170拠点のディーラーと連携をとりお客様の要望に対応

ビー・エム・ダブリュー(株) (BMW Japan Corp.)

明確な企業姿勢を示すために

 ビー・エム・ダブリュー(株)では、1987年9月から、専任担当者1名を配置し、顧客のクレーム対応に当たってきた。寄せられるクレームの主な内容は、自動車の故障に関するもの。同社の中心顧客層は車好きの40代男性。こだわって選んだ愛車が故障したとなれば、落胆や怒りの度合いも大きい。同社の販売拠点は全国に約170カ所あるが、顧客のすべてが正規ディーラーを通して製品を購入しているわけではないこともあり、輸入元としてこのようなクレーム、問い合わせを受け付ける窓口を設ける必要があったのだ。その後、人員を拡大し、1990年には数名の専任担当者を置いて、大代表番号を経由して回ってくる電話に対応していた。
 同社ではこのようなクレーム、あるいは顧客や見込客から寄せられる声を、企業を代表して責任を持って受け止め、対応する部署を設置する必要性があると考え、1991年10月、社長直轄の部署としてお客様相談室を開設。同時に受付窓口に2回線のフリーダイヤルを導入し、番号の告知を開始した。これには、販売活動の支援という意味合いもあった。ディーラーは名称に必ずしも“BMW”のブランド名を付けていないため、見込客にはわかりにくい。そこで同社が窓口となって、ディーラーを紹介しようというわけだ。
 現在、お客様相談室はサービス部門であるアフターセールスグループの中の一組織となっている。
 販売活動の支援については、数年前、マーケティング部の管轄の下に「BMWディスカバーコール」の名称でコールセンターを設置。テレマーケティング・サービス・エージェンシーである(株)ベルシステム24への業務委託で運営されているこのコールセンターのフリーダイヤル番号は、新聞・雑誌に出稿する広告で告知。広告へのレスポンスを受け付け、製品カタログを送付するのが、ここでの主な業務だ。また「BMWディスカバーコール」は、試乗優先権を提供するといったキャンペーンの期間中にはその専用デスクも兼ねるため、コールの繁閑が激しいことが特徴になっている。
 一方、お客様相談室は、より幅広い“広報”の窓口と位置付けられている。フリーダイヤル番号は、新聞や雑誌に掲載されるパブリシティ、広報室が発行するプレスリリース、取扱説明書をはじめとする既存顧客に配布する文書に記載して告知される。アフターセールスグループの管轄下にあると言っても、決して既存顧客だけを対象としているわけではなく、実際には見込客からのアクセスが約90%を占め、中には顧客から修理を依頼された工場からの問い合わせなどもある。

「3シリーズ」のカタログと取扱説明書。ユーザーが常に自動車に積んでおくこの取扱説明書の巻末には、お客様相談室のフリーダイヤル番号が明記されている 「3シリーズ」のカタログと取扱説明書。ユーザーが常に自動車に積んでおくこの取扱説明書の巻末には、お客様相談室のフリーダイヤル番号が明記されている

「3シリーズ」のカタログと取扱説明書。ユーザーが常に自動車に積んでおくこの取扱説明書の巻末には、お客様相談室のフリーダイヤル番号が明記されている

経験に基づいて“納得のいく”説明を

 お客様相談室のスタッフは、人材派遣会社から派遣された女性スタッフ2名と、同社の男性社員3名。問い合わせ・クレームのほとんどは電話を介したもので、FAX、郵便、訪問によるものは稀である。電話の受付時間帯は平日の午前9時から午後5時30分までだ。
 月平均の受付件数は約1,200件。広告に「BMWディスカバーコール」の電話番号を記載するようになってからコール数は安定しているが、製品の無料回収修理を行う「リコール」期間などには2,000件を上回ることもあり、このような場合には一時的に回線、人員を増やして対応している。電話の内訳は、問い合わせが約80%、カタログ請求と苦情が各々約10%の割合。問い合わせの内容は、製品のプライスやサイズ、ディーラーの案内、修理相談、部品に関するものの順に多い。
 対応には独自に構築したコンピュータ・システムが活用されている。これには製品カタログ、取扱説明書、サービスブックなどの内容が取り込まれており、一次受付の女性スタッフは必要な情報を検索しながら問い合わせに対応。ここでの即答率は約80%に上っている。
 一次受付で回答できない場合には、二次受付に電話を転送。応対に当たる3名のスタッフは、いずれも自動車の販売および修理の経験を持つベテラン社員。お客様相談室には新製品情報などがいちはやく入ってくるとはいうものの、この情報を咀嚼し、一般の顧客にわかりやすく伝えるには、対応者の知識や経験がモノを言う。それでも納得しない相手に対しては、関連部署と連動をとって、解決策を講じ、折り返し電話をかけるという措置を採っている。
 一次受付スタッフの採用に当たっては、電話応対における印象が良いことに加え、自動車に関する知識を重視している。技術的な知識までは要求できないとしても、少なくとも運転免許証があり運転する楽しさを知っていることで、お客様との共感を深めることができる。また、ある程度の社会経験があり一般常識を身につけていることや、嫌な電話を受けたあとにすぐ気持ちの切り替えができることなどもポイントに置いている。採用後は自動車一般について、BMWの製品やコンセプトについてのレクチャー、およびOJTを約1週間かけて実施し、新製品が発売されるごとにその説明会を行ったり、実車に触れる機会を提供して、知識の充実や自己啓発を図っている。

