データベース・マーケティング戦略を本格化

(株)ディーシーカード

マーケティング支援用システムを構築

 (株)ディーシーカードは、DCグループ全体で790万人の会員と130万店に上る加盟店をもつ国内大手のクレジットカード会社である。1994年から市場開発グループを設置し、データベース・マーケティングへの取り組みを開始。1996年からは本格的な展開を視野に入れ、「マーケティング支援システムの構築」「プロモーション開発」「顧客分析」に乗り出した。現在は、1997年に設置されたマーケティング室が中心となって、顧客維持重視のマーケティング戦略を推進中である。
 同社では1994年当初より、基幹システムは分析に不向きであるとの考えから、分析専用のデータウェアハウスを構築していたが、それだけではマーケティングにかかわる顧客の情報が不足していたため、1996年からはこのデータウェアハウス上に、新たにマーケティング専用のデータウェアハウスを構築しはじめた。これが1998年10月に完成したMCIF(マーケティング・カスタマー・インフォメーション・ファイル)である。
 MCIFは、「基本情報」「利用情報」「サービス情報」「プロモーション情報」「アンケート情報」「分析情報」の6つのテーブルから構成されている。「基本情報」は、会員の氏名、年齢、性別といった属性データ。「利用情報」は購買履歴。「サービス情報」はMCIF独自のもので、会員の付帯サービス利用状況に関するデータ。「プロモーション情報」はプロモーション履歴やレスポンス履歴。「アンケート情報」は顧客とのコンタクトの際に随時収集した趣味、関心、ライフスタイルに関するデータ。「分析情報」はすべての情報を加味して顧客を総合的に評価した、マーケティングに関する会員評価データである。
 これらは、全会員を網羅しているわけではなく、約40〜50%に当たる優良顧客のデータに絞られている。将来的な可能性を見込んで外部情報を取り込む仕組みも採り入れてあるが、現状では、独自に収集した情報のみを取り扱っている。
 そしてMCIFは、会員データの保持・更新、会員分析支援、アウトバウンド業務支援、プロモーション管理、インバウンド業務支援の5つの機能を備えている。
 このMCIFの完成を機にマーケティング室では、1998年11月、データマイニング・ツールを導入した。同社では、かねてより延滞管理部門の信用企画室で与信管理の分析にデータマイニングを用いて成果を上げてきた実績があるが、それとは別に、マーケティングの現場に直結したマーケティング室のスタッフ自らが、MICFのデータをもとに分析を開始したのである。ツールとしては、専門的な分析のプログラムを要さず、200万件の生データを扱えること、既存のデータウェアハウスにすでにSAS Systemを導入していたことから、SAS Enterprise Minerを採用した。
 現在、マーティング室のスタッフ10名のうち、約半数がデータマイニングに携わっている。ひとりが取り扱う案件は月に平均4件ほど。通常の場合、1案件に2カ月ほどかかるところを、同社のスタッフは1案件につき約1週間、最短では2日間でデータマイニングを完了する。これは、MCIFの精度の高さと、マイニング・ツールの機能によると同時に、スタッフが多くの事例を分析し、経験を積んできた成果だ。
 データマイニングでは、分析そのものよりも使用するデータのクリーニングや整備に時間を取られがちだが、同社の場合、MCIFのデータを活用するため、そうした手間がかからない。また、短期間でマーケティングと統計のスキルを得ることは困難だが、新たに導入したデータマイニング・ツールはアイコンのクリックひとつで操作ができるため、マーケティングの担当者でも扱うことが可能である。

