グループのデータベースを統合してキャンペーン展開を支援

(株)サントリーショッピングクラブ

通信販売で培ったノウハウをベースに

 (株)サントリーショッピングクラブは、サントリー100%出資の子会社。1978年に設立された当初は、酒販店を対象としたノベルティなどの販売を業務としていたが、翌1979年には一般消費者向け通信販売に着手。その後、酒販店、料飲店の店舗改装やアメリカ製多層鍋の販売などに業務を拡充し、今日では総売上高150億円(1998年度)のうち50%を通信販売により売り上げている。
 同社では、通信販売により構築したノウハウを活かして、1996年に料飲店向けの「マイレージ倶楽部」の事務局業務に着手したのを皮切りに、親会社の販促支援業務を本格化。キャンペーンの告知から応募受付、景品発送に至る一連の事務局業務、および応募者データベースの管理・運用の代行に乗り出している。ちなみに、総売上高の30%に当たる46億円は、販促支援業務によるものとのこと。
 同社は設立当初から販促関係の業務に馴染みがあったとは言うものの、今では中堅の通信販売会社として知られる存在。「持ち前のシステム活用力を駆使することで、一般の広告代理店に比べて、よりスピーディで低コストな処理ができる」という。具体的には、キャンペーン応募状況に関わるデイリーなリポート出力、在庫切れにともなう遅延ハガキの任意のスパンでの自動出力、複数口応募の場合の景品の効率配送によるコスト削減などがそれだ。
 景品の効率配送については、たとえば「必ずもらえる型」のキャンペーンにおけるヘビー・ユーザーへの景品発送はまとめて行うことも可能。加えて、通信販売を通じて培われた、顧客の生涯価値(Life Time Value)を巡る視点が、それぞれの顧客の購買金額に応じた最適な投資金額の算出に大きく貢献してもいる。
 図表1は、現在、同社が受託している販促支援業務の概要である。図表1からもわかるように、キャンペーンの中核にはSGN(サントリー・グループ・ネットワークの略。顧客マスター、キャンペーンやモニターへの応募履歴を搭載)とHarmonics(SGN登録者との交信履歴を搭載)の2つのデータベースが据えられている。ちなみに、前者への登録顧客数は約580万件。このうち一般消費者が557万件と大半を占めており、その他の内訳は酒販店が12万件、料飲店が10万件といったところ。応募者データは月に1回、電話番号、氏名、生年月日で名寄せしている。登録項目は、前述の名寄せに使用する項目に住所、FAX番号、Eメール・アドレスを加えた基本情報、ファースト・コンタクト、キャンペーン応募履歴など。応募者データはウェブを通じてグループ間で共有されており、たとえば親会社のサントリーの社内では、同一事業部が主催したキャンペーン情報を閲覧できるなどの機能を整備。ただし、個人データの保守義務から、出力やダウンロードはできないので、これらのデータに基づきDMの宛名を出力するといった場合には、各事業部門からの書面による依頼に基づき、同社が必要な情報を取り揃えるなどのルールも確立している。
 また、実際のキャンペーン展開に当たっては、図表2に示したように、グループ企業を中心としたネットワークの中で、業務が推進されている。

