販売チャネルのシナジー効果でブランド力を強化

野村證券(株)

インターネットでも店頭同様の顧客待遇

 業界最大手の野村証券(株)が、インターネットによるオンライン証券取引「野村ホームトレード」を開始したのは1997年1月27日。「野村ホームトレード」は、店頭に出向いたり、電話をかける時間のない顧客や自分のベースで資産運用を行いたい顧客を対象にした、同社の「証券総合サービス」のひとつである。基本的なサービス受付時間は、平日・土曜の午前6時から翌午前2時までと日曜・祝日の午前8時から翌午前l時まで。
 「野村ホームトレード」の口座数は1997年末に約2,500件、98年末に約7,500件と、ここ1年間で約3倍ほどの伸びを見せ、1999年2月末時点では8,320件に達している。
 オンライン証券取引は、基本料、情報提供料、保護預り料などは無料、あるいは低額の場合が多く、口座の管理も本社などで集中して行っているが、「野村ホームトレード」の場合には必ず同社の支店に口座を開設する必要があり、口座開設に当たっては、情報提供料を含む基本料年間1万2,000円と、保護預り料年間3,000円を徴収しているのが大きな特徴だ。つまり店頭の顧客と比較してコスト的なメリットはない。顧客層も店舗と変わらず、30代から50代の男性が中心。ただし店頭の場合、30代後半以降の利用顧客の年代別比率はほぼ一定であるのに対して、「野村ホームトレード」利用客では60代以上で、その割合が大きく落ち込むという傾向が見られる。
 同社が「野村ホームトレード」の利用客を店頭利用客と格差なく扱っているのは、「野村ホームトレード」を、店頭、営業マンといった従来の販売チャネルと同等に並ぶ、新たな販売チャネルとして位置付けているためだ。他社のオンライン取引との差別化ポイントは、価格面ではなく売買の自己判断を手助けするクオリティの高い情報提供と、充実した資産管理ツールにある。
 「野村ホームトレード」では株式をはじめ転換社債、株式ミニ投資など店頭同様の豊富な商品を揃えているが、顧客の8割が株取引を行っているため、顧客の的確な判断を促すアドバイス機能としての質の高い情報提供が欠かせないものとなっている。
 そこで、「マーケットフラッシュ」「野村週報」「マンスリーレター」「月刊資産形成」といった情報メニューを用意。同社の投資情報部、金融研究所、野村総合研究所のレポートがその情報源となっている。
 また、現状では株取引が中心とはいうものの、将来的に資産運用の手段としてオンライン証券取引が一般化すれば、ユーザー層も広がり、株式運用からスタートした顧客が投資信託などに運用の幅を広げていくという、これまでとは逆の流れが活発化することも十分考えられる。そこで「野村ホームトレード」では、人気のUS-MMFのほか、株式型投資信託38本101コースを揃え、幅広いラインアップを誇る。
 資産運用ツールの名称は「アセットレビュー」。これを使えばいつでも好きな時に投資状況、預り資産明細、取引明細のほか実現損益や利益分配金等の明細を確認することができる。中でも利用者に評判がいいのは、自分の資産配分を商品別、通貨別に円グラフにして見ることができる資産配分状況画面である。このほか過去の履歴については、確定申告時に前年の1月から12月までの状況を確認するといった使い方を想定して、15カ月前まで遡れるようにするなど、きめ細かい配慮がなされている。

セキュリティ面を重視

 同社が「野村ホームトレード」の開設に当たって最も重視したのは、セキュリティ面の強化だ。テレホンバンキング、ホームバンキングなどにおいては、銀行業界として、一定水準を保つ厳重なセキュリテイ・システムの導入が進められているが、オンライン証券取引にはそうした基準もなく、各金融機関が個別に取り組んでいるのが実状だ。こうした中で、オンライン証券取引の信頼性を高めるために、同社はセキュリティに万全を期す努力を重ねてきた。そこで開始以来「プロパイダ認証方式」を採用し「BIGLOBE」 と「ニフティサーブ」の2つのプロバイダ経由に限りホームトレードを行ってきたという経緯がある。しかし1998年3月からは「なりすまし」や「盗み見」を完全に防止する「電子証明書」の機能を採用することによって、すべてのプロパイダで取り引きが可能となった。これを機に口座数の伸び率の加速が見込まれるところである。

野村謹券のホームページにある「ホーム卜レド」の画面

野村謹券のホームページにある「ホーム卜レード」の画面

 「野村ホームトレード」は兼任スタッフ2名が担当し、資料請求や口座開設の申し込み、問い合わせのメール対応などの業務に当たっている。メールは1日平均15~20件ほど届く。現在、投資相談等については、顧客が口座を開設している支店が電話対応を行っている。
 同社では「野村ホームトレード」を、これまでの販売チャネルでは実現できなかった、正確な広告効果測定を可能にするための、メディア・マーケテイングの実験の場としても活用している。現在、「野村ホームトレード」の告知にはパナ一広告、インターネット専門誌、パソコン専門誌、マネー誌、新聞を利用しているが、今のところ資料請求者の約7割がパナ一広告経由であるという。

きめ細かいサービスの充実を推進

 株式取引の手数料が自由化される10月に向け、オンライン証券取引市場には海外、または異業種からの参入が予想され活況を見せている。同社は業界そのものの拡大が期待されるとの観点から、こうした事態を歓迎している。手数料を下げるか、あるいは手数料を下げずにサービスの充実を図るかを各社が模索している中で、同社は顧客に選ばれる金融機関となるために、今後もサービス体制の手綱をゆるめず、ユーザー・ニーズを的確につかんでサービスの拡大を進めていく方針である。
 同社では年に数回、ウェブ上でユーザーへのアンケートを実施しており、これまで顧客から、「プロパイダを拡大してほしい」「預り金額に応じて基本料などを下げてほしい」などの要望が寄せられた。プロパイダについては電子証明書による認証方式を採用することで解決したが、たとえば預り金額による基本料等の段階化は今後検討していきたい課題のひとつ。従来の日本の金融機関の優良顧客への特別待遇は不透明な部分が多く、それが返って顧客の不信を招いていたが、インターネットを活用し、たとえばシティバンクのように取引内容に応じたサービス・レベルをオープンにすることで、顧客ロイヤルテイの向上を実現できるものと同社では考えてい る。
 また「自分の持っている株について知りたい」との顧客の要望が強いことから、同社や関連会社が保有している情報を基に、その顧客が持っている株式についての情報を提供するサービスも構想中。資産運用ツールには、ライフプランに即したシミュレーションを行えるものを加えたいとしている。
 このほか投資などに関する相談についても、環境が整い次第、メールや電話によって応じていきたい考えだ。
 現在はホームページ上から直接「野村ホームトレード」の申し込みはできないが、これには法令等による本人確認書類の受け入れや、署名捺印が必要とのガイドラインが背景となっている。こうした規制が緩和されれば、将来的にはオンラインでの申し込みも受け付けたい意向。
 全国134支店を起点とした営業ネットワーク、そしてここで築き上げた“野村”のブランド力こそが同社の強みだ。「野村ホームトレード」においてもこのブランド力を培い、店舗、営業マンなどの他チャネルとのシナジー効果により、総合的な“野村”ブランドの価値をさらに高めていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年4月号の記事