脱・ポイント還元率 クリック&モルタルで囲い込み

(株)ソフマップ

パソコンの中古品ビジネスが活況を呈す以前から同ビジネスを手掛けてきた(株)ソフマップは、顧客の「買い替え心理」を熟知している。だからこそ、ポイント還元率ばかりでなく、きめ細かな情報サービスで顧客の心をつかむことができる。最近では、新たに優良顧客向けカード「CLUB-S」をスタート。単なる安売り競争にとどまらない、顧客維持戦略がそこにある。

優良顧客向け会員制度「CLUB-S」をスタート

 全国に38店舗を展開するパソコン専門店大手の(株)ソフマップは、1994年にポイントサービスおよび顧客データの収集を目的とした「ソフマップカード」の発行を開始。2000年11月には会員向けeCRMツール「マイソフマップ」を導入した。2000年度の売り上げは1,420億円。うち、中古品ビジネスが約300億円、ECが約100億円を占める。
 同社では2001年6月、優良顧客向け会員カード「CLUBS」の発行に踏み切った。
 CLUB-Sの加入条件は、現在、「各年度内の購買回数が24回以上に達した顧客」とされている。日を変えて購買した回数をカウントするので、1日に24回精算しても、購買回数は1回と見なされる。スタート当初は「2年連続で購買額が上位2割以内、かつ20万円以上」という厳しい条件を課した上で、会員1万8,000名を集めた。しかし、誰もが入会できるソフマップカード会員数が250万人(2002年4月現在)であることを考えると、さらにすそ野を広げる必要があり、今年初頭に条件を緩和。新たに8,000人の会員獲得に成功し、現在に至っている。
 規定条件を満たした顧客には、会員番号を記載したダイレクトメールが送付される。パソコン上の登録画面で会員番号を入力して登録を済ませると、後日、カードが郵送されてくる仕組みだ。登録画面は会員だけが閲覧できるシークレットページとなっている。
 特典は大別すると①ポイント還元率をソフマップカードより数パーセント上乗せ、②商品の無料配達、③人気商品の先行予約の3つ。ポイント還元の上乗せ率は一定ではなく、シーズン、キャンペーンなどによって変化していく。
 注目されるのは③だ。もともと同社の顧客にはパワーユーザーが多い。商品を見る目が厳しく、新商品に対して敏感と言える。そこで、単に先行予約を行うだけでなく、新製品について「このような商品をどう思いますか」「このような価格なら購買意欲はわきますか」「この商品にはどのような価格がふさわしいと思いますか」などのアンケート調査をメーカーと共同で行うこともあるという。適当と思われる価格を尋ね、実際にその金額で購入してもらう先行販売も実施した。市場調査的な意味合いを持ち、メーカーに対するコンサルティング業務にもつながる可能性を持った、新しい試みだ。
 また、同社ではコールセンターの電話番号を「一般のお客様」「ソフマップカード会員」「CLUB-S会員」で分けている。顧客属性を知った上で、顧客を個客ととらえた対応を目指す。また、収集したデータを顧客分析に活かす方針だ。

長い付き合いにはサービスで勝負

 同社では売り上げ全体の7~8割をソフマップカード会員が占める(図表1)。会員の来店頻度は年平均6回以上。リピーターが売り上げを支えているわけだが、それにしてもCLUB-S入会条件の「購買回数が年間24回」はさすがにハードルが高い。また、年度ごとに再審査があり、購買回数が減少すると脱会となってしまう。このため、CLUB-S会員、および予備軍の購買頻度をさらに引き上げるための仕組みが必要になる。その中核を担うのが、ソフマップカードとマイソフマップである。

0206-cs2図1

 2000年末に本格スタートしたクリック&モルタル戦略では、eCRMツール・マイソフマップがクリック(EC)の売り上げを、また、ソフマップカードがモルタル(店舗)の売り上げを補完し、両者の相乗効果による売上増を狙う。同社調査によると、クリックのみ、モルタルのみを利用する顧客に対し、両方を利用する顧客の1人当たり累計購入金額は2~3倍、精算回数は2~4倍以上となっている(図表2)。

0206-cs2図2

 ソフマップカードは入会金500円、年会費無料で、誰でも入会することができ、購買金額100円につき1ルピーポイントが還元される。1ルピーポイントは1円として利用可能だ。また、手持ちの商品を売却する際に、代金を現金ではなくプールポイントとして蓄積しておくと、買取額が10%アップする。プールポイントは金券のようなもので、次に欲しい商品を購入する際に利用することができる。また、販売価格の3%の掛け金で、新品だと5年間、中古品でも3年間の保証が受けられる。
 次に、ソフマップカードのカード番号を用いてWeb上でマイソフマップ(会員数30万人)に登録すると、以下のサービスが受けられる。
①買い物帳:過去1年間のソフマップ店頭における購入記録を確認できる。
②持ち物帳:現在持っている商品の上限買取額を確認できる(同社以外で購入した商品も含む)。
③買いどきメール:中古品の希望購入価格をあらかじめ指定しておくと、販売価格が希望価格ラインを下回ったときにeメールで連絡してもらえる。
④売りどきメール:買い入れ価格が希望売却価格を上回ったときにeメールで連絡してもらえる。
⑤買取差額表示シミュレーション:買いたい商品と売りたい商品を組み合わせ、買取差額を調べられる。
⑥注文状況の確認:商品を注文した際に、「納期確認中」「出荷済み」などの詳細情報を確認できる。

クリック&モルタルで顧客維持

 これら、クリック&モルタル戦略に基づく、同社の顧客維持戦略の特徴は以下の2点に集約される。
 まずひとつ目は、プールポイントに見られるように、売買を繰り返すことで価格的なメリットを顧客に与え、買い替え需要を喚起している点。2つ目は、多くの家電量販店に見られるようなポイント還元率の争いではなく、顧客にとって利便性の高いサービスや情報を提供することで、「ソフマップと長く付き合うメリット」をアピールしようとしている点である。PR・IR室室長・松田信行氏は、「パソコン市場はもはや成熟市場。これからは買い替え意欲を刺激し、いかに中古品の回転率を上げるかが勝負」と指摘する。
 また、同PR担当・森雅仁氏は「ポイント還元率を重視するか、あるいはアフターケアや情報提供を重視するかは、顧客層によって異なる」と話す。パワーユーザーの期待に応えるには、ポイント還元率だけではなく、メジャーな商品の扱いはもちろん、かゆいところに手が届く、ソフマップならではの品揃えが要求される。
 以上のように、ソフマップでは会員カード、EC、そして中古品ビジネスの3つを起点とするトライアングルの中に顧客を囲い込む。買い替え需要を喚起することで顧客を維持し、さらにひとり当たり購買額の拡大を図っている。単なる価格競争に終わらない、トータルブランディングとしての顧客維持戦略と言えるだろう。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年6月号の記事