【図表1】販促支援業務の概要 【図表2】キャンペーンのフロー

「我ら、角瓶党」は何をもたらしたのか

 次に、実際にこの体制のもとで展開された、キャンペーン事例を見てみよう。
 料飲店向けのキャンペーンに次いで、一般消費者向けキャンペーンの第1号として、この体制のもとで展開されたのは、1996年にスタートした「我ら、角瓶党」であった。これは、キャンペーン期間中、「角瓶」のボトルに貼付される専用シールを集めると、点数に応じた景品が進呈されるという「必ずもらえる型」のクローズド・キャンペーン。「角瓶」のボトル・ネックに下げられた応募ハガキに必要枚数のシールを貼付してアンケートに答えると、「角瓶」の発売60周年を記念して特別にブレンドされた「特角」をはじめとする魅力的な景品が、小冊子「我ら、角瓶党」とともに送付されるというもので、この小冊子にもアンケートを付ける、あるいは次回の「我ら、角瓶党」キャンペーン開催時に、過去の応募実績に基づき一定の点数を付与した応募台紙をDMとしてを送付するなど、データベースに基づく応募者との継続的なコミュニケーションを図った。
 「我ら、角瓶党」は、1996年から1998年にかけて都合4回開催され、TVコマーシャル、新聞など、マス媒体との連動により大きな反響を呼んだ。総応募数は予測をはるかに超えるもので、「必ずもらえる型」のキャンペーンが、ウイスキーというカテゴリーにおいて受け入れられるという確信が得られた。また、新規顧客獲得といった観点から検証してみると、はじめて「角瓶」を購入したお客様の中では、「必ずもらえる型」のキャンペーンが、購入理由において高い比率を占めることもデータとして掴めた。しかし、肝心の出荷数に目を向けると、キャンペーン期間中は急激に増加するものの、終了するとまったく動かなくなり、結果的に配荷のタイミングが掴めないという事態に陥った。
 そこでサントリーでは、配荷のタイミングと実売・応募のタイミングを計る意味合いを含め、新たなキャンペーンとして「『ウイスキーブック』プレゼント」を企画。ウイスキー減税にともない、全国の酒販店に一斉配荷を行う時期にこれをぶつけた。「『ウイスキーブック』プレゼント」は同社のほとんどのウイスキー購入者を対象に、アンケート回答者に「ウイスキーブック」を進呈するという「必ずもらえる型」のクローズド・キャンペーン。このアンケートで、「普段、飲んでいるお酒」に関わるデータを収集し、その結果を「我ら、角瓶党」のデータにぶつけたところ、普段は同社の他ブランドのウイスキーを飲んでいる層が、キャンペーン期間中に限り「角瓶」にブランド・スイッチしていたことがわかった。サントリーの場合、国産ウイスキーにおいて高いシェアを獲得していることから、ブランドを特化したキャンペーンを展開しても、所詮は他ブランドの顧客を奪うのみ。つまり、ライバルは自社ブランドだったのだ。

キャンペーン対象をすべてのウイスキーに拡大

 ウイスキーに関わるその後のキャンペーン展開としては、昨年の3〜6月に開催された「誰かが誰かとウイスキー」キャンペーン、今年の5〜7月にかけて開催された同キャンペーンの第二段、「空の下で飲もうグッズプレゼント」が挙げられる。応募者数は、後者が前者の約5倍。後者についてはすべてのデータを名寄せする前の数字との比較だが、同社では、名寄せ後の応募者数、総応募ポイント数ともに後者が前者を大きく上回るものと見込んでいる。
 これらの2つのキャンペーンの大きな相違は、前者が「必ずもらえる型」のクローズド・キャンペーンであるのに対し、後者が同じクローズド・キャンペーンでも「応募抽選型」である点。「必ずもらえる型」から「応募抽選型」に切り替えたのは、前者では、景品コストが嵩むことに加え、応募者数の予測が難しく、リスクがともなうのに対し、後者ではあらかじめ景品数が決められるので、リスクが少なく、より高額な景品が採用できるため。さらに、少しでも良い景品を提供しようと応募に必要な商品購入金額を高く設定しがちな前者と比べて、後者はより多くの応募者数が見込めることから、顧客データベースの拡大に寄与するところも大きい。このほか、これら2つのキャンペーンの結果から、「必ずもらえる型」では女性の応募者が多く、「応募抽選型」では男性応募者が多いなどの傾向がわかった。
 ちなみに、この7月に終了したばかりの「空の下で飲もうグッズプレゼント」では、応募ハガキによるアンケートに加えて、当選者10万人に景品と同封でアンケートハガキを送付した。調査対象が何百万人にもおよぶ応募ハガキでは、購入動機や、自宅用・業務用といった購入目的、購入店名などをアンケート項目に盛り込み、「どのエリアの顧客が、どのような小売店で、なぜ買ったのか」といったエリアごとの販売の指針になるデータを収集。これに対して、10万人の当選者を対象としたアンケートハガキでは、「普段は何を飲んでおり、今回は何を買ったのか」、また、「過去の同社キャンペーンへの応募実績」などをアンケート項目に盛り込み、これを前者のアンケート結果と紐付けすることで、次回のキャンペーンの指針とした。こちらは対象が10万人に限られていることから、商品動向を把握するまでには至らないという。
 ところで、10万人の当選者を対象としたアンケートの回答率は70%にも達した。「必ずもらえる型」である「我ら、角瓶党」の景品に同封したアンケートの回答率30〜35%と比較しても、「応募抽選型」で当選した応募者の回答率が際だって高いのが目を引く。

