顧客中心主義でサービス向上を目指す

近畿日本ツーリスト(株)クラブツーリズムカンパニー

業界初の新聞広告を通じてのツアー募集活動を実施

 近畿日本ツーリスト(株)の社内カンパニーのひとつであるクラブツーリズムは、1980年に国内で初めて、新聞広告を通じてのツアーの募集活動を実施した。旅行は窓口で対面で申し込むことが一般的であった当時において、まったくの無店舗で顧客からの申し込みを受けるシステムを構築した同社は一躍業界内で注目を集めることとなった。当初から蓄積していた顧客のデータベースが10万世帯に達した1985年には、雑誌『旅の友』を創刊。2001年現在で全国330万世帯に無料で配布している。当初、専門のコールセンターは設けず、社員全員が顧客からの問い合わせ等に対応していたが、同年には15名程の専任のオペレータを配した「テレホンセンター」を設立した。設立当時の電話回線は10回線程度だったという(現在首都圏の回線数は552)。
 現在同社は、国内旅行担当の成増、海外旅行担当の新宿のほかに、仙台、立川、大宮、千葉、横浜、藤沢、浜松、名古屋、大阪、神戸などにサテライト・センターを開設し、コールセンターの規模を拡大してきている。

クラブツーリズムを宣言

 同社で扱う商品は目に見えない「旅行」であるため、顧客の商品に対する不安は大きいという。そこでオペレータには、顧客の立場になって親密に接することが要求される。また、商品に関する情報が非常に広範囲にわたるため、オペレータにも広い知識が必要とされ、その負担は決して軽いものではない。そこで同社では予約管理システム「FACT2010」を導入することでオペレータの負担を軽減している。「FACT2010」には属性・性別といった顧客情報と、同社がツアーを組んでいる世界各地の現地情報が蓄積されており、オペレータはここから必要な情報を自由に取り出すことができる。ほとんどの顧客からの問い合わせに対しては「FACT2010」から得られる情報で対応できるということだ。
 また同社は1995年4月に「クラブツーリズム宣言」を発表。それまでの商品中心の考え方から、顧客中心の─ひとりひとりの顧客に目を向けた考え方にシフトした。この宣言から、「FACT2010」に蓄積されている顧客情報を活用したOne to Oneマーケティングにはかなり力を入れており、これが現在の同社の主力戦略になっている。「クラブツーリズム宣言」は21世紀社会の二大潮流のひとつである「高齢化社会」における人々の大きな関心事である「孤独の解消」、「健康づくり」「社会参加意識の高まり」といった時代要請への答えである。具体的には、「出会い」「感動」「学び」「健康」「安らぎ」をテーマとした同じ興味や思いをもとに集った仲間同志が共感しあいながら旅を楽しむ、新しい旅のスタイルの提供である。2001年現在の保有顧客情報数は『旅の友』配付数と同数の330万世帯、650万人に上る。

CSの第一歩は「クオリティ・ファースト」

 同センターでは、さまざまな面で、同社の品質方針である、「クオリティ・ファースト」を推進しているが、その中で顧客満足(CS)の指標としては、電話の応答率が挙げられる。これは電話の総呼数に対する応答数の比率だ。同コールセンターでは、この応答率が常に70%以上になるように心掛けている。
 また同社は、商品・サービスの品質に関するグローバル・スタンダードであるISO9001規格の認証を2000年12月に旅行業界では初めて取得し、さらなる品質向上に取り組んでいる。(図表5)。さらに同センターは毎年、(財)日本電信電話ユーザ協会の電話応対コンクールに出場しており、そこで自社のコールセンターのレベルをチェックしている。同時に、他企業の優れた電話応対を直に見ることができることもコンクール出場の大きなメリットであるという。1999年には、やはり電信電話ユーザ協会が主催する企業電話応対コンクールで全国5位に入賞した。これは一定期間内に抜き打ちで、コンクール審査員から電話応対チェックの電話が掛かってくるというものである。最近では、社内に「スキルアップ事務局」を設置し、“電話応対スキルアップ・キャンペーン”を実施している。このキャンペーンでも、前記の電話応対コンクールと同様に、抜き打ちのモニタリング調査を行うことで、オペレータの電話応対のスキル向上を図っている。

08-3 図表5

 また年2回、春期と秋期のオペレータと後述のフレンドリー・スタッフを対象にした研修では、顧客からの問い合わせが多い事項や新商品についての講習が行われており、よりきめ細かなCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)を目指している。さらにCTIの導入により、顧客の電話番号から顧客データをポップアップ、顧客の属性や履歴に応じた対応ができるようになっている。これにより、顧客に「自分は企業に認識されている」という意識を芽生えさせることができ、優良顧客の囲い込みにも一役買っているということだ。
 今後はさらにきめ細かなCRM実現のために、新たな指標作りを含めたテレホンセンター自体の強化を模索中である。

顧客の要望に基づいたクラブ活動を運営

 同社が現在、最も力を入れているのが「クラブ活動」である。これは前述の「クラブツーリズム宣言」に基づき、顧客の要望を元にさまざまなテーマのクラブを創設するというもので、スポーツを通しての交流、文化を通じての交流、海外、国内といったカテゴリーに分かれている。これは前述の商品中心主義から、顧客中心主義にシフトした結果の産物のひとつと言えるものであり、企業側からの押し付けの商品ではなく、顧客からの発案をもとに日々“成長”しているものである。
 「クラブ活動」の創設において重要な役割を果たすのがフレンドリー・スタッフである。同社の現在の主要顧客は「クラブツーリズム宣言」で述べたように、シニア層であり、今後もさらにシニア層に向けた戦略を展開していく考えだが、その際に、旅の添乗などを通じて、顧客と直に触れあうことで、同社のCRMを実現していくのがフレンドリー・スタッフの役割だ。業務的にはテレホンセンターのオペレータとも重複する部分があるが、電話を通してではなく、直接、顔と顔を突き合わせて顧客との信頼関係を築き、顧客からの意見・要望を吸い上げることができるフレンドリー・スタッフの存在意義は大きい。
 現在、約180のクラブが活動している。この中で一際規模の大きい「クラブ・ララ」は、コールセンターに寄せられた声とフレンドリー・スタッフが吸い上げた声によって、1997年8月に誕生したクラブである。これは「旅行はしたいのだけれど同行する相手がおらず、しかし見知らぬ集団の旅行に参加するのはちょっと……」という顧客の声に応えた、全員が「ひとりで参加」することが条件である、新たな仲間を見つけるクラブだ。このようにクラブツーリズムでは2010年までに1,000のクラブを設立することを目標としている。
 同社では、コールセンターが独立した空間に設置されているわけではなく、他の部署と容易にコミュニケーションが取れる環境にあるので、こういった顧客からの声は随時、担当の部署にフィードバックされている。また前述の「FACT2010」のメール・システムを利用することで、顧客の声を特定の部署(あるいは全員)に伝えることができる 。
 今後、同社ではさらに、属性・趣味といった顧客情報を充実させたり、電話で顧客とコンタクトを取る際の話法技術を向上させることで、より深い顧客とのCRMを図っていきたい考えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年8月号の記事