「ナンバー・ディスプレイ」の活用で迅速・確実な配車を実現

金港交通(株) 

約200台のタクシーの位置を画面上で把握

 1952年(昭和27年)創業の金港交通(株)(本社:横浜市)は、CTI技術をいち早く採り入れたタクシー会社だ。97年1月にスタートした「ナンバー・ディスプレイ」の試験提供に企業モニターとして参加。これ以降、自社開発のシステムを使い、迅速・確実な配車を実現させている。
 同社のタクシーは横浜市内を中心に、常時約200台が走っている。売り上げの約60%は公道でタクシーをつかまえる不特定多数の顧客によるもの、残りの約40%が無線センターに電話をかけ、配車を依頼する特定顧客によるものだ。CTIの活用に当たって同社が着目したのは、後者である。
 これに先だって同社では95年6月に、緯度・経度が明記された地図情報システム、GPS-AVMを完成させていた。「ナンバー・ディスプレイ」によって得られる電話番号情報と、この地図情報をリンクさせるために、それまで紙で管理していた約1万件の顧客情報をデータベース化。PBX(構内交換機)と、このデータベースを連携させた配車受付システムを作り上げたのである。
 同社の無線センターにかかってくる電話は1日平均700〜800本。無線センターのスタッフは女性3人、男性5人の総勢8人。うち常時2〜3人が待機し、電話を受けるオペレータと配車を担当するオペレータの見事な連携プレーで、平均数十秒で対応が完了する。電話はまずPBXを通り、CTIサーバを介して電話番号をキーに顧客情報が引き出され、オペレータのパソコン画面に表示される。電話番号が通知される割合は約65%。ほとんどがリピーターからの配車依頼であるため、電話番号が通知される限り、大部分が顧客データベースとヒットする。さらにこの情報はGPS-AVM端末に送られ、該当エリアを中心とした詳細な地図が表われる。そこにはエリア内にあるすべてのタクシーの車両番号、進行方向、乗車・空車、あるいは休憩中かといった情報が表示されているので、配車担当のオペレータはこれをもとに、顧客に最も近いタクシーに無線で連絡。連絡がとれると、その車両番号を顧客に伝えるという仕組みだ。
 CTI導入の大きなメリットのひとつは、1本の電話にかかる時間が大幅に短縮できたこと。「受付件数は増加していますが、オペレータ数は増やしていません。お客様にも電話がつながりやすくなったと好評です」と、取締役企画部長の末本栄一氏は語る。

ベージュの車体が目印の金港交通㈱のタクシー

ベージュの車体が目印の金港交通㈱のタクシー

オペレータのストレスが軽減

 CTI導入以前は、顧客から配車の要請があると、無線センターから、街中に設置した無線をキャッチするサインポストを通じて、顧客の近辺にいるタクシーに一斉に情報を伝え、ドライバーからの無線連絡を待つという方法が採られていた。この方法では、オペレータがサインポストの設置場所を正確に知っていることが必要。加えて、顧客に最も近い車が応答してくるとは限らず、顧客に対して大まかな到着時間を伝えることしかできないという問題があった。新システムでは、顧客に最も近いタクシーを確認して直接連絡をとるので、迎車にかかる時間を可能な限り短縮でき、正確な到着時間を伝えられるようになった。タクシーを利用する時、顧客は何らかの緊急な問題を抱えている。待ち時間がわかることは、大きな満足、安心につながるだろう。また、迎車には最大2km分の料金が加算されるが、ごく近い距離のタクシーを配車することによって、顧客の料金負担も軽減することができる。
 以前は「○分で着くと言われたのに、まだ来ない」といったクレームが多く、これがオペレータの最大のストレスだった。新システムはオペレータのプレッシャーを大きく軽減したのだ。また、顧客対応に当たって、土地勘があるといったオペレータの個人的な知識を要求されることもなくなった。ちなみにスタッフは全員、ドライバーとしての経験はないとのこと。
 「ナンバー・ディスプレイ」はトラブル防止に大きな効果を発揮している。これまでは相手の言葉を聞き間違えたり、よく知っている得意客であるために、出先かどうかを確認せずに思い込みで会社や自宅に配車してしまうこともあったという。現在はひと目で自宅なのか、公衆電話なのかを確定することができるため、このようなミスはなくなった。
 顧客データベースには、顧客の氏名、住所、電話番号のほかに、利用頻度や、「小型車不可」「女性ドライバー希望」などの顧客の要望・嗜好が入力されている。誰が電話を受けても、住所を復唱したり、いちいち要望を確認する必要がない。顧客の側からすれば、利用頻度が高ければお得意様意識も強く、一見の客と同じように扱われるのは面白くないものだが、黙っていても自分の好みを汲んで配車してくれる同社のサービスには、目に見えない配慮が感じられて、より一層親近感を持つだろう。このきめ細かい対応が、優良顧客の囲い込みに効を奏しているはずだ。
 さらにCTIは、オペレータだけでなくドライバーの精神的安定にも寄与している。同社が抱える600人のドライバーのうち、36人は女性だが、この車に無線センターに通じる緊急通報ボタンを設置。緊急事態の際に、センターから連絡を受けた近くの車が救助に向かう体制を敷いているのだ。
 顧客対応の品質維持・向上の基本は従業員の精神的な安定と言っても過言ではない。同社はCTIによりスムーズな配車を実現するのみならず、オペレータやドライバーの精神的な支えとしてもこれを活用することによって、質の高い顧客対応を実現している良い例と言えるだろう。

次々と入る電話にスピーディに対応する金港交通㈱の無線センター

次々と入る電話にスピーディに対応する金港交通㈱の無線センター


月刊『アイ・エム・プレス』1998年7月号の記事