商品イメージを訴求する独自景品の開発に注力

キリンビバレッジ(株)

景品で商品イメージを強化

 キリンビバレッジ(株)は1963年の創業。「午後の紅茶」「きりり」「キリンレモン」などおなじみのブランドをはじめとする150品目もの飲料を扱う、総合飲料メーカーである。
 同社では、1995年から毎年、2カ月の応募期間を設けて、「午後の紅茶」愛飲者を対象とした、応募抽選型のクローズド・キャンペーンを実施している。
 「午後の紅茶」は、1998年に4,000万ケースを売り上げた実績をもつ、同社のトップブランド。現在、「ストレート」「ミルク」「レモン」「ノンシュガーストレート」「クリアストレート」「ロイヤルミルクティー」の6種類が販売されている。
 サイクルの早い飲料製品にありながら根強い人気を得て、1995年には発売10周年を迎えた。その感謝の気持ちを込めて、記念のキャンペーンを実施したことが、いまや定番となった「午後の紅茶」キャンペーン開始のきっかけ。
 初回から景品の決定には念には念を入れた。“きちんと入れた”紅茶のイメージをストレートに伝えるために、半年以上を費やして、当選者の期待を裏切らない、本格感のあるものを探した。さらに、CMで起用しているタレントの小泉今日子が日常で使っていそうな、気の利いたおしゃれなものをという観点をつけ加え、旅行先や休日にちょっと遠出して、リラックスして紅茶を楽しむ場面を想定して、本革を使用したトランクが採用される運びとなったのである。
 当時は、普段はあまり買うこともないトランクのような高価な景品が当たること自体が新鮮だった。反響は大きく、応募総数は予想を大幅に上回る225万口を記録した。当選者の景品への評価も上々であった。
 以来、景品は毎回トランクでキマリ。「小泉トランク・プレゼント・キャンペーン」人気は若者の間で定着した。1996年の「とってもいいトランク」には185万口、1997年の「そこがいいトランク」には122万口、1998年の「すわりのいいトランク」には110万口の応募があった。応募総数は減少傾向にあるとは言え、当選の確率は100分の1〜80分の1。毎年応募してくる愛飲者も少なくない。
 健康志向やダイエットブームの高まりもあり、消費者の味覚嗜好は日々変化している。1999年には、さらに甘みをスッキリ押さえる方向で製品を全面的にリニューアルし、新しく無糖の「クリアストレート」を販売した。これに合わせて4月1日から開始した今年のキャンペーンの景品は、トランクではなく「ティー・ワゴン」。景品そのものの値も張ることから、これまで5点一口だったものを6点で一口に変更。1999年の応募総数は80万口となった。
 同キャンペーンの特徴は、何と言っても商品の本格感をイメージさせる、独自景品にある。今年のキャンペーンの場合、1998年10月から景品の選定を開始。景品は海外生産のため、クオリティ・チェックにも時間をかけ、今年1月には景品のダミー作りに入り、2月中旬に最終的に景品のかたちを決定するといったように時間をかけ、力を注いだ。
 またこれまでの景品にはすべて、発送に際して使用説明書を同封。末永く愛用してもらいたいという思いから、万が一不都合があった場合や、破損した際の修理依頼の連絡先を明記するなどの配慮も怠りない。
 景品の企画立案からキャンペーン全般は、同社の商品企画部が担当している。

当選者からブランド力を高めるための情報を収集

 キャンペーンの対象商品は、JRをはじめとする交通機関の自販機で販売されている250ml缶を除く、350ml缶、紙パック、500ml、1.5リットルのペットボトルなど「午後の紅茶」全製品。缶と紙パックの場合には商品に貼られている応募専用のシールを、ペットボトルの場合にはバーコードを切り取って、応募ハガキ、もしくは官製ハガキに貼り付けて応募。1.5リットルペットボトルのバーコードが1枚3点、そのほかは1枚1点となっている。
 キャンペーン期間中は、CM、店頭POP、駅のポスターをはじめとする交通広告や、雑誌広告、ポスター、自販機のステッカーなどを使って実施を告知。同時に顧客の目につくよう、1カ月ほど前にはシールを貼った商品の出荷を開始する。

CMには1994年から小泉今日子を起用。1999年のキャンペーン景品は「ティー・ワゴン」 CMには1994年から小泉今日子を起用。1999年のキャンペーン景品は「ティー・ワゴン」

CMには1994年から小泉今日子を起用。1999年のキャンペーン景品は「ティー・ワゴン」

「午後の紅茶」は6種類。さまざまな形態の容器で市場に出ている

「午後の紅茶」は6種類。さまざまな形態の容器で市場に出ている

 最近、コンビニなどでは、各社の応募ハガキを1カ所にまとめて設置する傾向にあり、商品のすぐ側に応募ハガキが置かれないことが多い。このため、応募ハガキが目に付くように、1998年から地下鉄の駅貼りポスターにポケットを付け、応募ハガキを設置するなどの試みを開始。このハガキの利用が意外と多かったことから、今年は駅に配置するハガキの枚数を増やした。
 キャンペーンに関する基本的な問い合わせへの対応には、応募ハガキやシール、雑誌広告、ポスターなどに電話番号を掲載し、テープによるメッセージを流している。東京と大阪の2つの電話番号の一般加入回線を使用。詳細な問い合わせについては、商品に記載されているお客様相談室で受け付け、対応している。
 同社ではこのキャンペーンによって、応募者の氏名、年齢、職業、住所、電話番号などの情報を収集。これをデータベース化している。1998年からは、1枚のハガキで5口以上の応募者に対して、キャンペーン開始を事前にダイレクトメールで告知するといった活用を推進している。
 応募者の内訳は、トランクの場合は10代後半〜20代の女性の応募者が中心だった。ワゴンの場合、20〜30代が中心と年齢がややアップ。これは、「クリアストレート」を発売したことで顧客層が拡がると見ていた同社の予想通りだった。一方で、家庭で使うワゴンが景品であるから、やはり女性が多いと踏んでいたが、意外にも男性の応募者が多いという誤算もあった。
 さらに同社では当選者にアンケートを行い、景品の印象のほかに、「午後の紅茶」商品に関する意見、どういった時にどのぐらい飲んでいるか、また紅茶葉で紅茶をいれる頻度や紅茶のイメージなど、紅茶そのものに対する認識などを調査している。この情報は飲料における紅茶の位置付けを把握し、ブランド力を向上させる資料として活用。アンケートの返信率は実に9割を超えているという。
 ブランドは企業の一方的な思い入れで作られるのではなく、常に生活者の意見を採り入れ、生かしていくことで価値を持つというのが同社の考えだ。そのため、新製品の開発時にはこうしたキャンペーンの当選者以外にも、数多くの生活者の中からサンプルを無作為抽出して、さまざまな調査を行っている。
 「午後の紅茶」に「クリアストレート」が加わったことで、リラックスしたい時だけでなく、食事時など、紅茶を飲むシーンは大きく広がった。「午後の紅茶」はまだまだブランドとして伸びる余地がある。同社は今後も、そうした飲み方の提案を含めて、生活者からの情報を得ながら、トップブランドである「午後の紅茶」を育てていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年10月号の記事