マルチチャネルで顧客ニーズに対応

東京三菱ティーディーウォーターハウス証券(株)

顧客サービスに対し高い評価を獲得

 インターネットと電話を介して証券取引を行うオンライン証券会社、東京三菱ティーディーウォーターハウス証券(株)。日本のみならず海外でも業務を展開し、信用力を持つ東京三菱銀行と、グローバルに事業を展開している北米のディスカウント・ブローカー、TDウォーターハウス社の2社を主要株主に2000年3月に設立された。東京三菱のグループ力に裏打ちされた多岐にわたるサービスと、グローバルな認知度と信頼性の高さを誇る北米・TDウォーターハウス社の豊富な経験を活かして、初心者からベテラン投資家まで、さまざまな顧客に対し、最良のサービスのリーズナブルな料金での提供を目指している。その取り組みは実際に客観的に評価され、以前本誌でも紹介したように、2001年発売の日経ネットトレーディングに掲載された「はじめてのネットトレード完全ガイド」のビギナー対応力ランキングで、見事第1位を獲得している。

顧客に幅広いオプションを提供

 実店舗を持たない同社の顧客との取り引きにおける主要媒体はWebであり、これを通じての取り引きの頻度がもっとも高い。アナリストレポート、リアルタイム株価自動配信、チャート等の情報サービスはWebでしか提供されておらず、銘柄研究等、じっくり投資の検討を行うにはWebが向いている。しかし同社では、顧客の多様なニーズに対応し、その利便性を向上させるべく、PC以外に、インターネット端末を備えた携帯電話、携帯情報端末(Palm、Pocket PC)、IVR(音声自動応答装置)、コールセンターのオペレータによる電話でのライブ・オペレーションといった幅広いチャネルを用意している。
 携帯電話、携帯情報端末は、場所を選ばないリアルタイムな情報入手に有効なチャネルとして機能している。また、現在のところ、iモードのみの対応であるが、株価やニュース速報のeメール配信サービス(News Link)も行っている。IVRについては詳しくは後述するが、電話のプッシュ操作だけで簡単に取り引きや照会などが行える。コールセンターは24時間・365日の稼動。同社の取扱商品のひとつであるナスダック、アメックス、NY証券取引所の米国株約5,000銘柄が、日本時間の深夜に取り引きされるため、これをサポートする意味合いが大きい。同社は、コールセンターの位置付けを、「取り引きのチャネルのひとつには違いないが、どちらかといえば、ほかのチャネルの補完的な役割を果たすもの」と定義している。
 それではコールセンターの具体的な役割とはどのようなものなのだろうか。
 コールセンターは、東京の六本木と神保町の2カ所に設置。このうち中心的に機能しているのは六本木のセンターで、神保町のセンターは何らかのトラブルが発生した際のバックアップ機能を果たしている。対応するオペレータは2002年3月現在で約20名。使用電話回線数は、六本木、神保町を併せて138回線となっている。
 その主な業務内容は、口座開設をはじめとする「各種問い合わせ受付」「意見・要望(苦情含む)の受け付け」「注文受付」の3つ。eメールでの問い合わせにもコールセンターのオペレータが対応している。「各種問い合わせ受付」における商品説明や、Webや携帯電話でのサービスの利用方法などは、Webにも記載されているが、コールセンターの有人対応の方がよりきめ細かい対応ができるという。また、「注文受付」が業務に占める割合は他の2つに比べ、それほど高くない。
 コールセンターを通じての受注は全受注の3%程度である。ちなみに他チャネルの受注の割合を見ると、インターネットが約60%、携帯電話が約27%、IVRが約10%となっている。

IVRを適宜バージョンアップ

 受注の10%強をIVRが占めているというのは、金融業界の他社と比較してもかなり多い方であるという。同社はIVRを2000年7月の開業と同時に導入している。当初、そのサービス内容は、株価照会と、10銘柄×5グループ、最大50銘柄を登録することができる株価ボード機能のみで、取り引きの機能は備わっていなかった。しかし同年11月からは、オペレータを介さずに株価照会から株式売買まで一貫してIVRで対応するサービス「プッシュホン・トレーディング」(図表3)を開始。これまでのIVRの機能に、株式の売買注文、注文照会、保有銘柄の確認、暗証番号の変更機能を追加した。注文については、執行前であればホームページでの注文も含めて、訂正・取消も可能になった。さらに2001年11月には、顧客からの要望に応えるかたちで、これらの機能の細かい部分をより利用しやすいものにバージョンアップ。これにより、従来、株価情報〜株価再生後には買付注文への遷移のみが可能であった当該銘柄を売付注文にも遷移できる、従来は売付注文への遷移のみであったプッシュホン取引メインメニュー〜保有銘柄再生後の当該銘柄を買付注文へも遷移できる、ユーザーが誤入力をした場合にエラーの理由に加えて入力内容を復唱する、会員メインメニューに「商品・サービスとキャンペーン」情報を追加、顧客照会への対応やコールフローの改善に役立てるためのログ記録といった機能が付加され、現在に至っている。

0205-cs3図3

1チャネルとしてのIVR

 以上のように同社のIVR導入の目的は、あくまでも幅広いオプションのひとつであり、一般に多く見られる“コールセンターのオペレータの補助”といった発想のものではない。
 同社の基本的な姿勢は、「顧客のニーズ、社会の変化への的確な対応」であり、オペレータによる電話でのライブ・オペレーションが行われているコールセンターもIVRも、それを実現するためのチャネルに違いない。
 コールセンターにおける24時間・365日の有人対応は、「注文受付」の割合が他チャネルに比べ少ないとはいっても、PC、携帯電話といったハードに抵抗がある、あるいは環境的に使うことができない顧客との取り引きにおいて必要不可欠であるし、同社の目指す“顧客に大きな安心感を提供すること”を実現する上でも欠くことのできない要素である。
 また、IVRに関しても、その媒介となる電話は、いくらPCが普及したといっても、顧客の年齢層の広さを考えれば、現在のところ、未だ最もなじみのある媒体と言ってよく、前述の通り高い比率で顧客との取り引きに使われており、まさに同社に必須のチャネルである。顧客からの「取り引きに慣れており、いちいちオペレータと会話をしたくない」といったニーズも多い。
 同社では、コールセンターのオペレータによるライブ・オペレーションに関しては、「20秒以内に電話を取る」「着信後放棄率の割合を5%未満にとどめる」といった評価指標を定めて常にそのクオリティーの向上を図っており、IVRに関しても前述のように適宜機能の改善を行ってきた。このような顧客のニーズにリアルタイムに応えていく姿勢は、他のチャネルについてもおしなべて同様であり、今後も顧客のニーズに同調したサービスを実現していく考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年5月号の記事