ひとりひとりの“眠り”にフィットする枕を見て、触って、使って選べる

ロフテー(株)「枕工房」

睡眠に関する総合的な研究を進める「快眠スタジオ」

 ロフテー(株)の前身、(株)三芯商會の創業は1928年。帯の芯地のメーカーとしてスタートした。
 創業者である前会長、故・磯貝龍利氏は不眠に悩んでおり、出張の際などには普段から使っている枕を持参するほどだった。起業家精神に富むアイディアマンでもあった同氏は、睡眠に関する研究を重ね、1953年、圧力や摩擦によって劣化しやすい中央部分を補強した「中央厚織シーツ」を開発。これ以降、同社は寝具メーカーとして知名度を高め、現在に至っている。
 近代社会は、人々に次々と新しい楽しみや利便性を提供し続ける一方で、健康に関するさまざまな弊害も生んできた。そのひとつの表れとして、「眠れない」「睡眠に満足感を得られない」と訴える人々が増えている。
 “新しい価値を創造して社会に貢献する”ことを企業理念に掲げる同社では、1989年に「快眠スタジオ」を設置した。これは、人間工学や医学といった科学的側面や、文化人類学や民俗学といった文化的側面から睡眠の研究に取り組んでいる何人もの専門家と協力関係を結び、睡眠に関する総合的な研究、および商品開発を推進する部門である。
 この研究の成果として生まれたのが、個々人の体型や好みに合わせて高さや素材を選べる「快眠まくら」だ。約5年前から百貨店の店頭で催事を開催し、ここでテスト的にコンサルティング販売を開始した。これによって得られた数千人の利用者の確かな手応えと、そのデータ、生の声を踏み台に、同社では96年4月から、「快眠まくら」のコンサルティング販売を行う常設のコーナー、「枕工房」を全国の百貨店内に設置してきた。北は札幌市から南は鹿児島市まで、現在、「快眠まくら」のコンサルティング販売を実施している百貨店は47店舗。本社ビルに設置されたショールームを合わせ、48拠点で「快眠まくら」の販売を行っている。

「快眠まくら」の注文も受け付けているロフテー(株)のショールーム。壁面には何十種類ものサンプルが並び、中央にある棚の裏側にはベッドが備え付けられている

「快眠まくら」の注文も受け付けているロフテー(株)のショールーム。壁面には何十種類ものサンプルが並び、中央にある棚の裏側にはベッドが備え付けられている

約20分で最適な組み合わせが決定!

 「枕工房」は百貨店の寝具コーナーの一角に設けられており、5〜20坪のスペースには、実際に枕を試すことのできる1〜数台のベッドが置かれている。コンサルティングに当たる“ピロー・フィッター”は、睡眠や寝具に関する基礎知識を学んだロフテー(株)のスタッフだ。
 お客様はまず、同社が特許を持つ頚椎測定器で、最適な枕の高さを示す値である頚椎弧を測る。と同時に、「就寝時間」「平均睡眠時間」や枕の好みの柔らかさ、使用している敷寝具の柔らかさなどを問う、約15項目のアンケートに答える。これをもとにピロー・フィッターが最適な枕をチョイス。これを実際にベッドで試した後に、購入を決定するという手順になる。ここまでにかかる時間は、平均して約20分という。
 特許を持っている「快眠まくら」の最大の特徴は、枕の中身を構成するユニットが5つに分かれていること。ひとつのユニットで構成されている通常の枕は、最も圧力がかかる首側の詰め物が中心に寄ってしまい、安眠が阻害される。ユニットを分割し、中心部分の詰め物を減らしてやや低くすることで、一晩中、最適な高さを維持することができるのだ。頚椎弧の高さは「1〜2cm」「2〜3cm」「3〜4cm」「4〜5cm」「5〜6cm」の5段階。詰め物の素材は、「羽根」「パンヤ」といった柔らかめのものから「そばがら」など固めのもの、また、「備長炭」や「竹」などの伝統素材を含め、14種類。計70種類の組み合わせがある。
 開発当初は、百貨店の寝具売り場の中心顧客層である40〜50代の女性をターゲットとしていたが、蓋を開けてみると購入客は30代の男女が最も多く、20代も少なくない。男女比は約6対4だ。広告活動は一切行っていないが、一般紙の家庭欄や、夕刊紙、テレビ、男性ファッション誌の「ストレス解消グッズ」特集号などで紹介されるケースが多く、過去5年間、1.5倍のペースで売上個数を伸ばしてきた。「枕工房」は土・日曜日には1時間待ちとなるほどの賑わいを見せている。
 購入後の問い合わせは、店舗のほか、「快眠スタジオ」でも電話で直接受け付ける。顧客からは「肩凝りが和らいだ」「いびきが治った」といった声が多数寄せられており、リピーターの割合も高い。
 顧客データは各百貨店と同社とで管理。その活用方法は店舗ごとの取り決めによって異なるが、天然素材なら1〜2年、化学素材なら3〜4年の買い換え時期に合わせて、また、催事や新商品の発売ごとに、百貨店、あるいは「枕工房」からダイレクトメールを送るといったような使い方がなされている。

十分な説明機能で顧客満足を獲得

 人によって硬さや素材の好みが激しい枕は、もともと「同一商品を、マーケットにあまねく売る」というプロダクト・アウトの発想からは遠い商品だ。ひとりひとりに合う枕をオーダーメイドであつらえるのが理想的だが、価格との折り合いという面から、フルオーダーは難しいと同社では見ている。
 たとえば同社では、過去に、クイーンサイズ、キングサイズのベッドに合う寝具をわざわざ海外から取り寄せているお客様が多いと聞いて、寝具のフルオーダー・サービス実施に向けてシミュレーションをしたことがある。「ところが日本の寝具メーカーで使用している織り機はこの規格に合わない。海外から生地を取り寄せることを検討したのですが、とても高額になってしまうことがわかり、商品化を見合わせたことがありました」と快眠スタジオ 商品開発担当 石井一枝氏は言う。
 数十種類に選択肢を絞った「快眠まくら」の価格帯は6,000円から2万6,000円まで。決して安価ではないが、ピロー・フィッターが1対1で要望を詳しくうかがい、最適な商品をピックアップし、十分に説明することによって、価格面からも、パーソナル・オーダーという意味合いからも、お客様の満足を得ることは十分可能だと同社では考えている。
 詳しい説明ができるという点で、枕は通信販売にも適した商材だ。同社の枕はテレビショッピングやカタログ通販で取り扱われ、こちらも好調な売れ行きだ。通販ではほかに、売り場では目立たないガーゼのパジャマなども販売されており、通販による売り上げは、総売上高の約10%を占めるという。ただ、通販では、手触りや使い心地を試すことができないため、個別のオーダーには応じきれない。「快眠まくら」は今後も対面販売のみで提供していく意向だ。
 同社では毎月1度の割合で生活者のグループ・インタビューを開き、生の声を収集して商品開発に反映させている。大ヒット商品となったボディピロー(抱き枕)も、ここで聞かれた意見に基づいて開発されたものだ。パーソナル・オーダー商品については、「快眠まくら」に続き、好みの硬さと素材を選べる「快眠マット」を開発し、販売中。
 同社はひとりひとりにぴったりの寝室環境を提供するために、今後も睡眠に関する総合的な研究を進め、その成果を結集した寝具を開発していきたい考えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』1998年8月号の記事