営業店とコールセンターが二人三脚で営業活動を推進

安田信託銀行

テレホンサービスセンターが営業店を強力に支援

 長期にわたる資金調達・貸し出しを行い、財務管理の機能も併せ持つ信託銀行では、取引開始に当たって個々の顧客の資産内容や家族のライフステージなどをうかがい、最適な資産運用プランを提案する相談業務を行うのが基本。このため営業活動の工程は複雑で時間もかかるが、一度お付き合いがスタートすると取り引きは長期におよぶのが一般的であり、顧客1人当たりの預金残高も平均数百万円と一般の銀行に比べて格段に多い。しかし当然のことながら、多額の取り引きを末永く維持するためには、顧客に高い満足度を提供できなければならない。
 安田信託銀行の本支店は全国に50店舗。顧客数は約100万人だ。営業店の窓口で、また、営業担当者が客先に出向いて相談業務や顧客サービスに力を入れているとはいうものの、フォローできる範囲には自ずと限界がある。営業担当者は取引額の多い、あるいは今後多額の取り引きが期待できる“富裕層”“準富裕層”を中心に振り向けざるを得ないため、数としては最も多い、これ以外の“マス層”には十分に手が回らないのが現実だった。
 そこで同行では1989年、営業総括部内にテレホンサービスセンターを設け、見込客情報のキャッチと既存顧客へのサービス強化の両面から営業店支援を行ってきた。東京に続き、92年は大阪に、94年には名古屋に、そして96年には札幌、東北(仙台)、九州(福岡)、新潟にセンターを開設。現在この7カ所を合わせ、約150席で展開しているテレマーケティングは、同行の営業活動の中で重要な位置を占めている。

【インバウンド】
営業情報をすばやくキャッチ

 テレホンサービスセンターでは4グループ、5つのフリーダイヤル番号を設けて顧客、および見込客から寄せられる問い合わせなどに対応しているが、これらのインバウンド業務はすべて東京のセンターで一括して受け付けられる。
 まずひとつ目が、新商品を告知する新聞広告、インターネットのホームページ、店頭配布の商品パンフレットなどで案内している「インフォメーションダイヤル」。89年9月のスタート以来、「0120-081506」の電話番号にちなんで“ハッピーコール”の呼び名で親しまれてきたものだ。ここには商品の詳細や各種手続きの方法、店舗の所在地などについての問い合わせのほか、営業店の対応についての意見など、見込客か顧客にかかわらずさまざまなお客様から、多岐にわたる内容の電話が寄せられる。受付時間帯は平日の午前9時から午後9時まで。受付件数は平均して1日200件。ボーナス支給時期に当たる年末や広告出稿直後のコール数は、その倍に膨れ上がる。
 中にはお叱りの電話もあるが、「わざわざクレームを言ってくださるお客様は、安田信託のシンパ」(営業総括部 テレホンサービスセンター室 室長 梶本宏二氏)ととらえ、常に前向きに対処している。どんなに怒っているお客様も、ていねいに話をうかがえばある程度満足し、納得していただける。電話だからこそ本音が聞けるというメリットもある。この「インフォメーションダイヤル」を梶本氏は「投書箱であり、衝撃吸収バンパー」と評する。
 お客様の声は、オペレータの手で、できるだけ加工しない状態で日誌に記される。これを「一字一句逃さず読むことで、お客様のニーズが明確に見えてくる」(梶本氏)という。この情報は週1回レポートにまとめ、役員も交えたミーティングの席上で報告し、サービスや商品改善に役立てられている。また、営業総括部の担当常務との日常的なコンタクトはもちろん、さまざまな部署の担当者から、お客様情報についての問い合わせがあるという。広告やキャンペーンへの反応が最も速く、確実に把握できる部署であるため、広告宣伝グループとの密な連携も欠かせない。
 資料請求のあった優良見込客や、すぐにフォローしないと解約の恐れのある顧客などの営業情報は連絡票に起こし、営業店につなぐ。ニュアンスまで伝える必要がある場合には、重ねて電話でも連絡する。これによって営業店では、無駄のない的確な営業活動が可能になるのだ。
 2つ目のフリーダイヤルは、この4月に開設した、相続、遺言、資産運用などに関する「ご相談専用ダイヤル」。同行では従来から、各営業店で対面での相談受付を行ってきたが、これを電話にも広げたものだ。平日は午前9時から午後9時まで、土・日曜日は午前10時から午後5時まで財務アドバイザーが対応しており、1日平均約10件の電話がある。
 そして3つ目は「ディスクロージャー専用ダイヤル」。同行の経営情報を広くお客様に開示する試みとして、業界からも注目を浴びているという。ここには1日平均約10件の電話が入る。

【テレホンバンキング】
営業店に代わって各種手続きを遂行

 4つ目と5つ目のフリーダイヤルは97年9月に開始した「テレホンバンキングサービス」に関わるものだ。ひとつは同サービスの問い合わせを受け付けるためのもの。もうひとつは契約者にのみ告知し、サービスを実際に提供するためのフリーダイヤルである。
 「テレホンバンキングサービス」のサービス内容は、①定期預金や信託商品の預入・継続などの各種手続き、②残高照会および入出金明細照会、③事前に登録した口座への振込、④財産管理・運用などに関する相談、⑤商品パンフレットや情報誌の請求の5つ。契約料は無料。さらに他行から振り込んだ上で貯蓄商品などに預け入れた場合に手数料の一部がキャッシュバックされる特典が付いている。たとえば100万円預けると、500円のキャッシュバックが受けられる。サービス提供時間帯は、平日の午前9時から午後9時までだ。
 現在、契約者は約1万1,000人で、利用件数は1日平均約70件。問い合わせ窓口には平均して1日に約30件の電話があるという。

