“顧客”を中心に据えたマーケティング展開を目指して

(株)住友銀行

与信にデータマイニングを活用

 金融ビッグバンの最中、マーケティングの見直しが進む金融業界にあって、(株)住友銀行は最も早くからMCIF(Marketing Customer Information File)の構築に取り組んだ銀行のひとつだ。このMCIFは段階的にシステムを拡張してきたが、昨年から今年にかけて大きな変更が加わり、この10月に新たなフェーズの完成を迎えると、いよいよ顧客データの本格活用が開始されることになる。
 これに先立ち、同行ではこの4月から、約2年間を費やして開発した「自動審査システム」の活用を開始している。これは、過去のローン利用者の属性、および返済状況に関する情報を、データマイニングの手法を使って分析し、この結果からモデルを作成。ローン申込者の属性データをこのモデルに当てはめ、返済能力の有無を客観的に判断する仕組み。以前は書面を顧客から同行へ、さらに保証会社へと郵送で送り届ける必要があったためにタイムロスが大きかった。また、保証会社では、書面のデータを種々の信用情報データと1件1件つき合わせていたため、作業が煩雑だった。自動審査システムを用いることによって、データ分析そのものが自動化したばかりでなく、同行と保証会社との間の審査データのやり取りがオンライン化したため、審査にかかる期間が1週間から2日へと、大幅に短縮した。
 また、自動審査システムの導入によって、これまで担当者によってまちまちだった判断基準が統一できた。開始後6カ月の現在、審査の精度がどれだけ向上したかについての結論は出ていないが、審査のルールが明確であることから、一定期間を経た後に結果を科学的に検証し、さらなる精度向上を図っていけるのが自動審査システム採用の大きなメリットだ。

“カスタマー・リレーションシップ・マーケティング”推進のために

 前述した同行のMCIFは、図表4のような構成になっている。
 取引内容を記録する勘定系データベース、店舗別、商品別の売り上げなどの経営管理情報や、定期預金の満期案内といった業務上、必要な書類を作成するための情報系データベースに加え、今回追加されたのは分析データベースとセールス・データベースの2つ。97年12月に完成した分析データベースには顧客ごとの取引情報が蓄積されており、有用なマーケティング・データを引き出すためのデータマイニングはここで行われる。セールス・データベースは支店、テレホンバンキング、テレマーケティング、DMなどのさまざまな顧客接点で顧客情報を活用し、かつ、それらの接点で得られた新たな情報を入力・蓄積するためのもの。アプローチに対するレスポンスや意見・クレームといった定性情報もここに蓄えられる。97年6月のテレホンバンキング開始時点に、すでにテレホンバンキング専用のセールス・データベースはでき上がっているが、これにすべての顧客情報が登録され、全チャネルでこの情報を活用できるようになるのは、98年10月の予定だ。
 これまで支店の担当者だけがつかんでいた、あるいは、チャネル別に管理されていた顧客情報を一元化することによって、たとえば前日にテレホンバンキングで定期預金の申し込みをした顧客が来店されたら「昨日はありがとうございました」とお礼を述べることができる。支店でおすすめした時に「外貨預金には興味がない」と意志表示をした顧客に、再度ダイレクトメールで同じ商品をおすすめするといったロスがなくなる。MCIFが目指しているのは、ひとりひとりの顧客が、いつでも、どこからでも「大切にされている」「自分のことをよく理解してくれている」と実感できる体制の構築だ。
 これを実現するために同行が充実させようとしているのは、まず、「どんな顧客か」に関する情報。これには属性のほか、資産やリスクプロファイルについての情報も含まれる。もうひとつは「どんな経緯か」についての情報、すなわちコミュニケーション履歴である。

“個”客の資産形成コンサルタントとして

 ではこの情報はどのように活用されていくのだろうか。
 システム完成を急ぐと同時に、同行は今、個人顧客に向けたコミュニケーション戦略を根本から見直している最中だという。これまでにも同行では、顧客属性に基づいたダイレクトメールや電話による個別のアプローチを実施してきた。たとえば、年金受給年齢を迎える顧客に対しての年金振込口座指定のおすすめなどである。しかし同行が今後、目指そうとしているのは、より詳細な情報に基づいたワン・トゥ・ワンのアプローチだ。
 顧客セグメントの軸に据えているのは、同行との取引額ではなく、同行以外の金融取引や将来性を含めた「ポテンシャリティ」と、金融行動やライフステージなどの「ビヘイビア」。これをもとに顧客を「プライベート・バンキング層」「中資産層」「一般個人」にグルーピングし、それぞれに合ったチャネル、商品を提供していく。さらに、個別の対応として、「プライベート・バンキング層」を中心に、相談業務に力を入きたい考えだ。
 「これまで行ってきたダイレクトなアプローチは、まず先にプロダクトがあり、それをダイレクトメールや電話を通してお知らせするというものが主体でした。今後ははじめに顧客があり、ひとりひとりの要望に沿った商品をトータルにご提案するという方向に、大きく転換しようとしているのです」(個人業務部 次長 徳田一氏)。そのためにもまず、顧客を知ることが重要だというわけだ。
 子どもが私立中学に入学したという情報があれば、3年後に私立高校に進学するという予測が立つ。これがコミュニケーションの糸口となり、コミュニケーションによってさらに詳細な情報を知ることができる。MCIFを通じて分析、活用を繰り返すことによって、顧客情報の精度はますます高まっていくのだ。
 同行の顧客志向のマーケティングは、今、始動したばかり。顧客との信頼関係の構築、同行の利益拡大にMCIFがどのように貢献していくのか。今後の動きに注目したい。

【図表4】住友銀行のMCIFシステム構成


月刊『アイ・エム・プレス』1998年10月号の記事