御用聞き的なスタンスから、既存顧客への“援護射撃”コールを実践

(株)フジサンケイリビングサービス

良質な商品を顧客に届け、CSの向上を実現

 (株)フジサンケイリビングサービスは、フジテレビや産経新聞など約100社からなるフジサンケイコミュニケーションズグループ(FCG)の一員である。その中で同社は①売りの機能をもって、②生活者ひとりひとりにマッチした情報・商品・サービスを、③ダイレクト・ツーウェイ・コミュニケーションにより流通することを基本コンセプトに事業展開する「リビンググループ」の中心企業として、FCGの情報流通産業部門を担当している。
 同社の通販ブランドである「ディノス」はさまざまな購買データや、各種調査の結果を分析し戦略を立てる「マーケティング機能」、商品の開発から品質管理までを行う「マーチャンダイジング」機能、カタログやテレビ番組などを通して商品を紹介する「販売メディア」機能、受注から配送、アフターサービスまでを一貫して管理する「フルフィルメント」機能の四つの専門的機能に支えられている。これらの機能を担う各部門が合理的、かつ有機的に結合することによって、良質な商品を顧客に届け、CS(顧客満足)の向上を実現するとともに、顧客の望む新商品の開発や発掘を可能にしている。

フジサンケイリビングサービスのホームページ(URL:http://www.dinos.co.jp/)

フジサンケイリビングサービスのホームページ(URL:http://www.dinos.co.jp/)

アウトバウンド部門は98年10月からスタート

 ディノスの「ハートコールセンター」は世界でも最先端のシステムであるルーセント・テクノロジー社のデフィニティとIBM社のAS400でCTI環境を実現。顧客からの注文や問い合わせ電話を受けると、カタログそのままの写真やスペック、在庫数、配達日程などあらゆるデータが一瞬でコンピュータ画面に表示される。またこのコンピュータは最新のEDIシステムによって取引先や配送センターともダイレクトにネットワークされているので、生産・納品予定も瞬時に回答することができる。注文を受けた商品を全国にスピーディかつフレシキブルに配達する物流体制を整え、顧客の要望や期待に応えているのだ。
 アウトバウンド部門は、98年10月から、6名のテレコミュニケータによるチーム制でスタート。それに先がけてスタートしたアップセールス「今月のお買得商品等のアドオンセール」を実施している。
 アウトバウンド業務開始のきっかけは、テレビ番組の“いいものセレクション”で「魚沼産コシヒカリ」を購入した顧客に、リピートオーダーの希望をうかがう御用聞き電話を実施したことにはじまる。この発信業務で18.1%のレスポンスを獲得し、6,000万円の売り上げを記録。想像以上の効果を上げた。その後、第二弾のジャンボ大根などを利用した植物発酵食品「万田酵素」の販売では、20.0%のレスポンスを獲得し、2,700万円の売り上げを、第三弾の「餅」や「白だし」など正月商品の販売では55.8%のレスポンスを獲得し、1,840万円の売り上げを達成した。
 この成果を受け、99年1月から対象商品を広げ、アウトバウンド・テレマーケティングの本格稼動を開始。テレコミュニケータを14名体制(メンバーは女性のみ)に増員し、食品や化粧品などリピート性の高い商品を中心に既存顧客への営業活動を展開している。
 発信の対象は、テレフォンショッピングなどで「魚沼産コシヒカリ」や「万田酵素」などの商品を購入した実績のある顧客。TV媒体の特性として購入顧客が次回も、その企画商品の放映を見る保障はない。この状態を解消するため、営業の援護支援策としてこの発信業務を開始した。たとえば「魚沼産コシヒカリ」の場合は、前回の購入記録を調べ、購入の3〜6カ月後には必ず電話をかけ、リピーターの獲得に努めているという。

フジサンケイリビングサービスのアウトバウンド部門

フジサンケイリビングサービスのアウトバウンド部門

顧客の声やクレームを商品開発に反映

 アウトバウンド部門のテレコミニュニケータには、営業能力だけではなく顧客とのコミュニケーションをこなせ、プラス志向で考えることのできる人材をピックアップ。ノルマを個人ごとには設定せず、あくまでアウトバウンドチーム全体の成果を評価の対象としている。同社のテレコミュニケータは1年間のアルバイト契約。入社後すぐにアウトバウンドチームに配属することはなく、まずはインバウンド業務で電話対応の基本を学ぶ。この中から営業向きの人材を選抜してアウトバウンドチームに配置しているという。
 アウトバウンド・コールは、購入実績のある顧客にのみ実施しているため、顧客との信頼関係が基盤となっている。リストの90%はテレビのテレフォンショッピングで商品を購入した既存顧客。フジサンケイコミュニケーションズグループというブランドもあり「あのフジテレビの番組で紹介した商品」と喜ばれる場合が多いという。
 同社のアウトバウンドは、既存顧客への“援護射撃”つまり、顧客が必要としている時期にタイミングよく電話をかけて、ショッピングの手助けをしようというスタンスだ。そのため、商品によってはテレコミュニケータ自身が使用した上で、購入を勧めているという。実際、ダイエット食品などの場合、「効果がでない」などの苦情電話もあるため、商品の良さばかりをアピールするのではなく、使用方法や商品の特性なども説明している。
 万が一、クレームが発生した場合には、誠心誠意対応するのはもちろん、たとえばメーカー保証のない商品でも同社が独自に保証するなど、顧客の安心と満足を守るための独自の基準を設定している。クレームについてはすべてデータ化し、分析・集計することで商品の企画・開発に反映している。同社はダイレクトマーケティングのパイオニアとして、業界の模範となることを目指しているという。
 その他のアウトバウンド業務としては、①ディノスに関するアンケート調査、②カタログの到着確認と商品の購入促進、③書店取扱へのアピール、④催事への招待、会場への誘導、⑤DMのフォローコールなどを実施している。
 アウトバウンド部門の営業時間は、月曜〜土曜日までの10:00〜17:00(日曜祭日は休み)。平均通話時間は3分で、テレコミュニケータ1人・1時間あたりの平均コール数は20件。

顧客の反応をデータ化し、業務改善に反映

 顧客のプライバシー保護については、電話をかけた折に「もう電話をかけないで欲しい」という要望があれば、すみやかに対象者リストからその顧客の情報を削除している。また、テレコミュニケータに対しては、売り上げだけを追求し、迷惑電話とならないよう注意を徹底。顧客が電話を嫌がっている場合には、失礼のないよう電話を終えるように指導している。この際の判断は、テレコミュニケータの感覚に一任されているが、相手の顔が見えず、声のみで判断するのはなかなか難しい。そのため、テレコミニュニケータには声から相手の気持ちを読む力と、常識的な感覚を求め、自分が逆の立場になったときのことを考えるよう教育している。
 顧客の反応はテレコミュニケータがシステム内のアプリケーションにデータとして記録、集計し、成功事例、失敗事例ともに日々の業務の参考にしている。
 同社ハートコール部部長の武田克巳氏は「アウトバウンド業務において、データマイニングの成果を顧客単位の情報に活かして、テレコミュニケータひとりひとりがOne to Oneの購買代理人に少しでも近づけるよう努力していく」とCRMの実現に向けてより一層、業務の改善を目指したい考えを示している。また、同社では今後の取り組みとして、顧客の声を反映したオリジナル商品を開発し、一般流通商品との差別化を図っていく意向だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2000年8月号の記事