【図表2】(株)ディーシーカードのデータベース・マーケティング・システム

データマイニングでレスポンス率を3倍に

 マーケティングにおいては、「クロスセル」「アップセル」「退会防止」など、さまざまな場面でデータマイニングを用いることができるが、同社では、現在特に、加盟店でのカード利用活性化を目的としたDMプロモーションの際に、これが活用されている。つまり、あらかじめデータマイニングを用いて、見込み客を絞り込むことによって、レスポンス率を上げ、少ないコストでより大きな効果を上げていこうというわけだ。会員にとっても、ほしい情報だけを手に入れることができるというメリットが生まれる。
 たとえば、あるしゃぶしゃぶ店で行った集客プロモーションでは、データマイニングを用いることによって、レスポンス率が3倍にアップした。このケースでは、まずここ2年半の売上データをもとに、データマイニングの「アソシエーション」の手法を用いて、会員の加盟店利用パターンを分析。加盟店A、あるいは加盟店Bを利用する顧客であれば、このしゃぶしゃぶ店を利用する可能性が高いというルールを導き出した。さらに加盟店Aの次に加盟店Bを利用した会員は、その次にこのしゃぶしゃぶ店を利用するという仮説を立て、プロモーションをかけるタイミングを割り出した。この段階で、このしゃぶしゃぶ店が競合と考える店について同様の分析を行えば、そことの客層のズレなどがわかり、店が抱える課題を発見することもできるという。
 次にこれを「決定木」の手法を用いて、会員の属性と掛け合わせ、しゃぶしゃぶ店の利用率が高い会員の属性の組み合わせを分析。この結果に基づき、会員をセグメントして、プロモーションを実施した。その結果、5,000件のDMを出し、約3%のレスポンスを得たのである。
 同社ではこのように、加盟店は低コストで効果の上がるプロモーションを実現でき、会員はほしい情報を手に入れ、同社はカード利用を活性化するという3者が得をする仕組み作りを目指しており、そのためにデータマイニングによる対象者の絞り込みが不可欠と考えている。しかし現状では、加盟店側に投資対効果よりもレスポンスの数にこだわる傾向が強いため、対象者を絞り込むことが可能であっても、結局は対象者の枠を広げて、大量のDMを送るというケースも多い。今後は、さらに詳しい会員データを収集し、データマイニングの精度を高めることで、徐々に加盟店と顧客双方の理解を得ていきたいとしている。
 ちなみに、同社が加盟店に対して提供しているプロモーション・サービスには郵便、およびFAXによるものがあるが、郵便は通販、催事、高額商品などの利用が多く、FAXは1,000通単位から出すことができることから、小規模の小売店の利用が多いとのこと。

リボルビング利用推進のプロモーションでは、絞り込んだ見込み客にDMを発送し、成果を上げた。

リボルビング利用推進のプロモーションでは、絞り込んだ見込み客にDMを発送し、成果を上げた。

繰り返すことで精度を高める

 このほか、同社では自社のプロモーションにもデータマイニングを活用。最近では、リボルビング利用推進のプロモーションを実施した。
 同社には約2,000人のFAXモニターがいるが、まずそのモニターに対して、“支払い回数を1回払いからリボ払いに変更できる”サービスに魅力を感じるかどうかをアンケート調査した。魅力を感じるとの回答が多かったことから、第1回目の、1回払いからリボ払いへの支払い変更サービスDMを実施。レスポンス率1.2%という結果を得た。次にこの結果に基づき、「決定木」の手法で、リボ払い利用者の属性を導き出した。これまでは年齢、性別の切り口でしか分析できなかったものが、データマイニングを用いることで、たとえばキャッシングとショッピングごとの利用金額の設定をどうすればいいかという関連性が明らかになってきたという。この分析によってセグメントした会員を対象に第2回目のDMを発送し、3.4%のレスポンスを獲得。さらにこの分析モデルに基づき、第3回目のDMを発送し、2回目とほぼ同様の3.5%のレスポンスを得ている。第1回目のプロモーションと比較して、2回目以降のレスポンス率は3倍に向上したわけである。
 同社のデータベース・マーケティングは現在、テスト期から本格実施への移行期にあり、これによって顧客との関係維持に向けた、顧客への“公平さ”の提供を目指している。この実現のためには、たとえば優良顧客か、そうでないかといった顧客の分類基準を作り上げ、日々データのメンテナンスを行いながら、分析の精度を上げていかなければならない。会員とのコミュニケーションのさまざまな場面でデータマイニングを駆使し、「退会防止」などにも役立てていく。
 データの活用は、たとえばDMのセグメントなど、具体的な目標を立てて取り組みを進めなければ成果につなげることが難しい。また、実際に活用してみなければ結果が見えてこないものである。マーケティングの場合には、テスト・マーケティングを繰り返すことで、精度を高めていくことが可能だ。同社ではデータマイニングによって最大限の効果を導き出すとともに、データマイニングの手法をさらに高めていく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年12月号の記事