eコマースを通じてブランディングを強化

(株)ナイキジャパン

“イノベーション”が社訓

 世界的なスポーツ&フィットネスカンパニーとして、業界をリードし続けている(株)ナイキジャパン。“Just Do It”のコピーがお馴染みの同社だが、常に革新(イノベーション)的であることが同社を飛躍させる重要な要素であるとしている。NASAのエンジニアが考案したエアバックのクッショニングシステムのアイデアをもとに開発した〈エア〉など、常に顧客の予想をはるかに超えた商品を提供することで独自の“イノベーション”を展開している。
 そういった中、同社では2000年の9月より公式サイトhttp://www.nike.co.jpを立ち上げ、稀少商品を公平に販売するための抽選申込のページ「NIKE ONLINE」や、同社のアスリートを紹介する「NIKE ATHLETE」など、充実したコンテンツを用意している。その中で特に注目を集めているのが、同年11月よりスタートしたカスタムメード・シューズのオーダー・システム「NIKE iD」だ。

ナイキ①

ナイキジャパン・ホームページ http://nike. jp/fronV

「NIKE iD」

 「NIKE iD」は、オンライン上で特定のナイキフットウエアのカラーおよびパーソナルI.D.をカスタムメードでオーダーできるシステム。色やデザイン計192通りのパターンを自由に組み合わせて、自分の好みに合ったオリジナルのスポーツ・シューズをオーダーすることができる。「AIR PREST」を例としたオーダーの流れは以下の通り。
 ①同社の公式サイトにアクセスし、ユーザー登録をする。②「NIKE iD」の画面の「Build your own NIKE id shoe」を指定する。③「AIR PREST」のベースカラーを決める:アッパーの素材(柄)を「ストライプ」「スウィフト・スーツ」「ソリッド」の3タイプから選び、素材ごとに用意されている色のバリエーション「ストライプ…6色」「スウィフト・スーツ…2色」「ソリッド…8色」から好きなカラーを選択する。④アクセントカラーを決める:シューレースをまとめるサイドパーツ(ケイジ)のカラーを12色から選択する。⑤サイドパーツに入るパーソナルI.D.(ネーム)を指定する:最大8文字までの英数字または「:(コロン)」が記載可能。⑥以上の指定により出来上がるシューズを画面上のCGで確認。⑦XXS〜XL(21cm〜33cm)のサイズを指定して完了。
 決済は銀行振込で、商品の配送は、オーダー(商品代金入金の確認)から21日(3週間)程度。販売は日本国内のみの限定である。

0204-3

「Nike iD」

eはブランディングの強化の主要メディア

 消費財メーカーや小売りによるオンライン上でのオーダーメードは、ここ最近では、広く行われるようになってきているが、同社のeコマースへの参入にはどういった意図があったのだろうか。
 一般にeコマースの利点として、受注生産ゆえに必ずしも在庫を抱える必要がないこと、値引き競争に巻き込まれにくいことなどが挙げられる。これらは同社にも当てはまり、特に192種類ものバリエーションがある商品を常時店頭に置くことは不可能であり、これが同社のeコマース参入への大きな理由のひとつになっている。
 しかし「NIKE iD」を含む同社公式サイト立ち上げの最大の目的は、商品の販売ではなく、顧客とのコネクションを深めることによるブランディングの深化であるという。その際、最初に述べた同社の社風を表すひとつのキーワードである“イノベーション”が重要になってくる。ここで同社は、顧客をしっかり理解し、顧客の欲しているものを提供するというよりは、同社が先頭に立って顧客をリードしていくというスタンスを心掛けているという。イノベーティブであることは商品に関してだけではなく、広告媒体、ビジネスのフローなど、同社がかかわるすべてに対して重要であるとしている。
 こういった流れから、「NIKE iD」も当然その一環であり、国内で競合が着手していないカスタムメード・シューズのオーダーというシステムを提示することで、顧客に同社の“イノベーション”を感じ取ってほしいというのが、そもそもの発想であったという。
 現在「NIKE iD」でオーダーできるのは、オーダーのフローで触れた「AIR PREST」を含めた3種類のほか、2002年3月からはこれらにサッカー用スパイクが加わった。

顧客との関係作りが課題

 しかし、eコマース開始に際してはイノベーションを感じさせる魅力をどこに持ってくるのか、また、商品が実際に身に付けるものであるだけに、「サイズ」に代表される諸問題の解決が課題となった。そこで同社が目を付けたのが、10代、20代の若者に絶大な人気を博している既存商品「PREST」シリーズであった。同シリーズは13のカラー・バリエーションを持ち、サイズも従来のような5mm刻みの単位ではなくXXS〜XLの数種類でカバーしている。こういった特徴が決め手となり、同シリーズががeコマースの対象商品として採用された。
 販売開始以来売れ行きは好調で、発売開始から半年間ほどは、AM5:00の受付開始に対し、AM5:10にはオーダー・ストップ、という事態もしばしばであった。利用顧客層は、実店舗での顧客層と同様に、やはり10代から20代が多い。その多くは店頭で同商品を購入した後に、オンラインで自分だけのオリジナルの同商品を購入するコアなファンであるという。女性の購入者も多い。「コアなファン」を増やし、顧客とのコネクションを深めることは、前述のように同社のeコマース参入の大きな目的であり、その意味で確実な成果を上げていると言える。また、eコマース開始により、アナログの販売チャネルでの売り上げが落ちることもなく、メーカーと販売店の間にあつれきはないという。
 「NIKE iD」の会員数は公表されていないが、開始以来かなり多数のアクセスがある。現状、アクセスしてくれた個々の顧客との関係作りは、ある程度できており、さまざまな情報の収集、あるいは同社からの情報の提供を行っている。
 しかし同社では、eコマースを行う多くの企業と同様に、そこから先のもう一歩突っ込んだ部分での ──つまり、もっと効果的に現在の会員がさらにコアな同社のファンに成長するような── One to Oneでのサポートを行う仕組みが現在のところ確立されていない。募った会員に、定期的にDMを送るというようなありきたりなものでない、本当の意味でのOne to Oneの実現こそが、今後の大きな課題のひとつであると結んでいる。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年4月号の記事