社内意識の統一を図り資生堂らしさを追求

(株)資生堂

社名と一体化した企業理念

 (株)資生堂は1872年、東京・銀座に「資生堂薬局」として創業した。以来、「美と健やかさ」を追求し、現在では1兆5,000億円と言われる日本国内の化粧品市場において30%を越えるシェアを誇っている。
 同社の社名は「易経」の中の「至哉坤元 万物資生」という一節に由来。天地の資源を集めて、新たな価値を提供していこうという思いが込められている。また“新たな価値の発見と創造”という精神は、そのまま企業理念を表す言葉となっているという。
 1997年にはこの企業理念の実現を目指して、資生堂企業宣言「THE SHISEIDO WAY」が制定された。これは「お客さま」「取引先」「株主」「社員」「社会」という企業を取り巻く5つのステーク・ホルダーに対し、どのような企業活動を通じて、理念の実現を図っていくかを明文化したものであり、社員ひとりひとりの行動の基本となるものである。

新たな価値を創造する2つのセンター

 同社は1999年6月、価値創造力の強化を図るため、組織改革に取り組み、プレステージ・コスメティックを担当する「コスメティック価値創造センター」と、セルフセレクション・コスメティックを担当する「コスメニティー価値創造センター」の2つの価値創造センターをスタートさせた。それぞれの顧客願望を的確にかたちにするこの2つのセンターは、従来の「商品開発」「施策」「宣伝」という3部門にまたがるバトンタッチ式業務を、ブランドごとに責任をもって推進する組織形態に改編したものである。
 「コスメティック価値創造センター」においては、毎月3〜4回コミュニケーション会議が開催される。この商品設計、施策立案、宣伝、デザインを検討する会議の主役は、ブランドを開発・育成する「カンパニー長」といわれるブランド・マネジャーである。この会議で重要視されるのは「新しさ」と、やはり「資生堂らしさ」である。特に新製品開発に当たっては、美・知・心という「資生堂らしさ」が製品のイメージとして反映されているかが徹底的に問われるという。
 現在、同社では組織変更とブランド使用基準の改訂にともない「ブランド・マネジメント・ルールブック」を作成中。2001年1月完成予定のこのルールブックの中では、ブランド・マネジメントに関する基本的な考え方から企業カラー、ロゴマーク、書体などについても解説している。

共通認識を高め、新たなアイディアを生み出す「伝承文化塾」や「FAクラブ」

 同社では128年の同社の歴史を通じて育まれてきた企業文化、理念を次代に受け継いでいくことを目的とし、IMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)と、新たなアイデアを引き出すナレッジ・マネジメントを推進。その一環として経営トップが社員に語りかける「伝承文化塾」や、上海やベネチアなど歴史的な場の力を有する都市に出向いて合宿形式で講義を行なう「FA(Fukuhara Fundamental Academy of Arts)クラブ」を開催している。「伝承文化塾」では年に一度、各部門から召集された社員約30名に対して、経営トップ、幹部が直接講義を実施。創業以来蓄積され続けた企業固有の文化遺伝子「ミーム」を伝承していく場としている。
 また、「FAクラブ」では、開催地を代表するさまざまな分野のスペシャリストが講義を受けもつ。海外の地で日常接することの少ない芸術家や音楽家などから直接話を聞いたり、場の力を体感することにより、新たな視点を見つけ出し、日常の業務に活用している。同クラブの卒業生は約150名。その中には現在、マーケティング部門の幹部となっている社員も少なくないという。
 全世界の人々に、資生堂の企業文化や哲学を理解してもらうため、同社では企業展覧会も積極的に開催している。85年にはニューヨークで「The Art of Beauty」(資生堂の広告美術113年の歩み)展、97年にはパリで「PARIS‐TOKYO‐PARIS SHISEIDO 1897‐1997 LA BEAUTE」、98年には東京で企業文化展「美と知のミーム、資生堂—創ってきたもの、伝えていくもの—BORN IN1872 SHISEIDO‘MEME’」を開催した。
 98年に東京で開かれた企業文化展では、1カ月で3万4,000人の来場者を迎え、資生堂の創業の志と創造の力を改めてアピール。可能な限り社員にも参加を求め、改めて「資生堂らしさ」とは何かを再認識させられる場になったという。

美をテーマにタレントの梅宮アンナを起用した新口紅「ピエヌ  リップパーフェクト」

美をテーマにタレントの梅宮アンナを起用した新口紅
「ピエヌ リップパーフェクト」(左上)
心をテーマにここち良さをアピールする
グローバルフレグランス「資生堂 ZEN」(中央)
知をテーマに商品だけのイメージでアピールする
抗老化ブランド「リバイタル」(左下)


顧客の声を新商品開発に反映

 顧客の90%以上が女性であるという同社は、何よりも顧客の声を重要視している。同社では毎年定期的に、お客様視点で評価するブランドアンケート調査を実施。分析結果を商品開発などをはじめとするマーケティング活動に反映させている。また東京、大阪、福岡にあるショールーム「コスメティックガーデン〔C〕」やウェブサイト「サイバーアイランド」、情報回収システム「ボイスネットC」などからも同社や商品に対する顧客の声を収集し、マーケティング戦略に活用している。
 これら顧客とのコミュニケーションから集めた情報は、同社が資生堂のブランドイメージを再確認するための格好の材料ともなっている。月に数回開かれるコミュニケーション会議や販売部門を含めて開かれるマーケティング会議、トップが最終決定するマーケティング企画会議などの席上においても、顧客の声と資生堂のイメージがかけ離れていないかが確認される。また同時に、美・知・心という資生堂らしさがTVCMなどの広告宣伝に反映されているかも問われるという。
 化粧品会社のTVCMは有名タレントを使った華やかなものが多い。しかし同社では、美・知・心、それぞれに基づいて商品コンセプトを設定し、個々のイメージにあった広告制作をすることで、顧客に対して資生堂らしさを訴求している。
 「広告宣伝に関しては、資生堂、あるいはブランドの“志”が顧客に十分に伝わるかどうかが重要なポイントです。そのためには、社内においてモノ作りに関わる人から販売に携わる人まで、全ての人がそのブランド・コンセプトを正しく理解した上で活動することが重要です。日常から『資生堂らしさとは何か』を全社員に常に問いかけ、常に意識を新たにすることで、美・知・心のイメージにあった商品を開発し、顧客に長く愛される化粧品を創造できるのです」と同社コスメティック価値創造センター コスメティック戦略部次長 兼 ブランドエクイティー管理室長の酒井剛氏は語る。


月刊『アイ・エム・プレス』2000年10月号の記事