キャッシュバックの特典もある安田信託銀行「テレホンバンキングサービス」のパンフレット キャッシュバックの特典もある安田信託銀行「テレホンバンキングサービス」のパンフレット

キャッシュバックの特典もある安田信託銀行「テレホンバンキングサービス」のパンフレット

【アウトバウンド】
年間200万コールを発信

 一方アウトバウンドは、全国7カ所のセンターから発信されている。総コール数は年間約200万コール。そのうち半数強が、関東31カ店の営業店、約40万人の顧客を担当する東京都府中市にあるセンターからの発信だ。
 業務時間帯は平日の午前10時から午後9時まで。まず午後5時までの日中に、もし本人が不在の場合には時間をおいて3回架電するが、これで実通話率は約75%に到達する。それでもつながらない時には午後5時以降に電話をすると、約85%の顧客と話をすることができる。残りの約15%の顧客には、ダイレクトメールでフォローしている。 
 アウトバウンドの内容やスケジュールについては、営業店とともに企画・設計される。ビッグや定期の満期の案内と継続のお願い、新商品やキャンペーンの案内、金利情報の提供などのほか、各営業店が独自に企画するキャンペーンと連動したオペレーションなど、業務内容は幅広い。営業店ごとに担当オペレータを固定し、顧客によってはコンスタントに月1〜2回、電話で話をするため、オペレータと顧客は親しく名前を呼び合う関係になる。話題が家族や社会情勢のことなど広範囲におよび、通話時間が1時間を超えることも珍しくない。このような親密な会話の中から、顧客のニーズが見えてくるわけだ。
 また、企画本部などからの要請を受けて、顧客に対して電話アンケートを行うケースもある。たとえば株式や投信など、どのような運用商品に関心があるかといった内容だ。
 業務に当たって、同行では独自のきめ細かな配慮をしている。たとえば年輩の顧客には、はっきり、ゆっくり話すことを心がける。呼び出しのコールも、たとえば相手が30代なら3回鳴らして出なければ受話器を置くが、動作のゆっくした年輩の顧客が相手なら7回まで待つといった具合だ。
 本人確認にもテクニックが要る。声だけでは本人かその親かといった区別はなかなか付きにくいものだが、金融商品では同じ家族であっても本人以外に取引内容などを知らせてしまうとトラブルのもとになる。満期の案内がすでに郵送で届いているはずなのに、改めて金額を聞かれたら注意するなどの細やかなノウハウも、豊富な経験の中から蓄積されてきたものだ。
 これらアウトバウンドの対象者リストは、勘定系および情報系データを管理している超並列コンピュータからセンターの端末にダウンロード。更新された情報はキャンペーン終了後にホストコンピュータにフィードバックする仕組みだが、迅速な対応が必要な場合、あるいは取引高が一定額以上の優良顧客との対話結果については、翌営業日に営業店に連絡している。

声でリレーションをつなぐ

 テレホンサービスセンター開設に当たっては「果たして電話で顧客とのリレーションシップが構築できるのか」と効果を疑問視する声もあった。しかし今、同行では「実際にそれが実現している」(営業総括部 業務推進役 堀田和巳氏)ことを実感している。それは「お金をかけて、システムを整備すればできるということではなく、お客様と直接話をするオペレータによるところが大きい」(堀田氏)。このため、オペレータの教育には非常に力を入れている。
 テレホンサービスセンターの主戦力は40〜50代の女性。ほとんどがパートで、東京の場合、総勢140人のオペレータが、原則として午前10時〜午後5時と、午後5時〜9時の2シフト制で業務に当たっている。採用後、事前研修として1カ月間、20〜30人のグループで商品知識や話し方を学び、その後はスーパーバイザーによるOJTを実施する。自信を持って業務に臨めるようになるまでには、およそ3カ月間かかるという。その後は定期的にスキルアップ研修を受けるという順序になる。
 研修制度さえ整えれば良い人材が育つというわけでは、もちろんない。「お客様との対話で話題に上りそうな業界動向についての新聞記事の切り抜きを持参したり、いやな電話を受けたあとは隣の同僚に話して気分を切り替えるなど、オペレータ本人の意欲や努力がスキルアップ、モラルアップにつながっている」と室長の梶本氏は評価する。また、「たまたま3本続けてクレームを受けたオペレータには、休憩をとるように指示を出す」(梶本氏)といったマネジメント側の配慮が、オペレータのやる気を支えている面も見逃せないだろう。テレホンサービスセンターに勤めるオペレータの定着率は、非常に高いという。
 「足を組んで話していれば、お客様にはそれがわかってしまう。逆に誠意をこめて話をすれば、それが相手に伝わるのです」(梶本氏)。この誠意が、顧客ロイヤルティの向上を可能にしていくのだろう。

安田信託銀行のコールセンター

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月刊『アイ・エム・プレス』1998年5月号の記事