強力な会員システムで優良顧客を囲い込む

ヒルトン東京

3つの顧客サービス・プログラム

 現在、世界約50カ国に220余のホテルを運営する、世界的なホテルチェーン、ヒルトン・インターナショナル社。ヒルトン東京(本社:日本ヒルトン(株))は、ヒルトン・インターナショナル社のホテルのひとつとして1963年にオープンした。1984年には現在の新宿副都心に移転し、806の客室とさまざまな施設を有する大規模な国際ホテルになった。また、“ヒルトン・スタンダード”といわれる高水準のサービスを提供する日本初の外資系ホテルでもある。
 現在同社では、以下の3つの顧客サービス・プログラムを展開している。
(1)ヒルトンクラブ・ジャパン
(2)ゴールデン・キー・クラブ
(3)ヒルトンHオーナーズ
 ヒルトンクラブ・ジャパンは、日本国内5カ所のヒルトンで利用できる。来年6月のクラブの組織改変、特典内容の向上等を検討中のため、現在、新規会員募集は行っていない。
 ゴールデン・キー・クラブは、ヒルトン東京が運営管理する、メンバー専用ラウンジ、フィットネス・センター、テニスコートなどのさまざまな施設が利用できる高級クラブである。

ヒルトンHオーナーズ

 そして同社が推奨する顧客サービス・プログラム、「ヒルトンHオーナーズ」は、1997年にアメリカを拠点とするヒルトン・ホテル・コーポレーションと歴史的な業務提携が行われたことにより、ヒルトン・インターナショナル社を加え、世界規模の広がりを見せているFSP(フリークエント・ステイヤー・プログラム)である。ビジネスや休暇に世界各国の2,000以上のHオーナーズ参加ホテルを利用する、フリークエント・トラベラーに向けたプログラムである。
 Hオーナーズの会員には、ホテル宿泊ポイントや航空マイレージ、フリートラベル、客室のアップグレード、特別商品などの特典が用意されている。入会は無料で、ヒルトンHオーナーズ加盟ホテルまたは電話予約センター、もしくはインターネットから申し込むことができる。
 会員には加盟ホテルに宿泊する度に、ヒルトンの「ダブルディップ」によりHオーナーズポイントが加算される。「ダブルディップ」とは、ホテル宿泊ポイントと、航空マイレージの両方を同時に獲得できるシステムで、数あるホテルの中でも、ヒルトンHオーナーズ・プログラムだけが、唯一提供している特典である。Hオーナーズポイントは、無料または割引宿泊、もしくは提携航空会社の航空チケットやマイル、クルージングその他プレミアム・グッズと交換することができる。
 ホテル宿泊ポイントは、加盟ホテルのヒルトンやコンラッド・ホテル、ダブルツリー、エンバシー・スイートを利用する際の、ビジネスあるいはレジャー料金に対して加算される。ポイントは1USドル(その他の通貨においても同等の額)につき10ポイント。宿泊の際の電話料金や部屋付けのレストラン利用代金も対象になる。
 航空マイレージは会員がヒルトン、およびコンラッド・ホテル、ダブルツリー、エンバシー・スイート、ホームウッド・スイート・バイ・ヒルトンを利用する度に、30社を上回る提携航空会社の中から会員が登録している企業のFFP(フリークエント・フライヤー・プログラム)に500マイル分のポイントが加算される。

ヒルトンHオーナーズメンバーカード NQ_B-2

「ヒルトンHオーナーズ」メンバーズカード(左)/「ヒルトンHオーナーズVISAカード」入会申込書(右)

