ホテル業界最大の顧客プログラム

マリオット インターナショナル インコーポレーテッド

ブランドの豊富さで顧客ニーズに対応

 マリオット インターナショナル インコーポレーテッドは、米国ワシントンに本部を置き、世界50カ国以上で宿泊・各種受託サービスを行っている世界有数の大企業である。従業員数は約13万3,000人、1998年の年間売上高は約80億ドル。経営する施設は1,800軒以上を数え、2000年には2,000軒を目指している。
 同社の前身、マリオットは1927年にルートビア・スタンド(ハイウェイ沿いにあるソフトドリンク・スタンド)から出発し、レストラン業、機内食事業などに業容を拡大した後、1957年にホテル業に参入。1993年にホスト・マリオットと同社に分社され、同社が運営サービス会社としてホテル経営のほか、シニアが独立した生活を営むために必要な介護、医療やリハビリ等のケアを提供する介護施設や、生活支援コミュニティーのユニットの運営、配送サービス事業を行っている。
 ホテルは、現在、世界に約1,700軒があり、直接、またはフランチャイズ契約によって運営されている。高級フルサービス・ホテルである「マリオット・ホテル・リゾート&スイート」、「ルネッサンス・ホテル&リゾート」をはじめ、フルサービス・タイプの「ニューワールド・ホテル・インターナショナル」、ラグジュアリー・タイプの「リッツ・カールトン」、中間価格帯の「コートヤード・バイ・マリオット」、エコノミー・クラスの「フェアフィールド・イン・バイ・マリオット」、「スプリングヒル・スイート・バイ・マリオット」、長期滞在型ホテル「レジデンス・イン・バイ・マリオット」など、どのような顧客のニーズにも合うように、13タイプのブランドが揃っている。
 中でも、「コートヤード・バイ・マリオット」は、急速に拡大しつつある、顧客ニーズの非常に高いホテルとなっている。
 ホテルのある国に本部を置き、その国の各ホテルをトータルに経営するのが同社の方針。日本には1973年にオフィスを設立した。現在、サッポロ・ルネッサンス・ホテル、東京マリオットホテル錦糸町東武、銀座東武東京ルネッサンス・ホテルなど、ルネッサンス・ホテル5軒、リッツ・カールトン1軒、マリオット・ホテル1軒を運営し、3軒のホテル・ニューオータニと業務提携を結んでいる。

顧客が望む要素を盛り込んだ会員制度の実施

 「マリオット・リワード」は、1997年5月に発足した同社のフリークエント・ゲスト・プログラム。Simplicity(簡便性:わかりやすさ)、Relevancy(関連性:顧客の求めるメリットの提供)、Attainability(実現性:価値ある特典をすばやく獲得できる内容)、Recognition(敬意:大事な顧客として利用客に接すること)の4つの要素が盛り込まれている。
 1983年から同社が実施していたポイント獲得プログラム「オーナード・ゲスト・アワード」を大幅に改善・拡大したものであり、タイプの異なる複数のブランドのホテルで無料宿泊やサービス特典が受けられ、さらにポイントが獲得できる顧客サービス・プログラムとなっている。
 導入に当たって、同社では「究極のホテル・フリークエント・プログラムにとって最重要の要素は何か」を顧客から直に聞いて、プログラムに反映させた。
 特に大きな特徴はポイントに期限がないことだ。これにより、一度入会すれば、会員が永続的にポイントを有効活用できるようにしている。
 会員数は、現在、世界で約1,200万人。全世界のホテル業界において最大規模の顧客プログラムである。
 その仕組みは次の通り。「マリオット・リワード」に参加している世界45カ国、約1,500のホテル、および宿泊施設を利用した場合に、料金1ドルにつき5?10ポイントが会員に提供される。同社以外の提携ホテルやハーツレンタカーの利用時にもポイントがつく。獲得ポイントは、ホテル宿泊、航空券、特定航空会社のマイレージ、レンタカー、クルーズ、テーマパークの入場・利用チケットなど、175種類もの特典の中から希望のものと交換できる。
 また「マリオット・ホテル・リゾート&スイート」、「ルネッサンス・ホテル&リゾート」を主に利用する会員に対しては、過去1年間の滞在日数を基に、新聞の無料提供など各種のサービスが受けられる「クラブマーキース・プログラム」を用意。15泊以上49泊以下の場合は“ゴールド”、50泊以上74泊以下の場合は“ブラック”、75泊以上の場合は“プラチナ”と、3段階のステータスを自動的に付与し、ステータスに応じた特典を提供している。
 会員には年4回、新しくポイントの対象となったホテルや新たな特典などを記したニュースレターを郵送している。
 申し込みは、各ホテルのフロントと、電話、インターネットで受け付けており、フロントでの申し込みの場合には、その場で仮カードを発行する。申込書に記入された顧客情報は、そのホテルのある国の本部で入力処理され、最終的には米国にある同社の情報センターのデータベースに蓄積される。申し込み後約1カ月ほどで、米国本部より本カードと、利用の手引きが会員の手元に届けられるようになっている。入会は無料、会費もかからない。