「空の下で飲もうグッズプレゼント」の応募ハガキ(左)と景品に同封されるアンケート(右) 「空の下で飲もうグッズプレゼント」の応募ハガキ(左)と景品に同封されるアンケート(右)

「空の下で飲もうグッズプレゼント」の応募ハガキ(左)と景品に同封されるアンケート(右)

特定のデータを抽出するプログラムの開発

 ウイスキーではクローズド・キャンペーンを主体としているのに対し、大手4社の競合が激しく、新製品が次々に登場するビールや発泡酒では、ブランドの認知度を高めると同時に新規顧客を獲得するべく、オープン・キャンペーンを展開することも少なくない。
 現在は、毎週2万人、5週連続10万人を対象に「スーパーホップス・マグナムドライ」24缶を進呈するモニター募集方式のオープン・キャンペーン「スーパーチャレンジ」を展開中。同社では、同様のキャンペーンを想定して、主飲ブランドや飲用量、ハガキ、FAX、インターネットといった応募メディアにより、モニター比率を設定できるプログラムも用意している。ある意味、これはモニターと銘打っているからこそできる技でもあるが、「厳選なる抽選による当選」とはかけ離れた姿勢であるため、これまでのところ、利用は見送られている。
 今後、法の改定や規制の緩和が進めば、主飲ブランド別、応募方法別などで、以下のようなマーケティングが展開できる。まず、主飲ブランド別では、たとえば「スーパーホップス・マグナムドライ」のキャンペーンであれば、味においてはアサヒビールの「スーパードライ」、また価格ではキリンビールの「淡麗」やサッポロビールの「ブロイ」が競合であることから、これらのブランドの愛飲者については当選確率を高め、ブランドのスイッチを図る。また、応募方法別では、迅速なコミュニケーションを図ると同時に、コストを削減する意味合いから、インターネットでの当選確率を高める。
 インターネットの場合、モニター登録を顧客自らが行ってくれることに加え、他のメディアと比べてモニター登録後のコミュニケーション・コストが安い。ちなみにオンライン(インターネット)とオフライン(ハガキ、FAX)を比較すると、オンラインはトータルでのコミュニケーション・コストが50分の1で済むという。
 このほか、若年層のアルコール離れが進む中で、若年層の当選確率を高めることも検討している。
 いずれも、法の改定後のプログラム・リソースになるが、同社では、このような一歩先を見据えてのデータ抽出プログラムの開発を、あらゆる方向から推進している。

顧客の生涯価値を見据えて

 同社では、必ずしもすべてのキャンペーン応募者をデータベース化しているわけではない。ウイスキーなど高価格帯の商品のキャンペーン応募者は全件入力、ビールの場合は当選者と24本以上の購入者のみ入力、ソフト・ドリンクの場合には当選者のみ入力といった具合だ。もちろん、応募者データが他の製品のリサーチに活用できるなど、なんらかの戦略性のある場合はこの限りではない。
 先に、同社の販促支援事業の優位性のひとつとして、「通信販売を通じて培われた顧客の生涯価値に向けての視点」を挙げたが、それは「データベースに登録するか否か」という、いわばコミュニケーションの導入口の部分にも活かされているわけだ。ちなみに、同一顧客にどこまで販促コストを費やすかの指標となるのは、商品の価格帯やブランド・スイッチのされやすさ。後者を仮に「浮気率」と呼べば、たとえば缶コーヒーのように低単価で、なおかつ「浮気率」の高い商品分野では、顧客は自分の好みのブランドの販売店が半径50メートル以内にないと、他のブランドに「浮気」をしてしまう。しかし、これがビールになると、200メートル歩いてでも好みのブランドを購入する。ウイスキーに至っては、さらに余計に歩くというわけである。つまり、ウイスキーとビールと缶コーヒーのような一般的なソフト・ドリンクを比べると、同一顧客にかけるべき販促コストは、ウイスキー>ビール>缶コーヒーということになる。 
 また同社では、今を去る3年前からメール・プリファレンス・サービスを実施している。これは満足度を高めようとの意識に基づき開始したもの。現在ではソフト・ドリンクのキャンペーンについてはすべて、ウイスキーに関しても一部のキャンペーンで、応募ハガキにDM等の受け取りを希望しない場合のチェック欄を設けている。
 この辺りの細かい対応も、通信販売で培ったノウハウをベースにしていると言えるだろう。

