SFAからナレッジ・マネジメントへ 最新の情報技術で組織を強化

日本電気(株) 

情報技術活用のワン・ステップ

 日本電気(株)では、経営環境や情報技術の役割の変化にともない、情報・通信の融合「C&C」(Computers & Communications からCompute & Communicateへ)をコンセプトに事業に取り組んできた。もちろん同社自身も情報技術のユーザーであるわけだが、中でも、情報化やネットワーク化の技術を取引先に商品として提案する同社の第四C&Cシステム本部では、自らを技術導入の効果を実証する場ととらえて、常に最新のシステムを導入・活用してきた。
 第四C&Cシステム事業本部はシステム事業グループに属し、製造業SI事業部、プロセス業SI事業部、医療システム事業部などから構成されている。事業部全体の年間売上は2,500億円。スタッフ数は約1,500名、そのうちの600名ほどが営業スタッフである。規模的にもひとつの企業をイメージでき、情報技術の実践の場として適しているという。
 同社にとってSFAは、こうした情報技術活用のワン・ステップなのである。
 同社ではもともと、組織構造の階層化が重要な情報の伝達の遅れを招き、意志決定に時間がかかってしまうという大企業特有の課題を抱えていた。また急激に市場ニーズが多様化、取扱製品・技術の種類とそれにともなう情報量が肥大化し、従来のシステムでは必要な情報をすぐに探し出せない状況にあった。さらに商談の小口化と人員削減にともない、ひとりひとりがこなす仕事量が増加したため、従来は徒弟制度的な方法で業務のノウハウを伝え、新人を育成してきた営業部門でも、ノウハウの伝承や知識取得に時間を費やせなくなり、質の低下が問題になっていた。
 そこで同社では、今から5年前に事業推進上の課題を解決すべく、市場中心主義の追求、マネジメントの革新、営業・SEの業務スタイルの革新、教育改革、情報技術による改革の推進といった新たな経営革新の基本方針を打ち立てた。これに基づいて、インフラ環境を徐々に整備しつつ、業務改善、情報を使いこなす能力の向上、そして新事業の創造を推し進め、電子メディア事業体を目指すという取り組みが開始された。
 まず第1段階として1994年にパソコンとEメールを日常業務に最大限に採り入れる試みを開始した。それまではEメールの機能を持ったパソコンは4台に1台程度だったという。次に95年6月からグループウェアLotus Notesを活用した情報の共有化を開始。そこで事業本部内の約240のデータベースに蓄積された情報を営業、SEなどのスタッフが共有できる環境を構築した。情報システム整備に当たっては、自社製品に限らず、環境に応じた最新の機器類であれば積極的に他社の製品も採り入れた。データベースで成果を上げた情報を共有できるので、それを参考に提案活動がスピーディーになったほか、開発、営業部門の連携が強まり、先進技術に対する社員の知識欲が高まってきた。さらに同年10月には同社製のコーポレートウェア「Star Office」を活用して全社の事務的な情報と接続し、社内の日常業務に必要な申請書や出勤報告書等の電子化など、業務フローの効率化を図っている。
 一方でWebの技術が登場し、瞬く間に進展。各部門がそれぞれにWebを立ち上げ、活用しはじめたことから、新たに情報が分散。その中で情報共有や情報収集の対象がますます拡大してきた。そこでイントラネットを使って情報のネットワーク化を図るとともに、ノウハウの伝承や知識取得のツールとしてもWebを活用。Web上で講義やテストを行うなどして、社員のスキルアップにもつなげている。そして情報活用の第5段階として、1997年5月にSFAを導入した。

