顧客との対話を通じてナレッジを共有

(株)吉田オリジナル

「お客様が第一」「お客様との永いおつきあい」が経営理念

 オリジナル・ブランド“イビザ”を擁する(株)吉田オリジナルは、40〜60代の女性を中心に、圧倒的な支持を受けている革製バッグ・メーカーだ。1965年の創業以来、「お客様が第一」「お客様との永いおつきあい」を経営理念に掲げている。“イビザ”ブランドは1965年の会社設立後、1972年に発足。現在では全国に97万人の熱烈なファンをつかむビッグ・ブランドに成長し、年商は45億〜6億円に上る。1975年には販売ルートを刷新。顧客の生の声を聞き、それを商品作りに活かしたいとの思いから、すべての商品を問屋を通さず自身で販売する方針に切り替えた。また皮革問屋としての業務は廃止し、バッグの製造・販売のみに専念するようになった。
 “イビザ”ブランドの人気の秘密は、素材の厳選から企画、製造、卸、販売、アフターケアまで一貫した責任ある体制だ。特にアフターケアには注力しており、修理専門の部署を設け、永久に同社商品の修理を行うサービスを謳っている。ここには月間1,600〜2,000件もの修理依頼が殺到。その人気の程をうかがわせる。こういった顧客第一主義の経営が認められ、1998年には「日本経営品質賞」を受賞。さらなる躍進を図っている。ちなみに“イビザ”とは、ハンドバッグの先進国であるスペインの地中海に浮かぶ素朴で美しい島、イビザ島から採られたものだ。

顧客の声を商品開発に積極的に活用

 “イビザ”ブランドのバッグは極めて再購入率が高い。顧客の好みを反映させたその商品作りは、ナレッジマネジメントがあってこそのものだ。前述のように100万人近いファンを持つ同社だが、そのすべての購入履歴をデータベース化している。これはもともとアフターケアの際の連絡先を記録するという発想で構築されたものであったが、結果として常に顧客の望む商品の開発に活かされている。データの収集方法はさまざまであるが、先の購入履歴のほかに、全国の百貨店に派遣されている150名余りの同社販売社員からの情報、同社が年2回発行している同社独自の情報誌「イビザ・マガジン」に添付されているアンケート・ハガキの年間5,000通に及ぶ返信、全国の百貨店を介しての「お手入れ会」の案内ハガキへの20%近くのレスポンス、それら以外の顧客からの年間およそ500通の手紙などに加え、後述するショールームや販売店からの情報などが代表的なものである。
 このようにして収集されたナレッジは、すべて社長が目を通した後、朝礼の際に全社員に伝達される。さらには各部署に設置されているパソコンを介して閲覧できるものもある。そして、これらのナレッジが有用であると判断されれば、即日、商品に反映されることも少なくなく、顧客の意見を積極的に採り入れている。

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年2回発行の情報誌「イビザ・マガジン」

顧客とのダイレクトなコミュニケーションによるナレッジの収集

 社員ひとりひとりが直接顧客と触れあう機会をなるべく多く持ち、顧客を理解する、というのが同社の方針。そのための具体的な施策としては、まず、“イビザ”のショールームや販売店と本社工場をオンラインで結ぶテレビ電話がある。これは遠方の顧客と直接対面し、修理の要望などを理解するのに有用な手段であり、時には社長自らが応対することもあるという。また「お手入れ会」は、同社社員が地方の百貨店等に出向き、顧客が持参した同社商品を手入れするものであり、遠方の顧客に対する重要なアフターケアの一環であるとともに、同社社員と顧客との対話の場となっている。
 さらに特徴的なのは、顧客を定期的に本社工場に招く工場見学バスツアーだ。これは顧客に工場を実際に見てもらうことで同社商品への理解を促進すると同時に、顧客との親睦を深め、作り手と使い手の気持ちを伝えあう最高の交流の場として機能している。またツアーの際に催される新作バッグのファッション・ショーでは、社員自らがモデルとなり顧客とふれあうことで、顧客への理解を深めている。同ツアーは顧客から圧倒的な支持を受けており、有料ではあるが、複数回参加を希望する顧客も多いということだ。このほかにも展示即売会や、年に数回行われるふれあいパーティーなど、社員と顧客が直接コミュニケーションを取れるような仕組作りがなされている。

風通しのよい社風

 同社では、商品作りに直接関与していない社員(製作部以外の社員)にも、関与している社員(製作部)同様に商品に対する理解を深めてほしいという意図から、全社員を対象にしたオリジナルバッグ・デザイン・コンテストを行っている。毎回、独創的な発想によるバッグが多数出品され、入賞作品には賞金も出たり、商品として採用されることもあるということで、社員のモチベーション・アップにも一役買っている。同コンテストに製作部以外の社員が参加する場合は、バッグの製造が技術的に難しいため、製作部社員と組むことも多い。このコンテストの狙いは、前述のように、全社員の自社商品への理解がその主たるものではあるが、同時に普段、接触することの少ない異部署の社員同志がふれあうことで、互いの持つナレッジを共有する機会を提供するという意味でも、非常に重要なものになっている。
 また、1983年からは、社員に「思ったことノート」を入社時に配布。これは文字どおり社員が思ったことを自由に書き込めるもので、基本的に毎月1回の提出を求めている。社長がすべてに目を通し、社内の、些細で普段見落としがちな情報を得られるツールとして機能している。返却時には一律2,000円が付与され、有用な情報やアイデアは朝礼時に紹介することで社員間での情報の共有がなされている。このほかにもメールやFAX等、さまざまなメディアを通じてナレッジを共有。社員と社長の距離が短く、社内の雰囲気がフラットであるのが同社の特徴だ。風通しのよい社風を築くことで、社内のナレッジが共有しやすい環境を提供している同社は、今後もますます顧客の側に立った商品作りを目指していく考えだ。

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明るい工場内からは、次々に新作バッグが生まれている


月刊『アイ・エム・プレス』2001年12月号の記事