データマイニング&RFMのハイブリッド方式により顧客情報を分析

(株)デオデオ

効用の提供

 1947年創業。中国地方の商業、および産業活動の中心地である広島を本拠地に、国内の大手家電量販店の一角を占める(株)デオデオ。全国に展開する493店舗のうち直営店は109店、フランチャイズ店は381店。年商は2,470億円に上る。
 同社は創業から5年後の1952年に家電製品の卸売から小売に事業を移行した。1957年には他社に先駆けて家電のディスカウント販売を開始し、現在に至っている。開始当初は、メーカーによる価格統制から、出荷停止を受けたりもしたが、苦難を乗り越えてディスカウントを敢行した。同社の経営理念は「効用の提供と完全販売による顧客第一主義の実現」。ディスカウント販売により、かなりの販売実績を上げた同社だが、ここで「商売とは何か」という壁にぶつかったという。そこで、商品の販売が最終目的ではなく、商品が消費者の暮らしにもたらす満足・楽しさを提供していくことこそが命題だという結論に至ったという。これを同社では「効用の提供」と称している。これに対して「完全販売」とは販売した商品が天寿を全うするまで顧客が安心して使用できるよう万全のケアを実施することだという。
 前述の経営理念により、1960年には業界で初めて年中無休のサポート体制を確立すると同時に、商品に、当時としては画期的に長い3年という長期保証を付帯した。同社ではこれらのサービスを開始した当初より、「効用」が無くなった時に、迅速なサービスを提供する目的で、商品を購入した顧客の住所、氏名、電話番号、購入年月日、購入商品のメーカー名、型番などのデータを徹底して記録していた。これらの顧客データを記録した用紙には工夫が施されており、購入商品ごとに穴が開けられていて、検索したい穴に棒を差し込むと、購入者が選別されるという仕組みになっていた。また購入者の居住エリアが色分けされていて一目でわかるというような工夫もなされていた。同社はこのようにアナログ時代から、検索性に優れた顧客データの管理体制をもっていたのだ。さらに1982年には業界で初めてPOSを導入。これを契機に顧客のデータベース構築に着手することになるわけだが、アナログ時代から以上のようなノウハウをもっていたので、デジタル媒体のデータベース構築にもスムースに移行できたという。結果、蓄積している顧客のデータベースは現在までに1,430万件(650万世帯)。1997年には、これまた業界初、年会費980円の5年間無料保証カードを発行する。そのカード会員は2001年5月現在で200万件(400万人)に達する。
 同社ではこのようにして集まった8,800万件にもおよぶ顧客の購入履歴、700万件におよぶ修理履歴を、戦略的に活用しようという発想からCRMに取り組むこととなった。

小売ならではの情報収集

 同社が扱う商品は非常に多岐に渡り、かつ消費者の購買活動の中核を占める商品であるため、個々の顧客の購買行動履歴には有用なビジネスのヒントが多数ある。取り扱い商品が多いが故に購入商品が顧客の実体を克明に投影しており、そこからいろいろなものが見えてくるというのは小売ならではの強みだと言えよう。顧客の行動を示すデータにはデモグラフィック・データ(人口統計的)とサイコグラフィック・データ(心理状況的)がある。デモグラフィック・データの収集は比較的入手が容易であるが、サイコグラフィック・データは入手が困難とされる。それは、たとえばアンケートなどで収集されるデータには顧客の願望・見栄等が含蓄されている場合があるからだ。しかし同社では顧客の“購入した”という事実を前提としてのサイコグラフィック・データを多数所有しているので、そのデータの信憑性は極めて高いとしており、その分析に力を入れている。
 同社ではこうしたデータの分析に、データマイニングと従来のRFM分析を組み合わせたハイブリッド方式(以下、ハイブリッド手法)で取り組んでいる。使用しているデータマイニング・ツールはIBMの「インテリジェント・マイナー」だ。

平等から公平へ

 2000年9月にはDMキャンペーンの対象顧客選別でハイブリッド手法を採用した。RFMについては、購入頻度が高く、また過去3年間での購入金額の高い顧客、といった条件で選別しているが、条件に合致するのは全顧客の約3%に過ぎない。そこで同社では、残りの97%の顧客から効率良くキャンペーン対象を選別するためにデータマイニングを導入した。その結果、映像商品に関するDMでは、RFMにより選別された上位3%の顧客とほぼ同様のレスポンス率を達成することができた(図表4)。

07-4 図表4 キャンペーン対象顧客選別

 「平等から公平へ」も同社のハイブリッド手法のひとつ。「10年先の顧客は誰か?」を割り出すことも、上記の手法により可能になったということだ。たとえば、カード会員になった顧客が2年目も商品を購入すると、3年目以降も継続して購入する確率が高い(図表5)。 そこで2年目に離脱する39.2%の顧客をいかに少なくするかがポイントだと同社では考えている。長期的に付き合うことができる顧客の確保という意味において、前記の手法が果たす役割は大きい。

07-4 図表5 2年目顧客

 他のハイブリッド手法の活用事例としては、ライフサイクル購買分析が挙げられる。購買商品のターゲットの定まらない顧客へ向けて、少ない投資で、ライフサイクルに即した情報を提供することがその狙いである。
 エアコンを例に挙げると、Aグループの顧客は、1年目、2年目、5年目、7年目、9年目に購入する。Bグループは、3年目、4年目、6年目、8年目に購入する。Cグループは1年目、2年目、5年目、8年目に購入する……といったパターンをハイブリッド手法により発見した(図表6)。

07-4 図表6 ライフサイクル購買分析

 また、ライフスタイル購買分析も事例のひとつとして挙げられる。生活家電中心の購買活動グループや、AVP中心の購買活動グループも、データマイニングから見えてくる。この結果により、ライフサイクル購買分析の事例と同様に、顧客のライフスタイルに即した情報を提供することができる。
 1999年には、ライフイベント購買分析として、独身の顧客を分析対象とした「シングルライフ対象顧客予測」を実施した。年齢属性別データとRFM分析により抽出した購入見込みの高い入学・卒業者と、1998年度のシングルライフ購入者の購買特性を利用してデータマイニングをしたものを合わせて予測した。それは実際の結果と96%の確率で一致したという。

顧客の購買代理

 同社では1994年にウェブ・サイト「デオデオ・サイバー・シティー」をスタートさせ、業界で初のインターネット販売をはじめた。取り扱い商品は当初洋書のみだったが、現在では家電を中心におよそ9,000アイテムを販売しており、これからはこの分野でのマイニング利用も期待される。
 今後の課題として同社は、顧客の住所とメール・アドレスを統合して管理することを挙げている。同社では事業のひとつとしてインターネット・プロバイダーも営んでおり、この利用者も既に10万人を突破している。前述の「デオデオ・サイバー・シティー」の会員も2万人強。これらインターネットから得られる顧客のメール・アドレスと、従来の店舗から得られる顧客の住所を整理し、一元管理する仕組み作りが急務であるということだ。
 「欲しい時に欲しい情報をいかに提供できるか」を重要視している同社では、データマイニングの活用に当っても、目的意識をそこに絞り込んでいる。したがって、マイニングの精度を高めていくことは、同社にとって重要な課題のひとつである。
 小売の使命は顧客を知ること。メーカーの販売代理ではなく、顧客の購買代理を自認する同社では、膨大な情報の中から、有用なものを整理して提供することこそが命題だと認識しており、より効率的な購買代理を目指して日夜奮闘中である。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年7月号の記事