密な接客とロイヤルカードで顧客を囲い込む

(株)銀座山形屋

どれだけ感動を与えるか

 1907年創業。紳士服専門店として90年以上にわたり著名人からビジネスマンまで幅広い層の支持を受けている(株)銀座山形屋。
 長年にわたる専門店としての販売ノウハウと自社生産体制を基盤に、多彩な販売チャネルによって商品を提供している。業界の中では早くから、QRS(クイック・レスポンス・システム)に着手、売り場で受けたオーダーを端末機からホストコンピュータを介して縫製工場のCAD/CAMに直結することで、お客様の手元に商品をお届けするまで1週間という短納期を実現した。
 しかし、小売業である同社は、こうしたハードよりもむしろソフトを重視している。“顧客に対しどれだけ感動を与えるか”がテーマなのだ。

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「ロイヤルカード」

メンバーズカードに“ロイヤルカード”を導入

 現在の中心顧客層は30代後半から50代の男性で、全顧客の約7割を占める。
 同社では、かねてから顧客に対し、ポイントをスタンプする仕組みのメンバーズカードを発行していた。これは購入金額に応じてスタンプを付加し、フルスタンプになると買物券として利用できるものである。2000年3月には、これをリニューアルすると同時に、上顧客に向けた“ロイヤルカード”もスタートさせた。これは以前のスタンプ方式からリライト式に変更されており、一般のメンバーズカードが上限50ポイントであったのに対し、100ポイントまで蓄積可能となっている。
 同社では、購入金額が2年間で20万円以上の顧客をロイヤル会員と称し、優良顧客と位置付けている。“2年間で20万円の購入”とは、1シーズンに最低1回のご利用というイメージだ。現在ロイヤル会員は約1万人、一般会員は約10万人である。会費は無料であるが、スリープ会員を増やさぬように、カード発効日より2年の有効期限を設けている。
 また同社は、ただ闇雲に会員を増やそうという意図はなく、顧客に“本当の銀座山形屋のファン”になっていただくこと、そして必ず次回の購入につなげることこそが大切であると考えている。同社はロイヤル会員に対して、誕生月の割引きなど特別な特典を設けているが、顧客の感動を得るにはメンバーズカードというツールに魂を吹き込まなくてはならないということを強調している。

顧客との親密なコミュニケーション

 同社が考える顧客流出の徴候は、顧客の購買サイクルに変化が生じ始めるときである。前出の“1シーズンに1回のご利用”が3シーズンに2回、2シーズンに1回というように、マイナスに変化するときには注意が必要としている。顧客流出防止策としては、いかに顧客と親密なコミュニケーションがとれるかということを挙げている。これは、ただ単に顧客と仲良くなるということではなく、本当に顧客が欲しがっている商品・サービスをいかに提供できるか、そのために必要な情報をコミュニケーションを通じて入手できるかを意味している。そのためには、顧客と親密になり、顧客に対して的確なファッションのコンサルティングを行うことが重要なポイントとなる。こうした接客の際にキーとなるのが前述のメンバーズカードである。メンバーズカードに記載されている会員番号を店頭の端末機に入力することで、顧客のデータ(体型サイズ・購買履歴・担当販売員など)を検索することができる。
 同社では日頃顧客と接する販売現場の声のほかに、商品と一緒にハガキをお渡しして顧客の声を求める工夫や、問合せや苦情を受け付けるフリーダイヤルの設置など、あらゆる角度から顧客の声を集め、商品・サービスに活用する工夫をしている。

事業ユニット単位で顧客フォーカス

 One to Oneマーケティングが叫ばれる中、同社でも顧客とのOne to Oneのコミュニケーションをさらに強化することで、顧客を維持していきたい考えだ。しかし、“One to One”という言葉だけが先行することのないように、本当に顧客が求めているものは何なのかを見極め、顧客が求めているものを突き詰めていくと、単に価格を下げるということではなく、商品とサービスを充実させることに行き着くという。そこで同社では、現在、各事業ユニットごとにフォーカス(絞込み)をした顧客に対して、その事業分野でNo1の商品、サービスを提供することを目標に、新たな事業構築に取り組んでいる。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年6月号の記事