ディーラーと協同で要望に対応

 相談内容はまず、紙のフォーマットに記入する。これは、コンピュータ入力をしながらでは聴くことに集中するのが難しいため、たとえ同じ内容の質問であってもお客様の要望はひとりひとり異なるといったように、電話の内容がその場ですぐ分類できる単純なものではない場合が多いといった理由による。
 システムへの入力は、電話を切ったあとに行う。個々のお客様の要望に責任を持って対応する必要があることから、氏名や電話番号、担当ディーラーをはじめ、できるだけ多くの情報を聞き出し、システムに蓄積するように心がける。お客様相談室には、顧客情報が蓄積されたホスト・コンピュータに接続された端末も設置されており、必要に応じて問い合わせをしてきた相手の情報を引き出し、相談内容と併せて関連部署やディーラーに伝達している。
 たとえばカタログ請求に対して、お客様相談室のスタッフはその発送手続きをとるとともに、担当ディーラーに「カタログを送付したのでフォローしてほしい」旨の情報を、コンピュータ・システムからFAXで自動送信する。この時、ディーラーが無駄な動きをしないで済むよう、以前のコミュニケーション履歴をチェック。何度も重ねてカタログ請求をしているマニアなどの場合には、カタログは送付するがディーラーには連絡しないという措置を採る。ディーラーのアプローチ結果は2週間以内にお客様相談室にフィードバックされ、顧客ファイルが更新される。
 相談内容を蓄積したデータベースからは、検索キーワード、あるいはフリーワードで関心のある情報を引き出せるようになっている。ここに蓄積された情報は月ごとに集計され、月報としてまとめて、社長を含むマネジメント層に配布される。たとえば担当のエリア・マネージャーは、この月報に基づいて、クレームが起こりがちなディーラーに対して忠告を与えるといった方法で情報を活用している。大きな問題に発展しそうな事柄については、経営トップが出席するミーティングの席上で報告する。
 またお客様相談室のスタッフは、クレームの発生を未然に防ぐため、“ファースト・コンタクト”となるディーラーに適切な初期対応を指導する定期的な研修の場で、クレームの実例を引きながらレクチャーを行う。そのほか、頻繁に寄せられる問い合わせや、基本的かつ重要な事柄に関しては、お客様相談室でパンフレットを作成し、新車納品の際に、また、ディーラーを通じて配布している。

ひとつずつ、ユーザーの要望を実現

 同社の場合、製品開発部隊はドイツ本社内にあり、直接本社との連携をとる部署はお客様相談室とは別個に存在していることなどから、たとえば商品開発に顧客の声が反映されるまでにはいくつもの段階を踏む必要がある。そうして実現された商品・サービス改善の例として、たとえば6年前に開始した「サービス・フリーウェイ」が挙げられる。これは「整備にかかる費用が高い」という声に応えて、購入時に一定金額を支払えば、3年間、定期点検と破損した部品交換を自由に行えるというサービス。また、取扱説明書やカタログの改善には、こまめに顧客の声が生かされている。ドリンク・ホルダーやナビゲーション・システムの改善についても、今後、顧客の声に耳を傾けながら、実施していきたいとしている。
 「今まで聞こえなかった声が、確実に届くようになっている」(お客様相談室 室長 中村克明氏)ことを同社は実感している。これを、日本のユーザーに合った製品の開発・供給に確実に結び付け、顧客満足度を向上させたいというのが同社の考えだ。
 今後は、Eメールによる顧客の声の収集が課題。Eメールでの相談受付への期待が高まっていることは承知しているが、その受け付けを開始するには、まずそれにスピーディーに応えられる体制を整備する必要がある。
 また、電話での受け付けについても、キャパシティを拡げたい考え。電話が話し中になることも多いのが現状で、人員と回線数を増やせば、より多くの生活者の声が収集できることは間違いない。そのためにまず、「お客様相談室の業務内容を再度、検証し、業務範囲を明確にした上で、それに見合った受付体制を構築していきたい」(お客様相談室 主任 巻波浩之氏)と同社は考えている。

お客様相談室が作成した、安全なドライブの推進のための「BMW Safety Book」。現在、全新車に搭載して配布している。この最終ページでお客様相談室のフリーダイヤル番号を告知。
このほか、修理などのサービス内容を案内する「サービスブック」の巻頭にも、お客様相談室の電話番号を記載。その対向ページは問い合わせに必要な車種番号などを記入する欄になっており、困った時にすぐ、ページを開いて電話がかけられるような配慮がされている お客様相談室が作成した、安全なドライブの推進のための「BMW Safety Book」。現在、全新車に搭載して配布している。この最終ページでお客様相談室のフリーダイヤル番号を告知。
このほか、修理などのサービス内容を案内する「サービスブック」の巻頭にも、お客様相談室の電話番号を記載。その対向ページは問い合わせに必要な車種番号などを記入する欄になっており、困った時にすぐ、ページを開いて電話がかけられるような配慮がされている

お客様相談室が作成した、安全なドライブの推進のための「BMW Safety Book」。現在、全新車に搭載して配布している。この最終ページでお客様相談室のフリーダイヤル番号を告知。このほか、修理などのサービス内容を案内する「サービスブック」の巻頭にも、お客様相談室の電話番号を記載。その対向ページは問い合わせに必要な車種番号などを記入する欄になっており、困った時にすぐ、ページを開いて電話がかけられるような配慮がされている


月刊『アイ・エム・プレス』1999年2月号の記事