータの対応ひとつ取っても、社員の失敗であれば叱責できるところが、エージェンシーのオペレータについては、組織上、まずは上層部に話を通すしかない。同じバンダイを背負っての対応ながら、社員とアウトソーサーのそれには微妙な温度差が出ることは否めない。
 オペレータ教育についても、発注元があまりコミットしすぎると権限の逸脱につながる。工夫として、年に1回の全国研修を開催するほか、オペレータが直接、相談センターを担当する社員に問い合わせられるような仕組みを取り入れ、直接的なコミュニケーションの場として活用している。
 最後に、これはアウトソーシングに限らない問題になるが、膨大な商品に付随する膨大な情報を管理するためには、相談センターと、「キャラクタートイ事業部」「ホビー事業部」など、各事業部との間の橋渡し的な役割を果たすスタッフが不可欠だと同社では考えている。このため、東京の相談センターに配置した社員7名のうち6名が、事業部が抱える細かな情報に気を配るブリッジ役を担う。事業部サイドで「この情報は必要ない」と判断した情報であっても、実は顧客接点においては非常に貴重な情報であるケースもあるからだ。
 これだけ取扱商品数が多くなれば、1件のコールも入らない商品もある。それでも、常に万全な体制を整えるため、信頼できるエージェンシーとともに、安定した相談センターの運営に当たりたいとしている。

プリモ黒

おしゃべりをするぬいぐるみ「プリモプエル」© 1999 BANDAI・WiZ
顧客の思い入れが強いこうした商品に関する電話対応には注意が必要という 写真:(株)バンダイ


月刊『アイ・エム・プレス』2002年10月号の記事