独自のカスタマイズで営業力を強化

日本ゼオン(株)

営業戦略における問題解決のツールとして採用

 日本ゼオン(株)は、合成ゴム、合成ラテックス、合成樹脂、化成品などの素材を生産する大手石油化学メーカー。特に合成ゴムの分野では世界屈指のシェアを誇っている。また早くから国際化に取り組み、アメリカ、ドイツ、イギリス、タイなどに現地法人を開設。同社では高い業績を維持するためにも営業改革が緊急の課題とされており、その中で独自の営業スタイルを強化する手段としてSFAを導入した。
 同社は石油樹脂等の素材を開発、販売しているが、こうした素材の営業は、たとえば購買部門と研究開発部門、そして製造部門と、取引先の対象者が何人にも及ぶことが特徴だ。商社などの代理店が営業先となる場合も多く、営業スタッフはそれぞれ立場も観点も異なる相手に、最適な働きかけをしていかなければならない。また営業スタッフには、自社製品の情報はもちろん、最新の技術情報、他社動向など、専門的で、なおかつ膨大な情報が求められる。一方で、取引先側の素材調達の基準は安定した供給力と品質、および技術力にある。これらの条件を満たして取引先の信頼を勝ち得、長期的な関係を作り上げていくためには、技術スタッフとの緊密な連携が不可欠だ。だがSFA導入以前、同社では営業活動と技術情報の整備や共有化が十分に図られていないという問題を抱えていた。
 一方で石油樹脂等の素材市場はほぼ成熟しており、その中で利益を確保するためには既存取引先における自社製品のシェア拡大、特に新製品の拡販に当たっての用途開拓が重要な課題となっている。同社ではこれを実現するために“パイロット営業”と称するサンプリング法を採用し、これを積極的に推進してきた。しかし、1人の営業スタッフが配布するサンプルは半年間で100件以上にも及び、しかも、同じ顧客に数種類のサンプルを出荷するなど、サンプル出荷の実態は複雑を極める。さらにサンプル到着から取引先企業が実際に試用するまでにタイムラグがあったり、試用後の取引先の反応がさまざまで、サンプル配布後のアプローチ方法も体系化されていない状況にあった。このような中で同社では、このサンプル出荷に関わる情報のスピーディな整備と社内での共有化、そして情報の活用と展開が大きな課題として浮上してきた。
 同時に同社では、営業に必要な情報を社内でしか閲覧できないことが、営業スタッフが顧客を訪問する時間を制限しているという問題もあった。顧客に会っている時間は、営業スタッフの就労時間の2割程度という調査結果を踏まえて、同社では現社長就任と同時に6年前から、業務改革の一環として、顧客との対面時間の拡大を目的にモバイル・システムの導入を進めてきた。しかし、当初のシステムでは営業スタッフがほしい情報を得られ、その使い勝手を十分認識するには不十分であった。
 そこで同社では、営業に関わる情報の一元管理と共有化を可能にし、さらに営業スタッフがモバイル環境で使用できるシステムの導入を検討。そしてそれを実現するツールとしてSFAが選択されたのである。
 導入に当たっては、すでに導入している同社のエクスチェンジ・サーバ上で稼働すること、モバイル環境での使用実績があること、低価格であることの3点から数社のシステムを検討し、最終的にピボタル・リレーションシップを採用。1997年11月に導入を決定、約2カ月をかけてシステムをカスタマイズし、1998年2月にまずは同社の化成品事業部でSFAの稼働を開始した。カスタマイズに当たっては販売報告書、サンプル出荷の管理、クレーム管理の機能を重視。これには同社の関連会社でシステム全般のインテグレーションを手がけるゼオン情報システム(株)が携わった。

【図表1】日本ゼオン(株)のシステム構成イメージ

営業の効率化で顧客満足が向上

 現在、SFAシステムを活用しているのは、同社の化成品事業部。ここで仕事に携わる営業と技術のスタッフが、システムによって一元化された訪問記録、サンプル出荷履歴、競合他社情報、クレーム情報などを共有している。このうちの半数弱が、モバイルを利用している営業スタッフだ。同事業部の営業拠点は東京と大阪と名古屋に、研究所と工場は川崎にある。本社と営業拠点、研究所のデータは別々のサーバで管理されているが、データは10分ごとに同期処理されているので、最新の情報がリアルタイムで入手できるようになっている。
 導入の効果としては、報告書など営業情報の一元管理により、たとえば以前から月1回の定例会議で情報交換をしていたが、現在では日頃から情報が共有化されているので会議がより有益なものとなったほか、個々の営業スタッフの報告書を見た上司が、画面にコメントを入力して指示を出す機能を持たせているので、案件処理が素速く行えるようになった。
 顧客情報についても、相手先企業の本社購買部門、研究所、工場などのそれぞれの担当者ごとに、いつ、どのような用件でコンタクトを取ったかをデータ化して管理できるようになったので、同社からのアプローチ状況が一目でわかるようになった。遠隔地の営業情報も即時に閲覧できる。このほか、名刺管理やスケジュール管理など、従来使用していた携帯端末上の機能もそのまま同システムに取り込むことで、担当者が代わる場合の引き継ぎも確実に行えるようになったという。
 導入2カ月目でその利用効果がすでに見えはじめ、営業スタッフが機能強化の希望を提案してくるなど、有効性を認識できるツールとして受け入れられている。
 一方で、これまでは個別のデータベースをそれぞれが使用していたため、コミュニケーションが十分取り切れていなかった技術部門との連携がスムースになり、クレームにも素速く対応できるようなった。サンプル出荷についても、システムに組み込んだことで、サンプルごとの出荷先やサンプルに対する取引先の評価をチェックすることが可能になっている。
 情報の共有化により、顧客への対応も正確さを増すとともにスピードアップ。顧客満足度の向上にもつながったほか、営業スタッフの顧客との対面時間も徐々に増えてきた。
 同社ではSFA導入の効果を高く評価しており、今後ますますシステム活用を深化したい考え。単なる情報蓄積ではなく、蓄積した情報をもとに製品ごとにターゲットを絞り込んだり、新しい用途の提案を行うなど、情報の分析・活用へと、より戦略的なシステム活用を推進している。
 さらに、現在は化成品事業部のみで活用されているこのシステムを、将来的には全社的に展開していきたいとの意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年5月号の記事