ホテルのカウンターに置かれている「マリオット・リワード」の申込書。各国の言葉で書かれている。申し込み時に、申込書下についているカードが、仮カードして即時発行される ホテルのカウンターに置かれてる「マリオット・リワード」の申込書。各国の言葉で書かれている。申し込み時に、申込書下についているカードが、仮カードして即時発行される

ホテルのカウンターに置かれている「マリオット・リワード」の申込書。各国の言葉で書かれている。申し込み時に、申込書下についているカードが、仮カードして即時発行される

 同社では、「コートヤード・バイ・マリオット」ブランドへのニーズの高まりに合わせて、現在、ビジネス・トラベラーを対象に「マリオット・リワード」の会員拡大を推進中。はじめての宿泊顧客こそ最大の見込客との観点から、各ホテルのカウンターで、会員を勧誘する「スカウティング・プログラム」を実施している。
 日本人会員の動向を見ると、「マリオット・リワード」に占める会員数の割合は、前年比24%増の伸び率を見せている。年間のホテル宿泊日数は前年の実績を39%上回り、ホテル売上高では前年の実績を22%上回った。この結果、1998年の特典利用件数は前年を48%上回っている。平均年齢は45歳。81%が男性である。年間旅行回数は出張旅行が16.5回、観光旅行が5.1回で、海外出張での利用が主流だ。海外にあるホテルで入会を申し込む場合が多い。ポイントの引き換えが多い特典はホテル宿泊で、中でも3泊、あるいは1泊の利用が多い。次にマイレージ換算、グレードの高い客室への変更がこれに続く。国別で見た場合、日本人会員のマイレージへの換算割合は、最も高い数値を示している。
 日本の本部には、一般の会員向けのカスタマーデスクと、国内のホテルのフロント、経理、宴会担当者などの問い合わせを受け付けるヘルプデスクを設置。カスタマーデスクのスタッフ2名、ヘルプデスクのスタッフ1名、予約センターのスタッフ9名が対応に当たっている。日本でも「スカウティング・プログラム」への取り組みが開始されているほか、日本語版のホームぺージ開設準備なども進められている。

申し込み後会員に届けられる利用の手引き 申し込み後会員に届けられる利用の手引き

申し込み後会員に届けられる利用の手引き

顧客獲得の鍵を握るのは従業員

 幅広いポイント獲得と特典の豊富さを誇る「マリオット・リワード」だが、同社にとっては戦略のほんの一部にすぎない。  同社では最も重要なのは、「ホテルを訪れた時に、どれだけいいサービスを提供できるか」だと考えている。“いいサービス”がなければ、ロイヤルな顧客を育てることはできない。そして、顧客の心をつかむことのできる“いいサービス”を提供するためには、従業員の満足度を向上させる必要があるというのが同社の理念なのだ。
 これは、「従業員を大事にすることで顧客を大事にする」という創業者J.W.マリオット・シニア氏の哲学を引き継いだものであり、同社の会長兼最高経営責任者J.W.マリオット・ジュニア氏は「従業員を大事にし、前向きに指導することで、従業員の顧客に対する態度は、自然にマリオットのトレードマークである暖かく、感じがよく、きびきびしたものになる」と話している。経営者自らホテルの視察を行い、従業員から寄せられた質問状に返事を書く。また社員に能力改善の機会を与えるために、業務の詳細なマニュアル化と従業員教育を実施。仕事以外の問題にも対処できる専門のカウンセラーも設置した。利益追求のみにとらわれ、現場を把握できず、従業員の志気をそぐ管理者には厳しい措置をとるなど、同社では徹底した従業員第一主義を実践している。
 その一方で、顧客の満足度を調べるために、数1,000回にも及ぶ調査を毎年実施し、顧客の望むサービスや商品の提供に向けて常に情報収集を怠らない。
 従業員の満足度を向上させることにより、顧客に最高のサービスや情報を提供し、その心にしっかりとマリオットというブランドを刻み込む。そしてさらに、魅力ある「マリオット・リワード」プログラムを導入することで、同社は着実に顧客の囲い込みを図っているのである。
 同社では、今後、新たなパートナーと組んで特典を追加していく一方で、各国の言語に対応したパンフレット類の充実など、会員への情報提供方法を改善していくことで、「マリオット・リワード」を会員にとってさらに充実したプログラムにしていく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年8月号の記事