ステータスでサービスを差別化

 Hオーナーズには4つのステータスがあり、それは利用頻度に応じて定められる。ステータスが上がれば上がるほど、Hオーナーズ・ボーナス・ポイントや部屋のアップグレード、フィットネス・センター・フリーなど、特典の内容が充実する。4つのステータスはグレードの低い方から、以下の順番になっている。
(1)Hオーナーズブルーメンバー
前述のように加盟ホテルまたは電話予約センター、もしくはインターネットから申し込むことができる。暦年の一四半期の間(3カ月間)に4回Hオーナーズ加盟ホテルに宿泊するとオーナーズ・ボーナス・ポイント2,000ポイントが加算される。
(2)シルバーVIP
暦年の1年間で4回滞在、もしくは10泊以上Hオーナーズ加盟ホテルに宿泊した顧客が対象。すべてのHオーナーズ・ポイントに15%のボーナスポイントが加算される。また暦年の一四半期の間(3カ月間)に4回Hオーナーズ加盟ホテルに宿泊するとオーナーズ・ポイント2,000ポイントが加算される。
(3)ゴールドVIP
暦年の1年間で16回滞在、もしくは36泊以上Hオーナーズ加盟ホテルに宿泊した顧客が対象。すべてのHオーナーズ・ポイントに25%のボーナスポイントが加算される。また暦年の一四半期の間(3カ月間)に4回Hオーナーズ加盟ホテルに宿泊するとオーナーズ・ポイント4,000ポイントが加算され、部屋もグレードアップされる。
(4)ダイヤモンドVIP
暦年の1年間で28回滞在、もしくは60泊以上Hオーナーズ加盟ホテルに宿泊した顧客が対象。すべてのHオーナーズ・ポイントに50%のボーナスポイントが加算される。また暦年の一四半期の間にHオーナーズ加盟ホテルに宿泊するとオーナーズ・ポイント4,000ポイントが加算され、部屋がグレードアップされるほか、48時間予約保証等、特別なサービスを受けることができる。
 またシルバーVIP以上のステータスにはフィットネス・センターの使用が無料である。
 Hオーナーズの会員は全世界で約530万人。日本国内の会員数は公表されていないが、アジア太平洋地区の会員数は約37万人。ヒルトン東京では年間約2,000名の新規会員を獲得している。会員サービスにかける費用は会員売上の数%。会員にはメンバーズカードが発行される。

「ヒルトンならでは」をいくつ提供できるか

 ヒルトンでは各ホテルごとにPMS(プロパティ・マネジメント・システム)を導入している。これは予約受付を行ったり、予約状況・空室状況、顧客情報などを管理するシステムだが、このPMSは世界のヒルトンや旅行代理店のコンピュータ・システムと有機的にリンクしている。これにより顧客情報を各ホテルが共有できるので、どこのヒルトンでも、顧客に重複した質問をすることなく、一貫したサービスを同一の顧客に提供することができる。さらにこのシステムの利用により、Hオーナーズ会員のチェックイン・アウトの簡略化を実現している。
 このほか、各ヒルトンにはコメント用紙が用意されており、顧客は自由に意見を書くことができる。そのコメントのすべてにマネージメントが応えている。また各ホテルの宿泊記録はすべて本社に吸い上げられるが、その記録の中からランダムに各地区担当の社長からホテルの満足度に関してのアンケートが送られる。これはホテルにおける通常のアンケートがチェックアウトの前に済んでしまうのに対して、チェックアウト時のフロントの対応を含めたすべての対応に対して顧客が満足しているかを測定できるのが特長。この結果を元に全ヒルトンのランキングを作成し、それに基づいて月一度のミーティングを開き、常日頃、顧客満足度の向上をはかっている。
 以上のように顧客の満足度に関して、さまざまな工夫を凝らす同社だが、今後の課題としては競合他社との差別化を挙げている。その際、よく言われることは料金による差別化だが、同社では単にディスカウントに頼るのではなく、「ヒルトンならではの楽しさ・満足」をいくつ提供できるか、質と量のバランスをいかにとるかがポイントであると考えている。そのためには自分たちの分析──自分たちの強い部分、弱い部分はどこなのか、顧客は自分たちに何を求めているのか──をもう一度徹底的に行うことが急務であるとしている。
 またもうひとつの課題として、データベースの有効活用を挙げている。同社は膨大な量の顧客データを有しているが、現時点においては必ずしも有効に活用できていないという。今後はこのデータベースを活かすべく、「パーソナリゼーション」、「インテグレーション」をキーワードに、営業部隊へのモバイル端末の導入、PMS内のデータのBI(ビジネス・インテリジェンス)化、洗練されたデータベースの一元管理など、One to Oneマーケティング顧客戦略を推進する有用なシステム作りを模索中だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年6月号の記事