商品販売から広がるWeb活用

ソニー(株)

販売チャネルにWebを想定してスタート

 最初期モデルの発売から3年。ますます幅広い層からの支持を受け、愛され続けているエンターテインメントロボット“AIBO”。2001年9月には、新たに親しみやすいデザインの“ラッテ『ERS-311』”と“マカロン『ERS-312』”(右下写真)がラインナップに加わった。価格も10万円を切る、より手ごろなこれらモデルの投入により“AIBO”市場はさらなる盛り上がりを見せている。
 “AIBO”を手掛けるソニー(株)では、最初のモデルである『ERS-110』を世に出すに当たっては、当初よりWebのみでの販売を念頭に置いていた。否、正確にはWeb以外での対応は難しいと考えていた。これは国内向けの販売予定数が3,000体と少なかったこと、開発コンセプトにコンピュータとの親和性が組み込まれていたことなどによる。また、商品を販売した後のオーナーとの関係作りにも重点を置いていたため、さらに前例のない商品であるがゆえに、そのユーザーの実体を把握するというマーケティング的な意味からも、Webをチャネルとした販売が妥当であろうと考えたのである。

Webで販売後の顧客を追う

 eコマースであるがゆえに、商品購入の際に顧客は、住所・eメールアドレス・緊急時連絡用の電話番号等を同社側に知らせることが必要であり、同社はここで顧客の属性情報を得ることができる。しかし実際に顧客との情報交換が行われるか否かは、“AIBO”購入後の顧客からのオーナー登録による。ここで顧客は、以降、同社から“AIBO”に関する情報が必要であればその旨を伝えることになるが、ほとんど例外なくその全員が情報を希望してきたという。彼らに対し、同社では「CLUB AIBO通信」をeメールで配信してきた。
 また、“AIBO”を手に入れられなかった購入希望者のために、“AIBO”オーナーでなくとも「CLUB AIBO通信」が購読できるサービスも行っていた。これに対し、顧客の側からの同社へのアプローチとしては、Web上の「CLUB AIBO通信」連動コンテンツ、「CLUB AIBO」の“マイAIBOの自慢コーナー”への投稿のほか、テクニカル・サポートや修理を承るコールセンター(AIBOクリニック)に育成相談を寄せることなどが挙げられる。
 同社では「AIBOクリニック」の位置付けを、基本的に修理依頼等の技術的な相談を受け付けるセンターと想定していたが、実際には相談ではなく、単に「自分のAIBOの話をじっくり聞いてもらいたい」という顧客もかなり存在し、Webを媒介とした取り引きのわりには、メールでのやりとりだけではなく、アナログな生の人と人の接触を望む顧客のニーズの多さを痛感し、効率が利点であると考えていたWebのある意味での限界を見たという。

実店舗の強化

 また同社は、もうひとつのWebの限界として、オーナー登録者と実際のユーザーが必ずしも一致しておらず、ユーザーの顔が見えてこないことを挙げている。
 “AIBO”の購入者は20代後半〜30代を中心に40代〜70代といった高齢層に及んでいる。しかし、これはあくまでも“購入者”であり、実際のユーザーとは限らないというのだ。ユーザー登録は、基本的にひとつのシリアル・ナンバー(つまり1商品)に対し、ひとりのオーナーに限られているのだが、実際には「家族全員の名前で登録したい」といった声も多く、購入したのは父親だが、実際に使っているのは妻や子供である場合も多いことが分かってきているという。
 よって、購入者の属性のみを頼りにマーケティングを行ってしまうと、見当はずれの結果になってしまう危険性もあるわけだ。
 そこで同社では、コールセンターにおいては、極力「人」による、イメージ的にフェイス・トゥ・フェイスに近いかたちの対応をすると共に、2000年11月に発売した“AIBO”から電話での受注と実店舗での販売をWebでの販売に並行して開始した。当初、これは純粋な店頭販売ではなく、注文を店頭で受け付け、商品は同社から直送するというものであったが、“ラッテ”と“マカロン”の発売に合わせて、ソニーマーケティング(株)が店舗販売に参入し、実店舗のみで決済が完了する完全な店頭販売を実現した。これは店舗に実際に在庫を置いての販売であり、当然、商品の持ち帰りも可能だ。加えて、今まで購入前にはほとんど触れることができなかった“AIBO”に直接触れることもできる。

ソニー② ソニー①

CLUB AIBOトップページhttp://www.jp.aibo.com/clubaibo/index.htmlⓒ2002 Sony Corporation(左)
AIBOホームページhttp://www.jp.aibo.com/ⓒ2002 Sony Corporation(右)

eコマース以外にも広がるWeb活用

 同社では、こうした実店舗での販売に力を入れており、今後も実店舗の数を増やしていく意向である。するとWebのショップとしての機能は相対的に下がっていくわけだが、これに伴い、Webの役割を徐々に変えていく必要性を感じているという。もちろん、Webでの販売から始まった“AIBO”であるし、一般的にもそのイメージは強いので、eコマース機能がなくなることはない。むしろ、さらなる充実を図る考えであるが、それ以外のコンテンツについても拡充していきたいとしている。方向性としては、「実際に購入した“AIBO”をどう楽しめばいいのか」「“AIBO”がいることでどう生活が変わるのか」を顧客により具体的に提示していくことに主眼を置いている。
 これを実現するかたちで、2002年3月より、前出の「CLUB AIBO」のリニューアルを行い、その中にオーナー同士の交流を促進する目的の掲示板を設けた。熱狂的な“AIBO”オーナーの中には、同社が「濃いオーナーさん」と呼ぶところの私設サイトを運営する者もいるが、一般的にはやはりハードルが高い。そこで、自分でホームページを作るまではいかないが、ほかのオーナーとも接触してみたいと考えている多くのオーナーの要望に応えるかたちでこれを用意したのだ。この掲示板を、オーナーが主催するイベントや小規模なミーティングの告知にも利用してもらうことで、オーナーに気軽に仲間を増やしてもらおうという意図である。
 また、実店舗の補足・支援という意味でのWeb活用も検討されている。前述のように実店舗での“AIBO”販売開始に伴い、購入前に実際に“AIBO”に触れることが可能になったが、それもやはり店舗という限られた空間だけに制約がある。例えば「ベッドの上で寝そべる“AIBO”」「ソファーの側を歩く“AIBO”」を見ることはできない。そこで、Web上でそういったさまざまなシチュエーションを思い入れを込めて伝えていくことができる場をオーナーに提供することで、よりリアルに“AIBO”のいる生活を実感してもらおうというわけだ。
 このほかにも、同社では、顧客の近隣にある店舗の紹介、店舗の特色の紹介などといった実店舗への支援、そして将来的には“AIBO”のオーダーメードの受け付けなど、Webならではの取り組みも視野に入れており、総合的な顧客満足につなげていきたいとしている。今後の同社のWeb活用法に注目したい。

ソニー③

「ラッテ」(左)「マカロン」(右)ⓒ2002 Sony Corporation


月刊『アイ・エム・プレス』2002年4月号の記事