【図表2】NECの情報技術活用のステップ

効果を計測して経営革新を推進

 一般にSFAと呼ばれている概念を、同社ではSFE(Sales Force Empowerment)、すなわち営業活動の強化と称する。その目的は、営業スタッフひとりひとりの創造性と営業力を高めていくことと、営業全体のプロセスを最適化していくことにある。
 同社が、目的達成に向けて導入したのは、取引先管理・商談管理・キャンペーン管理と、営業プロセス分析、売上予想や営業戦略立案支援といった機能を備えた統合型SFEパッケージ、Siebel Sales Enterpriseである。
 システム導入後は、営業活動の様子がデータ化され、共有化されているため、事業部のトップがすべての商談のプロセスを定量的にとらえられるようになった。データですぐに結果がわかるので、施策の検証のサイクルが短縮されたと同時に、決済書類の滞りがなくなり、ビジネス・チャンスの損失が減った。マネージャーは、手元に集まる情報を基に製品の売り方やターゲットの研究に専念できるので、先を読みつつ担当者へ的確な助言ができるようになった。営業スタッフは、成功事例のプロセスをたどって成約率を上げたり、優秀なスタッフの対応を参考にして提案資料を作成できる。その結果、資料の質の向上と提出のスピードアップが実現した。また分業体制でもスムースに商談に臨めるので、各々が担当業務のプロセスに集中できるようになった。
 一方、マーケティング部門や営業支援部門では、SFEを活用している社員からニーズを吸い上げ、取引先に提供するパッケージ・ソフトの開発、改善に活かしている。また、蓄積されたデータの分析結果から、どの案件にどれだけのエンジニアを配置するかといった事前の人員調整も的確に行えるようになった。効果が実証されたツールの利用を徹底することで、資料の配布や伝達、調整の省力化が図られている。
 SFEと同時に各事業部の営業部門でのWebの活用を推進し、取引先や見込客に情報発信。1998年12月からは取引先や見込客からの情報を収集してリード・ジェネレーションを行い、ここで得た情報を日頃の営業活動に反映させている。
 まず使ってみないことには、情報技術の価値は理解しにくい。全員で情報とその活用成果を共有し、なおかつそれぞれに意志決定力を持たせることで自律化と自主化をうながす環境を作り上げていくことが、技術導入の効果を上げる鍵だと同社では考えている。そのためには経営陣、管理職が率先して、スピーディーに導入を推進し、事業化・改善につなげる創意工夫を生み出す道具として使いこなしながら、情報化の効果を捉えていく必要がある。
 そこで同社では年1回、定期的に顧客満足度(CS)調査、従業員満足度(ES)調査を実施。ES調査の体質診断ではコミュニケーションと、コストセービング、情報リテラシー、タイムセービング、CS度、ES度、組織変革度、付加価値創造性の8指標から効果を計測している。この結果、CS度、組織変革度、付加価値創造性が顕著な伸びを見せているという。情報活用特性では、コミュニケーション型、情報共有型、グループ・ディスカッション型、ワークフロー型の4タイプで計測。グループ・ディスカッション型を除く3タイプで10%以上の伸びが見られた。同社はこの結果を踏まえて、情報技術のステップ・アップを図っていく意向。
 一方、企業活動全体を顧客の視点から運営し、かつ新しい価値を生み出すことのできる経営の仕組みをもつ企業を表彰する日本経営品質賞の基準を尊重。常に多角的な観点から自社の経営品質レベルの評価を行っている。
 同社では1998年12月からSFEをさらに進めた、ナレッジ・マネジメントへの取り組みを開始。これまで、販売部門、事業部門、製品部門など各部門で管理していたデータベースを、ナレッジ・マネジメント・エンジンでつなぐことによって、すべての取引先情報、営業ツール、製品情報を一元管理する仮想データベースを構築していく。まずは最も効果の見込まれる、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の領域から適用をはじめ、取引先に関するすべての知識を共有することで、総体としての同社と取引先の1対1の関係づくりに取り組んでいる。と同時に、同社と取引先とのネットワークづくりを行い、将来的には取引先を軸としたグローバルなCRMを実現させたい考えだ。そして情報技術の活用から価値のある情報、つまり“知識”の共有と組織・文化のプロセスを確立し、最終的には組織対応力の強化を図っていきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年5月号の記事