応募者とのコミュニケーションの継続

 データベースに基づくコミュニケーションとしては、新製品案内、キャンペーン案内のDMが主体。ウイスキーやブランデーでは、ミニチュア・ボトルやベビー・ボトルを送付するケースもあるという。 
 最近では、増税続きの焼酎の愛飲者に、減税にともない安くなったウィスキーやブランデーに戻ってきてもらおうと、DMによるキャンペーンを展開した。ちなみにこのキャンペーンには、酒税改正以外にもうひとつの要素が関連していた。それは名古屋以東ではブランデーよりもウイスキーが一般的なのに対し、大阪以西ではウイスキーよりもブランデーが愛飲されるという事実。そこで同社では、過去のアンケート結果から、関西地区の焼酎主飲、あるいは焼酎並飲の応募者に対して、ブランデーのベビー・ボトルを送付。次いで、関東地区の焼酎主飲、あるいは焼酎並飲の応募者に対して、ウイスキーのベビー・ボトルを送付した。もちろん、ベビー・ボトルにはアンケートを同封。試飲後の感想や購入意向を尋ねるのはもちろん、試飲の3カ月後には後追いDMを発信し、その後の主飲ブランドの変化などを聞いている。
 ちなみにこのキャンペーンでは、それまでのアンケートへの回答結果から、応募者を「お酒に強いこだわりを持っている」タイプと、「お酒にさほどこだわりを持たない」タイプに分類し、前者には高級なブランデー、あるいはウイスキーを、後者にはより低価格のブランデー、あるいはウイスキーを勧めるといった、顧客のタイプ別のセグメンテーションも行ったという。
 これらのDMは、郵便はもちろん、Eメールによるものもあり、同社の主力商品であるウイスキーのキャンペーン応募者に限って言えば、最低でも半年に1回は何らかのDMを受け取っている格好になるという。

問題点と今後の展望

 通信販売事業により培ったデータベース・マーケティングのノウハウを武器に、親会社の販促支援事業を本格化して3年。同社ではすでに580万人という膨大な顧客データベースを構築すると同時に、その収集・活用を通じてさまざまな「事実」を発見。またデータベースを活用したキャンペーンの運用ノウハウを築いてきた。
 今後は、3年間の実績をベースに、データベース・マーケティングをさらに推進していく意向で、そこでの重要な要素である「スピード」「クォリティ」「コスト」を満たすメディアとして、インターネットに注目している。ただし現状では、ネット上でのコミュニケーションで購買証明を確保するのは容易ではない。商品にユニーク・ナンバーをつけるにしても、コストが嵩むことに加え、不正応募が避けられないというのがその理由だ。
 したがって同社では、インターネットを活用したキャンペーンは、当面、特定ブランドに纏わるコミュニティに参加すると何らかの報償が得られるといった、モニター形式のものにシフトしていくことを想定。一方で、「必ずもらえる型」「応募抽選型」のクローズド・キャンペーンについては、従来同様にハガキ応募を主体とする。そして、応募ハガキを通じてメール・アドレスが獲得できた応募者と、Eメールによるコミュニケーションを継続し、彼らをそれぞれのブランドのコミュニティとしてのウェブ上に導いていくというわけだ。
 同社が親会社のキャンペーン応募者データベースを管理することになったのは、ブランドや製品のカテゴリーを超えた管理が必要との判断から。今後は、グループ企業が主宰するキャンペーンの応募者の一元管理を目指す親会社の意向を反映して、グループのデータベース管理会社として、さらに戦略的な位置づけを担うことになる。これにともない、前述のような親会社のブランドや製品カテゴリー間でのデータ共用のみならず、グループ間、さらにはグループ外をも対象としたデータベース・サービス業へと歩みを進めていくとのこと。ちなみに、同社通信販売部門とのデータのスワッピングにはすでに着手している。
 また今後は、現在、別々に管理されている一般応募者と料飲店のデータベースの一元化を図る一方で、Eメールによるコミュニケーションの本格化に向けて、オンラインの顧客とオフラインの顧客を別個に管理していく意向。
 ご存じの通り、お酒の販売には酒販免許が必要であり、その多くは通信販売では取り扱えないのが現状。いくらインターネットが普及しようとも、この規制がある限りはネット上でのクロージングはできない。しかし、現状のマーケティング・コミュニケーションを一歩進め、酒販免許を持つ小売業との提携によるオンライン・ショッピングが実現する日も、そう遠い将来のことではないのかも知れない。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年10月号の記事