“読者の目”で紙面を徹底チェック

(株)読売新聞社

問い合わせ受付に記事データベースをフル活用

 メーカーや流通業の“耳”がお客様相談窓口だとすれば、情報を扱う新聞社のそれは、読者相談室である。新聞社はニュース提供機能のみならず、自らの主張を持っており、情報の受発信、すなわちコミュニケーションそのものをビジネスとしているという点で、相談窓口の意味合いも、ほかの業種とはかなり異なっていると言えるだろう。
 (株)読売新聞社の読者相談室の受付時間は日・祭日を除く毎日午前10時から午後9時まで。一般加入回線10回線を用意し、10人のスタッフがシフトを組んで、掲載記事に関する問い合わせに対応している。ここには1日平均120本の電話が寄せられるが、その約40%は「こんな頃、こんな記事があったはずだが…」「掲載されていた企業(団体)の連絡先を教えてほしい」といった問い合わせ。あらかじめ反響が大きいと思われる記事・企画については、掲載紙が顧客に届くまでに担当取材部から対応に必要な情報が伝達されているので、これをもとに回答。それ以外については、主に、データベース部が作成する記事データベースが活用されている。何種類もの検索キーワードを使い、茫漠とした質問にも迅速な対応がなされる。中でも反響が大きいのは医療に関する企画。病気の悩みを抱えた読者から、掲載された病院や患者の会について詳しく知りたいという切実な電話が数多く寄せられる。
 意見や苦情電話も多く、全体の約20%の比率を占める。「あの記事の内容は納得できない」「自分はこう思う」「あの内容はこんな切り口で取り上げてほしい」といった、定型化できない意見や要望の中に、“特ダネ”につながるような情報が見つかることも決して稀ではないという。

“社内オンブズマン”としての位置付け

 読者相談室の担当スタッフは20年以上のキャリアを持つデスク経験者ばかり。要職にある人々からホームレスにいたるまでありとあらゆる人と接する機会に恵まれている新聞記者は、取材活動を通して、技術とともに生活感覚をたたきこまれる。その豊富な知識・経験が、相談業務において、読者の気持ちや状況を理解するための基盤となって生きてくる。「新聞記者は相手に話を聞くばかりで、聞かれる経験は少ない。そんなこともあってか、『対応が横柄だ』と受け取られることもありますが、庶民の生活感情に添うという点では一般の企業人より優れているのでは、という自負もあります」とは、同社 新聞監査委員会幹事で、読者相談室室長の岡崎孝氏の弁だ。
 同社の場合、読者相談室は社長の直属機関である新聞監査委員会の中にある。新聞監査委員会の役割は「社内オンブズマン」と位置付けられている。

 月曜から金曜まで毎日開かれる記事審査会議では、各部のデスクを集めてその日の記事の善し悪しを、他紙と比較しながら検討。読者相談室に入ってきた読者の意見は、会議の内容ととともに毎週2回、「記事審査日報」にまとめ、各部に配布される。また、早急な対応が必要な場合は随時、担当取材部に引き継ぐほか、取材部の対応だけでは不十分と判断されたものについては、広報部を経由して担当部署に連絡が回る。そのほか、投書は世論調査部、ホームページへのE-mailによる問い合わせはメディア企画局が担当。多くのメディア・経路を通じて、幅広く意見を収集する体制が採られている。
 約1,020万部、3,000万人に上る読者の満足を獲得するために、同社は今日も読者の生の声に耳を傾けながら、自社が発信した情報の質を、さまざまな角度から厳しくチェックし続けているのである。

読者相談室の電話番号を告知する読売新聞の紙面

読者相談室の電話番号を告知する読売新聞の紙面


月刊『アイ・エム・プレス』1998年7月号の記事